※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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わらしべニャンニャン
湯気の立つ大きな肉まんをミアは満面の笑みで眺めていた。
商店街の秋冬限定、1日50個限りの特大ジャンボ肉まんは女の子の手では両手で持っても余りある。
皮はふっくら小麦粉の甘み。
たっぷり詰まった肉餡はジューシーな油のうまみ。
とはいえ、猫舌にとってはアツアツでかぶりつく――なんてことはできるわけがなく、ほどよく冷めるまでお預けを食らっているところだ。
まだかニャ。
まだかニャ。
そんな時、グーっと大きな音がなった。
ちらっと辺りを見渡すと、傍らで少年が人差し指を咥えながら自分のことをじっと見ていた。
彼は何も言わないが、口以上にお腹がグーっと気持ちを表す。
「食べたいニャスか?」
そう言ったミアに、少年は小さく恥ずかしそうに頷いた。
これを手に入れるため、コタツで丸くなりたい欲望を抑えて、寒さに耐えて、朝からずっと並んで――でもそんなにグーグー鳴らされては放っておくこともできない。
「しかたないニャア、半分あげるニャス」
肉まんを半分に割って彼に差し出すと、少年は大喜びでそれを受け取った。
「おいしいニャス?」
がっつくように食べ切った少年は、どこか物欲しそうにミアを眺める。
「……もしかして、足りないニャス?」
少年はまた恥ずかしそうに頷く。
流石にこれは――心を鬼にしようと思ったところで追撃のグーが心を抉る。
結局、泣く泣くもう半分も差し出してしまった。
「――で、なんか貰ったニャス」
お腹がいっぱいになった少年は、「俺の宝物あげる!」といってよく分からない石ころをくれた。
河原かどこかで拾ってきたのだろう、三角錐の角が丸くなったような形。
ぼんやり太陽にかざして歩いていると、不意にドサッと人が倒れるような音が聞こえた。
驚いて足元を見ると、身なりの良い服装をしたおじさんが膝をついてミアのことを見上げていた。
おじさんはがくがくと身体を痙攣させながら、震える手をミアに差し出す。
「もしかして、これニャス?」
持っていた石ころを差し出すと、彼は大事そうに手元に引き寄せ、穴が開くほどに眺めた。
「す、すばらしい……! この大きさ、重さ、丸み、どれをとっても非の打ち所がない……! おおおお、お嬢さん、これをゆ、ゆずってくださりませんか!?」
突然おじさんが額を地面にこすりつけて懇願する。
何事かと通りの目が一斉に集まって、ミアは慌てて彼の頭をあげさせた。
「私、実は石の品評家兼コレクターをやっておりまして……ぜひ! もちろんタダとは申しません!」
一気にまくしたてながら、彼は小指から何かをぐりぐりと抜き取る。
「どうか……どうかこれで――」
「――で、なんか貰ったニャス」
同じように太陽にかざして、だけども今度は石ころではなく大きく透明な宝石が付いた金の指輪だった。
キラキラ綺麗――だけどミア的にはもうちょっと赤とか青とか色がついている方が賑やかで好きだった。
「うわっ!?」
「ニャッ!?」
ドンと何かにつまづいて、ミアは思わずぴょんと飛んで体制を立て直す。
「ぼーっとしてたニャス! ごめんニャスよ~!」
気つまづいたらしい男が道端にうずくまっていて、ミアは慌てて駆け寄って頭を下げた。
「い、いえいえ、こちらこそこんなところでしゃがんでいたものですから……ハァ」
男もペコペコと頭を下げてから、盛大にため息を吐いく。
「どうかしたニャス?」
「いえ、大したことでは……」
言いながら、男は傍のお店を見る。
ジュエリーショップだ。
そこには1枚のポスターが張られていた。
――婚約指輪、受け付けております。
「プロポーズするニャスか?」
「ええ……ですが、指輪を買うようなお金はないので、どうしようかと」
言いながら男はさらにため息をひとつ。
指輪――ミアは握りしめたそれを見て、迷うことなく彼に差し出した。
「これでよかったら、あげるニャスよ?」
「え、ええっ……!?」
驚いた男は差し出された指輪を見る。
「そ、そんな! ありがたいですが、なんとお礼をしたらいいか……そ、そうだ!」
そう言って、男はミアにすがるように言い添えた。
「うちで、ごはんを食べていってください!」
「――これは、特大ジャンボ肉まん!?」
料理人をしている彼のお店に通されたミアは、たっぷり並んだ料理の中でひときわ存在感を放つそれに目を奪われた。
「あっ、ご存じなですか! 食い扶持を増やそうと思って路上販売もしているんですよ!」
「これが……これが食べたかったニャス!」
涙の出る思いで肉まんにかぶりつく。
思った通り――皮の甘さと油の甘さが口の中で素敵なアンサンブル。
「これでよければ、いつでも食べにいらしてくださいね。主人がせっせと作りますから」
そう言って店主の隣に並んだ女性の左手には、ミアがあげたあの指輪が。
その輝きと2人の幸せそうな笑顔を見ながら、今日もぽかぽかお腹いっぱいのミアだった。
――了。
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【ka7035/ミア/女性/20歳/格闘士】