※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
-
■旅猫と迷い旅を
●
ガタゴト音を立てながら、二頭立ての乗り合い馬車が轍の道を進んでいく。
見知らぬ行き先へ、見知らぬ人々と共にメアリ・ロイド(ka6633)は揺られていた。
彼女が乗っているのはリゼリオを起点とし、近郊の町や村を繋いで巡る定期馬車らしい。
乗り合わせた客は、性別も年齢も様々な人間が五人ばかり。
加えて、黒い成猫が一匹。
短い毛並みは艶やかだが、首輪などは付けていない。
無賃乗車の客猫は、長椅子状の空席で丸くなっていた。
そもそもメアリが乗る予定もない馬車に乗っている理由は、あの黒猫だ。
たまたま通った、乗り合い馬車が停まる広場で。
偶然に、前を横切った黒猫と目が合った気がして。
その黒猫は飼い主も見当たらないのに、ひょいと馬車へ乗り込んでしまった事が気になって。
とっさに、メアリは後を追い……この馬車に飛び乗っていた。
(何してるんだろう、私)
窓から見える風景を眺めながら、思う。
天候は晴れ、風は無し――ついでに依頼や約束もなく、それだけが幸いだった。
広がっていた草地が、やがて柵で区切られた畑に変わる。
間もなく、馬車は小さな町の外れで停車した。
「着きましたよー」
間延びした声で告げた御者の青年は乗降用の足台を置き、馬車の扉を開ける。
二人の乗客が乗車賃を払い、問題の猫はと言えば我関せずであくびを一つ。
御者は馬に水を与え、忙しく仕事をこなすが、新しい乗客が増える気配はない。
20分ほど待って、御者台の脇に吊された出発の鐘がカランカランと鳴った。
何事も起きず、風景に大きな変化もなく。
緩やかに、馬車は田園風景を進む。
黒猫は座席の上で丸くなっていたり、時おり窓の外を眺めたり。
そしてメアリも陽気に誘われて、徐々に瞼が重くなってきた。
●
カクンと頭が大きく傾き、ハッと目を覚ます。
周囲を見回し、メアリは自分がいる場所を確かめた。
夢を見ていたような気もしたが、起きた拍子に忘れてしまったらしい。
ただ妙に膝が重くて動けず、座る位置を調節出来ない。
ぼんやり視線を下ろすと、膝の上で丸くなっている黒いもふもふが目に入った。
「……あんた、ねぇ……」
思わず、小さく呟く。
いつのまにか寝ている黒猫に、一人だけ残った乗客も苦笑を返した。
「着きましたよー」
何度目かの呼びかけに、最後の客も馬車を降り。
「ここで昼休憩だけど、お嬢さんはどうする?」
「……え?」
不意に御者の青年に聞かれたメアリは、面食らって固まった。
その様子が返答に困ってるように見えたのか、御者が手招きする。
困ったようにメアリは膝に視線を落とし……途端に、黒猫が膝からポンと飛び降りた。
するりと御者の脇を抜ける黒猫を目で追いながら、やっと彼女は立ち上がる。
外では世話係が馬車から馬を外し、面倒を見ていた。
「昼飯、その様子だと持ってないんだろう? この村、小さい酒場ならあるけど夜がメインだしな」
言いながら御者は道を横切り、酒場らしき扉を開け。
「いらっしゃい」
「おばさん、休ませてもらうよ」
店の主に声をかけ、窓に近い席へ陣取った。
メアリが反対に座ると、いつの間についてきたのか、隣の席に黒猫がひょいと飛び乗る。
「お疲れ様、今日も冷えるねぇ。お茶と、温かいミルクでも入れようか」
カウンターの奥からの問いに「頼みますー」と御者は声を張り、籐箱を開けて四角い包みをテーブルに置いた。
「ほら、遠慮せずに食べな」
「え? でも……」
「もう半分、あるからさ。あ、お前は手を出すんじゃないぞ」
黒猫に言い含めた御者はもう一つの包みを解き、ハムと野菜のサンドイッチを取り出す。
「作ったのは嫁さんだから、安心しな」
「……あの、いただきます」
小さく頭を下げてメアリもサンドイッチを手に取り、そこへ女店主が湯気の立つカップを運んできた。
「ちょっかい出すんじゃないよ」
冗談とウインクを残し、黒猫には平皿のミルクを置いていく。
気安い雰囲気に戸惑いながら、メアリも遅い昼食を頬張った。
●
「こいつが馬車に乗るのは、よくある事でさ」
午後の日差しの中、リゼリオに戻る馬車はゴトゴトと土の道を進む。
空っぽの馬車の御者台ではメアリと黒猫も御者と並んで座り、振動に身を任せていた。
「途中で降りる訳でもなく、こうしてリゼリオに戻るんだ」
「……猫だって、息抜きしたいのかも」
そっとメアリは黒猫を撫で、「かもしれないな」と御者は笑う。
「でも帰る場所があるのは、いいことです。猫も人も」
停車場に止まるとメアリは席へ戻り、猫も彼女についてきた。
そこに少ない客が加わって、夕暮れの中を馬車は走る。
(今日一日は、無駄に終わったかもしれないけど……)
やがて終点の広場に到着し、乗車賃を断る御者へ礼を言う間に、黒猫は夜のリゼリオへ消えていた。
淡白な別れを少し残念に思いつつ、メアリも石畳の路地を歩き出す。
今の自分が、帰る場所へと――。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【PCID / 名前 / 性別 / 外見年齢 / 種族 / クラス】
【ka6633/メアリ・ロイド/女/20/人間(リアルブルー)/機導師(アルケミスト)】