※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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答は僕の先に
答はもう見つかった?
世界でもっとも気難しい存在とされる思春期女子ですら「かわいい」と認めるしかないだろう童顔を傾げ、桜崎 幸は自問する。
残念だけど、まだ見つからないかなぁ。
苦笑して自答、ソファへ背を投げ出した。そのふかふかしたやわらかさにも負けない茶色の猫毛がふわっと宙に舞い、毛先に染み入ったバニラの香で空気を染める。
息をついた幸は静かに息を吸い、吐いた。
これは受けた傷の残り香だ。まだ戦いで受けたダメージが抜けきっていないらしい――獅子鬼という試作強化型コンフェッサーを巡る戦いの。
あきらめない。
それはあの戦いの中で幾度となく唱え、思い、据えたひとつの言葉だ。
リアルブルーで暮らしている誰かを守るために、あきらめない。
歪虚の悪意に打ち据えられ、打ちのめされても、あきらめない。
歪虚に操られた強化人間の男の娘を救うがため、あきらめない。
あと少し。あと、ほんの少しで届くから――すべてを放り出し、あきらめてしまいたくなる心に言い聞かせ、ついに手をつかんだのだ。
いっしょに帰ろう。
ただそれだけを願って、体中の血が超振動によって煮えたぎる苦痛の中、コンフェッサーに絡めた魔導アーマーの指から電撃に乗せて祈りを送った。
――僕はいろいろなものを守れなかったけど。それでもたったひとりを救えたことをなによりもよかったって、そう思うんだ。
幸にはこれまでずっと探してきたものがある。
それはけして口にできない秘密だけれど、それを見つけるためにこそ幸はハンターという道を選び、「あきらめない」を重ねてきた。さらにはその「あきらめない」を階段として一段一段踏みしめ、彼はずいぶん高いところまで登ってきたはずなのだが。
それでも答が見つからないんだよねぇ。なんだろう、すごく簡単な式だと思うんだけど。
人差し指を空にすべらせ、これまでのことを思い起こしてみる。
いくつもの死地があって、幾度となく仲間に救われ、誰かを救ってきた。「あきらめない」の向こうにはいつだって「よかった」があって……でも、それはきっと答そのものではないのだろう。
だって、僕はそれじゃあぜんぜん足りないって思うから。
必死で伸ばした手が間に合わず、届かなかった過去がある。それを悔いる気持ちは深く、眠れぬ夜を過ごすこともしばしばだ。しかし、たとえ過去へ戻れる術があったとしても、すがることつもりなどない。
僕の手は、ここから先で待つ誰かへ伸ばすためのものだから。
うーん、結局それって選択してるってことだよねぇ。そうなると僕は、僕が考えてるよりずっと狭量なのかもしれないなぁ。っていうか、視野が狭い?
苦い笑みを噛み締めるが、心は揺らがない。
思い定めているからだ。
自分の有り様を。未来に在るべき姿を。
そのために、できることを精いっぱいする。どんなに傷ついてもあきらめず、最後にはよかったと笑えるように。
なんとも頑ななことだと自分でも思う。見かけと当たりのやわらかさから受け身でやさしい男の子だと思われがちだが、実際に積んできた21年の人生の内、評価どおりの人となりだったことなど1秒だってありはしない。
そうかぁ。結局は、そういうことなんだよねぇ。
最初からわかっていた。幸が求める答は「あきらめない」に「よかった」を足した先にあるのだ。なのに、そんな簡単な式から得られるはずの正解が見つけられていないのは、式を構成するどちらもがまだまだ足りていないから。
僕はどうしようもなく頑固で、信じられないほど欲張りなんだ。正体不明の答にこだわって、それがわかるまで式に数字を足し続けなきゃ気がすまないって言うんだから。
ある意味でそれもまた狭量の内なのかもしれない。もっとも、だからといって正す気はなかった。なにせ彼は頑固で欲張りだから。過去を置き去り、未来だけを見据えてどこまでも登っていくしかないのだ。
しかたないよね。それが僕の、今このときにしたいことなんだから。
いつか答にたどり着けるのかなんてわかるものか。あきらめず、よかったと思い続けた先には答などなくて、あるときいきなり地へと落とされる可能性だって少なくはない。
それでも行くよ。そうしなくちゃいつまでもわからないままで、たとえ途中で踏み外すんだとしても、僕が満足できる末路なら笑って逝けばいいだけだもの。
まったくもって、つくづくと幸は幸なのだ。
だから。
これからもあきらめずに自分を貫いて、よかったと思える今このときを連ねていこう。
そんな自己満足の中で誰かを救えるのなら――自己満足の先で誰かが救われるなら。それがきっと、僕が欲しくてたまらない答へ導いてくれるはずだから。それがただの思い込みでもいいんだ。僕が答だって思えるものなら、それでいい。
幸は自問と自答を止め、小さく息をついた。次の歩を踏み出すためにはもう少しだけ休息が必要だ。
うん。このまどろみから醒めたら、僕はまた僕であることを始めよう。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【桜崎 幸(ka7161) / 男性 / 16歳 / 香子蘭の君】