※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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かつての家路、現在の帰路
『またきっと、今度は恋人も連れてくるよ。だから……』
そう故郷に言い置いてきたのが数時間前。
クラン・クィールス(ka6605)の脳裏には、今まで忘れていた些細な思い出達が次々に蘇っていた。
それらをひとつひとつ反芻しながら歩く内、いつしか辿り着いたのは彼女が住む森の傍。
「……しまった。今何時だ?」
慌てて振り仰げば、銀色の月が夜空高くに登っている。
(確かに、顔を見たい気分ではあったが……流石にこんな時間に訪ねるのは、……)
自分の無意識の行動に狼狽え、踵を返そうとする。
けれどふと、素朴な疑問が胸を過ぎった。
(……俺が独りで帰郷したと言ったら、あいつはどんな顔をするだろう)
過去の事情は概ね伝えてある。楽しい気持ちで臨んだ帰郷ではなかったことは、当然察するだろう。
どうして自分も連れて行ってくれなかったのかと、あの紫陽花色の目を潤ませ詰め寄るだろうか。
それとも、何もかも飲み込んだような顔で、ただ静かに微笑むだろうか。
(……いずれにせよ。何もない場所だしな……今度一緒に行こうと誘うには、一体何と切り出せば……)
月を仰いでぐるぐると考え込む。
微笑んだ顔、泣きそうな顔、驚いた顔に戸惑った顔……彼女の色んな表情が浮かんでは消えて、その内にふっと吹っ切れる。
「まあ……実際に顔を見れば分かるだろう」
吹っ切れついでにこのまま訪ねてみようと決め込み、森に沿って歩きだす。
故郷で皆へ語りかけた時のように、彼女に聞いてもらいたいことが沢山あった。
かつての家路を辿る時に何を思ったか、故郷の様子はどうだったか。何を見て、何を報告してきたのか――
寡黙なクランにはとても珍しいことだったが、彼女に伝えたい、分かち合いたいと思うのは、クランにとって彼女が失った家族同様に――あるいはそれ以上に――大切な存在だから。
今、クランが「ただいま」と言って帰れる場所は、あの無人の故郷だけではない。
どんな過酷な戦場に赴くときにも、必ず帰ると誓った場所は。
ひとりの胸には抱えきれない感情や思いが溢れた時――まさにこんな時――自然と足が向く場所は。
やがて木々の向こうに、障子越しに揺れる柔らかな灯りが見えてきた。
長いこと暗闇を歩いたあとに出会う灯りは、どうしてこんなにも温かく感じるのだろう。
「……ただいま」
唇の内で呟き、ほっと小さく息をついた。
━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
【登場人物】
クラン・クィールス(ka6605)/望む未来の為に