※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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鎖に寄り添う
思い出すのは……
気に入りの柄、赤黒い染み、布の切れ端。
温もりなど既に無く、むっとするような死臭の中で……ただほんの少しだけ、花のような残り香。
傷跡、不快感を感じるほどの負のマテリアル。
走り続けて切れる息、握りしめ肉に食い込む爪の感触。
『盟友ナハティガルへ』
はっ……お前はいつの間に俺の盟友だったんだ?
『ハンター業は順調か?』
そんなもんとっくに知ってただろうに、日雇いより不安定だ。
『言ってなかったことがある』
そりゃそうだ、あの日から顔を合わせてねェんだからよ。
『あの時言えたらよかったのかもしれない』
そんな余裕あったかァ? 戦いの中、故郷の危機。余所見の暇さえなかったじゃねぇか。
『だから筆をとった』
そうだろうよ。
『出せる日がいつか分からない手紙だ。お前の手に届くのはいつかも分からない。だが、いつかお前に伝わることを願って書いておく』
縁起でもねぇこと書くから、お前は……なんでそんなに弱気なんだよ、なんで……なのになんで俺を! あの時!
『あの時帰るべきはお前だと、俺達は皆同じ気持ちだった』
意味がわからない。俺だけ戦場を離れろとか、俺達は誇りある部族の兵士じゃなかったのか。族長の義理息子だからって、俺は甘やかされていたのか?
『なぜなら、お前以外は皆知っていたからだ』
何をだよ?
『彼女は妊娠していた』
……は。
『次の休みはお前を帰らせると、彼女に言った』
何を、勝手に。
『だから』
なんだよ。
『だから、間にあわせられなくて、すまない』
何がだよ。俺じゃなくたって、他のどんなに強い奴が代わりに向かっても同じだっただろうよ。
『お前に秘密にしようがしまいが、襲撃は避けられなかったと、わかってはいる』
そうだろう? 関係ねぇんだよ、あいつら歪虚が人の都合なんか考えるわけねぇんだ。
『だけど』
何を後悔してぇんだお前。今更何も変わるわけがねぇってわかってんだよ、俺だって。
『だからこそ、お前には早く言っておくべきだったかもしれない』
知ってても変わらねぇんだよ。
『お前が知っていれば、もしかしたら、間に合っていたかもしれないと思う事がある』
どこの夢物語だ。
『この手紙を出すことさえ躊躇った』
分からないってそういう意味かよ。
『だから、きっと。俺が死んでから、この手紙は届けられることになると思う』
遺品整理で俺の名前があったからって、それで送られて来たな。
『すまない』
何がだよ。
「……何がだよ、今更……」