※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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ころもがえノスタルジア
気持ちのいい洗濯日和だったので、その日は朝から冬服の大掃除に勤しんでいた。
痛みやすいものが多いからたっぷりの泡で丁寧に洗って、ぽかぽか太陽の下で干す。
乾くまでの間にタンスの整理をしていたら、懐かしいものが目に入った。
「これ、村から出て来た時の服ニャス!」
手にした服を広げて、ミア(ka7035)は目を輝かせる。
村を出た時に持ち出した最低限の荷物のひとつ。
族長に村を出ろと言われた時、ミアにとってはちょっとピクニックに出るくらいのつもりだった。
だからいざという時の着替えと、たっぷりのお弁当と、それくらいで旅立った故郷。
今にすれば、こんなに長い旅路になるものだとはこれっぽっちも思っていなかった。
それも含めて「鍛えてこい」ということなのだろうが、当時のミアがどれほどその趣旨を理解していたかは疑問が残る。
広げた服をぴたりと自分の肩に合わせ、それからするりと袖に手を通す。
うん、ぴったり。
もう昔の服が切れなくなったーなんて年でもないし、当然と言えば当然だ。
だけど、気持ち少しこそばゆい。
胸元の合わせを閉めて、姿見の前でくるりひと回り。
同時に村の記憶がふんわりと蘇る。
毎日おいしいご飯を食べて、原っぱに寝っ転がってお昼寝をする生活。
友達がいて、家族がいて、村のみんながいて。
あの日のミアにとってはそれが全てで、毎日に満足していた。
村にとどまっていたら、それはそれで幸せな生活を送れていたことだろう。
だけど村を出て、それだけがすべてでないことを知った。
陽だまりはあの丘だけではなく、村の外にも広がっているのだと――
「みんな、今ごろどうしてるかなニャス……」
ふと我に返って、纏った衣装を脱ぐ。
「あれ、ちょっと糸がほつれてる」
タンスに入れたまま虫に食われてしまったのだろうか。
ほつれた糸がぴょんと端っこから伸びていたのを見つけて、指先でぷちりと切る。
それからもう一度畳もうとして、ふと手を止めた。
「……直してから、しまおうかニャ」
棚から裁縫セットを取り出して、似た色の糸を探す。
時間はたっぷりあるんだ、直すくらいわけはない。
それから洗濯をして、たっぷりお日様に当ててあげよう。
場所は変わっても、降り注ぐお日様のぽかぽかはきっと同じだから。
――了。
━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
おはようございます、のどかです。
おまけノベルの発注ありがとうございます。
ミアさんと故郷に関しては以前も書かせていただいたことがあったのですが、ちょうど時期ものということで、また違った視点から描いてみました。
ハンターになって、もうひとつの家族と呼べる方々に出会ったミアさん。
この長い長い旅の果てにどのような答えが待っているのか、影ながら見守っております。