※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
貴公子の翼

 幼いころ、青空を行き交う鳥を眺めながら、空を飛ぶというのはどういう気分なのかと至極真面目に考えたことがあった。
 風は骨身に染みないのか。
 身体の重さは感じるのか。
 そもそも地上はどのように見えるのか。
 浮かんだ疑問に答えを出すことはできず、ただ悶々と思考と考察だけが繰り返されていく。
 そんなある日、寝物語に読んだ書物にこんな記載があった。
 
――天翔ける私の想い、まさしく風の様だ。

 空を飛ぶ感覚とは風になったような感覚なのか、と何も知らぬ心ながらに関心したのもつかの間、では風になるとはどのような感覚なのだろうと新たな疑問が胸の内を燻っていく。
 眠りかけの足取りで窓辺へ向かい戸を開け放った。飛び込んで来た清々しい夜風が首筋からうなじを撫でて、くすぐったさに肩をすくめながらもその感覚をめいいっぱいに受け止める。
――いや、ちがう。これは風になった感覚じゃない。
 明くる日、近場の山の斜面を木の板に乗って一思いに滑り降りた。これも違う。速いが、やはり風になったような気持ちは味わえない。
 結局どうやったら風になれるのか、その方法が分からないまま月日は過ぎて。いつしか頭の片隅からも忘れ去ったころ、私は大人になった。
 
 長いこと忘れていた記憶。幼い日を思い起こす笑い話。だが、その答えは思いがけない処から我が身へと降り注いだ。
 晴れた日になると、特に用事がなくても身支度を整えて戸口を潜る。燦々と照らす太陽をまぶしく見上げてから、私は彼女の手を取るのだ。だいぶ馴染んでは来たものだが、ここまで手懐けるのにずいぶんと手も焼いた。だが、その苦労があったからこそ今の私と彼女との関係がある。
 青空の下、2人で出かけるのは格別だ。目的もなく、ただ王国の街並みを散歩するだけでも満ち足りた気持ちになれる。穏やかな気候は心地よい風となって肌身を撫でて、まるで世界も私達の旅路を祝福してくれているようだった。
 天使のヴェールにも似た風を纏う時、私は幼い日の疑問の答えを得る。それはあまりに感覚的なもので、詳細な言葉に表せるものではなかったが――私は確かに、風になっていた。
 これこそが、あの書物の語っていたこと。
 これこそが、空を駆ける感覚。
 君に出会わなければ、きっと得ることのない世界がそこにはあった。

 ああ、ヴィクトリア。キミこそが私の翼だったのだ。


――了。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0030/クローディオ・シャール/男性/29歳/聖導士】
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
クローディオ・シャール(ka0030)
副発注者(最大10名)
クリエイター:-
商品:おまけノベル

納品日:2018/04/16 11:43