※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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ふたつの月の下で
クリムゾンウェストの夜空には、ふたつの月が輝いている。
「しかしまあ、クリムゾンウェストの月はなかなか寛容だったってワケだ」
トリプルJの言葉に、傍らで同じように月を見上げていたマリナが首をかしげる。
「寛容?」
「だって先住権も主張せず、仲良く夜空を分け合ってんだぜ? あっち行けともいわずにな」
マリナが声を上げて笑った。
「でも、クリムゾンウェストって惑星がすごく欲張りなのかもしれないわよ」
「ああ、衛星が増えるほうが箔がつくってか? それもあり得るな」
今度はトリプルJが笑う。
彼らがいるのは、廃鉱山に続く山道だった。
地精霊を祀った祠の見回りとお参りを済ませた帰り道で、素朴なベンチに腰掛けて休んでいると、自然と会話は異界の空の話になる。
トリプルJもマリナも、リアルブルー出身者だ。
彼らにとって馴染み深い星空は、このクリムゾンウェストで見ることは叶わない。
マリナはそんな異郷での寂しさから、歪虚に魅入られてしまったことがある。
トリプルJはじめ、ハンター達の必死の呼びかけによって、人の世界に戻って来られたのだ。
「でもね、なんだか今の夜空のほうが落ち着くような気がする」
トリプルJは無言で続きを促す。
「こっちの空は星が多すぎて、なんだかサルヴァトーレ・ロッソから見た宇宙空間みたいで。大地の上に立っていても、とても孤独な感じだったから」
おかしいよね、とマリナが付け加えた。
リアルブルーも虚空に浮かぶ惑星という点では同じだ。
だがリアルブルーでは夜も絶えない人工の光に邪魔され、小さな星の光は届かなかった。
その『空間』に慣れた目には、クリムゾンウェストの空は賑やかすぎたのだという。
「だから月が輝く夜は星が少なくて、なんだかリアルブルーの空みたいだと思って」
「なるほどな」
トリプルJは短く応じる。
マリナはあの月で何が起きたのかを見ていない。
サルヴァトーレ・ロッソの乗員なら転移の際のVOIDの脅威は経験しているだろうが、戦闘員でなければそこでも実際に見たわけではないだろう。
(一般人でアレを見た奴は、ほとんど死んじまっただろうしな)
トリプルJの瞳に宿った陰りは、マリナにはわからない。
だが何かを感じたのだろうか。不意に尋ねてきた。
「そういえばあなたは軍人だったんだよね」
「あ? あー、まあな」
トリプルJは軽く肩をすくめて見せ、冗談めかした口調で肯定した。
「これでも結構優秀だったんだぜ? まあそれで一生分の真面目成分を使い果たしたわけだがな」
「士官だったんだね。だったらハンターになっても、その経験は生きてるよね」
マリナが頬杖をついて呟く。視線は空を離れ、眼下に広がる黒い木々を見つめていた。
トリプルJはその様子に何かを感じとる。
「なんだ? 俺様の軍人時代のカッコイイ姿を拝みたかったのか?」
茶化しながらマリナの様子を窺った。
「あはは、まあそれは置いといて」
「置くんじゃねえ」
「えーと、いや、ハンターってみんなそういう経歴ってわけじゃないよね? ……私にもできるかなと思って」
トリプルJはマリナの横顔を見据える。
「ほら、皆に迷惑かけたし。今度何かあった時には、私が村を守れたらなって」
マリナはずっと悩んでいるのだろう。
だがトリプルJは、そこに危うさを感じた。
想いだけでは守れない。さらに言えば、強すぎる想いは危険を招く。
マリナは目の前に危険が迫った時に、贖罪の想いから判断を誤るのではないか――。
「そりゃいい考えだ。だがなマリナ、皆の役に立つ仕事ってのはな、ハンターに限らないんじゃないかと思うぜ?」
トリプルJは自分の両目に、指で作った輪を当てて見せる。
「ほら、例えばお前さんの上司の村長。覚醒しても、ハンターは無理っぽいだろ?」
マリナが思わず噴き出した。
「でもちゃんと皆をまとめてるよな。命を張る場所は、戦闘だけじゃないってこった」
「うん……そうだね」
微笑を浮かべる横顔は、まだ物思いに沈んでいた。
トリプルJは突然手を伸ばし、マリナの明るいオレンジ色の短い髪をぐしゃぐしゃとかき回す。
「ちょっと、またそれ! 子供じゃないんだから!!」
抗議の声を上げ、腕を払おうとするマリナの手を、トリプルJは強く握る。
「いいか。マリナが本当にハンターになりたいなら、俺はできる限り手伝うって約束してやる」
「え? う、うん」
「だから無理するな。苦しいときは苦しいと言え。悲しいときは悲しいと言え。俺だけじゃない、みんなお前さんを助けてくれるはずだ」
マリナは泣き笑いのような表情を一瞬浮かべた。
だがすぐに握った手を離し、ハイタッチのように勢いよく手を合わせる。
「わかった。約束ね」
「よし。それでいい」
ふたつの月が約束を見届けていた。
またいつか迷いが訪れたら、夜空を見上げるといい。
輝く月が、きっと答えを導いてくれるから。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka6653 / トリプルJ / 男性 / 26 / 人間(リアルブルー) / 霊闘士 】
登場NPC / マリナ / リアルブルー移民
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はノベルでトリプルJ様にお会いできて、大変光栄です。
NPCに対するお気遣いは、きっと過去の経験から来るものもあると思い、このような内容になりました。
お気に召しましたら幸いです。ご依頼、誠にありがとうございました!