※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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サンタクロースの話
彼のことが気になるので見てきます。
そう告げてあの人の元を離れた行動はどう評価すべきなのだろう。空気を読めたのか。逃げたような心地もある。
……考えても仕方ない。手応え的に今日はここまでだったろう、と思う。手応え。感触。そう呼ぶもので残るものを表現するならそう、暖簾に腕押しと呼ぶものの気はしたが。それを認めて実感するのは……懲りていない自分、か。
そこまで考えて、ふ、と詰まっていたものを押し出すように息を吐く。心と身体の緊張がそれで剥がれ落ちていくのを感じた。そうしたとたん感じたのは──詰まっていた、とは正に言い得て妙だったかもしれない──会場内の匂いだった。
食欲をそそる香ばしいそれの多くは鶏肉が焼けるもの。呼び掛けで始まった鶏肉パーティー、リアルブルーでの大きな戦いの慰労と、結果急増することになった新たな住人との交流の場。
交流。そう。……だしに使ってしまったような気持ちもあるが、実際、心配なのは嘘ではない。
その、様子が気になる彼、こと高瀬 康太は、広い会場内でほどなくして見つかった。
意外、というか。会話中だった。熟練の中年ハンター、といった風情の男性と硬い表情のままいくつか言葉を交わして、そしてさほど待つまでもなく頭を下げて離れていく。
また一人になった彼に、メアリは近づいていった。
康太は、一人で近づいてくる彼女に良いのか、と言いたげな顔を一瞬浮かべたが、踏み込むのも不味いと思ったのだろう、何も言えないまま固まって、結果として接近を許す。
「高瀬さん……交流、出来てますか?」
「ええ。色々と興味深い話が聞けましたよ。今は帝国、と呼ばれる場所で大きな戦いが起きているのですか? ですがそちらはもう決着に向かっているようですね。あと……」
彼女の問いに、問題ない、と示したいのか、彼はこの場で収集したという幾つかの話を披露して見せた。
その話を聞きながら、メアリはしかし、安心というよりは違和感を覚える。
「……この世界のことはまだまだ分からないことばかりですね。今日得たことは上官……いえ、元上官ですが。にも共有しようと思います」
そこまで聞いて、違和感の正体に思い当たった。
「それ交流じゃねえよ諜報活動だ」
気付いたそれを気付けばそのまま突っ込む。
「……。特に、問題は起こしていないと思いますが」
「いやそうじゃなくて。楽しめてるのか? それ」
「非常に有意義であると手応えは感じていますよ」
そうじゃない、とメアリは溜め息を吐きたくなった。
……いや、人の振り見て、というやつなのか。少し何かが抜け落ちていけば自分もこんなものな気もする。
ちくり。思い出したのは指先の痛みだった。……思い返してみれば、友人のためにこんな事をするなどと、雨に打たれていたあの日の自分に言ったら信じるだろうか。
指に針を刺しまくりながら作ったお守り。無事に受け取ってもらえたそのあとで、不格好なあの出来で効果があるのだろうか、と今更のように思い始める。
無意識に視線を指先にやっていたのだろう。そこに傷があること、その原因を察したらしい康太が複雑な表情をメアリに向けていた。
「迷惑……でしたか」
しかめたような顔に、少し不安にメアリは言葉を溢す。
「……冷静に中立な視点で申し上げれば、あまり出来が言いとは言い難いですね」
ふい、と顔を僅かに反らして。硬い声で康太は言った。
「……ただ、僕はこうしたものを他人から頂くのは初めてなので。その行為の妥当性について正しく判断できているかはあてにすべきでないと思います」
いや、これは。硬い、というより、照れ隠しなのか。
……つまり、彼自身は有難いとは思っているが、それを評価するのが正しく今後彼女の為になるとは分からない。
いちいち構えた態度と反応だろうが、一周回って素直か、と思える。メアリの唇の端が僅かに上がった。
「……どうにも、よく分からないですよね、貴女は」
そこで、康太が居心地の悪さを誤魔化すように口を開いた。
「他人の事なんて、そうそう良く分かるもんでもねえだろ」
「……それは、そうですが。貴女の場合特に……。思ってるよりは表情があると申し上げましたが、やはり普通の人たちと比べて乏しい、とは感じます」
言って康太はメアリに視線を向け直す。その顔ではなく、全身を写すように。
「……感情もそれに伴っているのかと思えば……。そうした姿は、どちらかといえば『浮かれた』人間がやるものという認識でしたけどね」
そうした姿。輝紅士──サンタクロース。
「……康太さんは、サンタっていつまで信じてた?」
答えようとして、ふと呟いていた。
「……。名字で呼ぶようにお願いします。……別に。始めから。そのようなものは空想であると教えられていました」
質問返しに文句を言うこともなく、淡々と彼は答える。その声に寂しさも抑圧されたものも感じなかった。メアリはそれに何と言えばいいのか──本当に、分からない。
「私は……幼いとき。家にサンタからのプレゼントが来なくなった。……両親の仕事が忙しくなるにつれ」
彼女の両親は2人とも軍の対歪虚研究の研究員だった。
教えられたのではなく、察した。してしまった。
「……」
康太から、言葉での反応はない。僅かに眉間に皺を寄せて、メアリに視線を向けている。
「……1人で過ごす事には慣れ始めていたが、クリスマスは堪えた」
顔を上げる。身体ごと動かして、視線を広場の中央の方へ。
華やかに飾り付けられた、聖輝節の町。談笑する人々。肉料理に舌鼓を打ち、あちこちで歓声が上がっている。
「だからこちらに来てからは、私の所にサンタは来なくても、誰かに笑顔になってもらいたいからプレゼントを配ろうと思ってさ」
──輝紅士にもなった事ですし、柄にもなくこんな恰好してプレゼント配ってるわけです。
そう話を締めくくり、康太に向き直る。
彼女の話に、彼は眉間に皺を寄せて困ったような表情を浮かべていた。
「……つまんねえ話して悪かった」
「……この場合、迂闊に聞いた僕の失態でしょうか。僕が聞くべき話では無かった。言えるようなことは、ありません」
どこか拗ねたような康太の返事に、メアリは首を振った。
「別に、同情とか慰めとか、……褒めてほしいとか、そんなつもりで言ったんじゃない」
それはそうなのだと、思う。そんなことが期待できる人間ではないということは分かっている。
彼の表情が変化する。「何故?」と。そう、だとしたらなぜ、こんな話をしたのだろうか。輝紅士の衣装の話。それに答えての事ではあるが、気軽に言って聞かせるようなものでは確かに、無い。
「ただなんとなく、言いたくなっただけ、ですかね」
ついでのように思い出したそれを。
「友達になら、吐き出してもいいと思ったんだと思います」
メアリの返事に、康太は深く息を吐いた。
「……やはり貴女は、良くわかりません」
やれやれと首を振る康太に。
「そうか?」
とメアリは首を傾げた。なんだかんだ、一通り話は聞いてくれる彼は、とりとめもない話をする相手として悪くはないと、思う。
ただ、そうだ。
今日は輝紅士になるつもりで来た。
……誰かを笑顔にするために。
「……じゃあ次、康太さんの恥ずかしい話をお願いします」
「何の流れですかそれ!? あと名字で呼んでください!」
──今日この催しを、楽しいものにするために。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6633/メアリ・ロイド/女性/20/機導師(アルケミスト)】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注有難うございます。
コイツがいつもお世話になっております。
まあそんなわけでこいつもこいつなりにあの会場で充実していたような気はしますが、メアリさんが居なければ楽しい時間、とは違う何かになってた感じですね。
コイツは好きに弄ってもらっていいんですが、色々良かったんでしょうかこれは……という気もします。
楽しめていればいいのですが。
改めまして、今回もご発注有難うございました。