※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
Like a family

 さっさと飲み干してしまったせいで、ほんのり珈琲色の氷がグラスの中で涼しげな音を奏でる。
 くるくるとストローをかき混ぜていたキヅカ・リク(ka0038)は、呼び出し主である高瀬 未悠(ka3199)の前ではっきりと首を傾げた。
「大体さぁ」
「その顔はものすごーく無意味な屁理屈になると思うけれど、聞いてあげるわ?」
 食い気味に遮られたので目を瞬かせる。
「うわーすっごい上から目線ー」
「いつも心配ばかりかけさせる弟分に手を焼いているのだもの」
「……それはまあそれとして」
 拗ねた顔は全く意味をなさなかったらしい。流石姉貴分、容赦がない。
「自覚があるようで良かったわ……」
「目の前で溜息つかれるとか流石の僕も傷つくんですけどー」
「だったら心配させないようにしなさいな、特に彼女には」
「出来ることはしてると言っておくよ?」
 今度はリクが未悠の声に被せる。ふざけた慣れあいはなりを潜め、リクの視線に真剣な熱が宿った。
「そこの心配はしてないわ」
 微笑んだ未悠の視線は中断していた話へ戻そうと告げている。逸れ過ぎた話題の影に隠れた言葉を掘り起こしたリクが軽く告げた。告げてしまった。
「毎年新調してるんだったら、今年も同じように選べばいいんじゃない?」
「……」
「えっなんでそこで沈黙?」
「……ねえ、リク?」
 これから悪いことを叱るとばかりの声に、自然と居住まいを正すリク。
「あなたの彼女にも、同じことが言えるのかしら?」
「あっ駄目だねいつもと同じでも可愛いのは違いないけど特別念入りに選んでもらえたら最高だね!」
 ノンブレスで答えるリクの脳裏にはいろいろな女性用水着が駆け巡っていった。勿論恋人の着用シーンとして。
「わかったなら、今度の休みは下見に協力してもらうわよ!」
「OK未悠、仕込みは万全じゃなきゃーいけないもんな!」

 いくつもの水着が並ぶ中、手も心もさまよわせながらも未悠の視線は特別な一着を選ぶ準備に余念がない。
「毎年、着実に種類が増えているわよね……?」
 彼の目を自身に向けるための努力は惜しまない。恋が叶った今もそれは変わらない当たり前のこと。色だけでなく、デザインも。自身の良さを損なわず引き立てて、もちろん飽きさせないことも肝心で。必要な要素はあげ始めるとキリがない。
 特に今年は恋人として初めて過ごす夏だ。すくなくとも、あの日から一年は全てが何かしらのはじめてになるのだから思い入れも強くなってしまう。だからといって二年目以降に気が抜けるなんて未来、訪れさせる予定はないのだけれども。
「あっ、ごめんなさい」
 水着に熱中し過ぎたための軽い振動。相手の女性へぶつかってしまった謝罪を向ければお互い様だったらしい。軽い会釈を交わしあって改めて距離をおく。女性の恋人が肩に手を回し支える形をとったので、もう同じことはおきないだろう。
(……やっぱり、彼ならサーフパンツかしら)
 傍に居ない恋人を想う。流石に勝手に選ぶことはないけれど、今年の人気な柄はチェックしておいてもいいかもしれない。
 すぐ隣のブロックにはメンズ水着のコーナーもある、今は別行動中だがリクと一緒なら、入るのはそう難しくないはずだ。
(私の色を、それとなく伝えておくとか……)
 彼に着てみてほしい色を言ってみるのは我が儘にならないだろうか?
 あまり主張し過ぎるのもどうかと思っていたので、未悠自身彼の色を強く意識させる服は避けていた。でも、恋人となった今なら押しつけがましくはならないだろうか?
(どうなのかしら。直接聞ければ一番なのだけれど)
 彼は立場があって、なにより忙しい人だ。少し前にその一番の原因は解消されたと思うけれど、しかし世の中は平穏だけを齎してなどくれなかった。ままならない世情の波に揉まれながら、タイミングを見て会いに言ってはいるけれど……やはり顔を合わせるタイミングはそう多くない。
「確実に答えがもらえるだけ、幸せな事よね」
 自由に会えないことは前からで、その上で想いを向け続けていたのだ。現状も予想出来た事ではある。
 先ほど見た仲睦まじい恋人達のように。声に出すことは止めることが出来たけれど、胸の内に想いが溢れ始める。
 溢れすぎて、零れて。未悠の眉は随分と下がってしまっていたらしい。

 水着は見る方専門と言い切れるリクである。今年の流行を先取りと謳われたメンズ水着を一通り見て自分用の下見はさっさと済んでしまった。
「次きた時に買えばいいしね」
 今日は未悠の付き添いかつ自身のデートの下調べが目的。誘われてついてきた形だが、リクとしては後者が本命だ。
 過去に贈った諸々はあえて思考の外ではなく隅に追いやる。折角の夏である。新たな水着を前に真剣に悩む彼女の様子を堪能するところからはじめなければ意味がないのである。
 未悠にはどんなものでも構わないと話しはしたが、やはり自分好みの一着を選んでほしいとも思うし、彼女の好みをより詳しく知ることもできる筈で、何より惜しくも選ばれなかったいくつかを試着して見せてもらえれば、恋人の貴重な格好がいくつも見れるという素晴らしい計画なのである。
 ちょっと際どい水着を勧めた時の反応も絶対に可愛いはずなので見逃すわけにはいかないのである。別に着てもらえないとしても照れ顔だけで十分過ぎるのだから。まさにローコストハイリターン!
(流石にカメラはまずいだろうしね)
 それはそれで後日部屋でやるつもりだけれど。どれだけ効率よくいくつもの恋人の水着姿を拝めるかという計画を立てるには、恋人に知られず実際に現地に来るのが一番。未悠からの申し出だという点が特にいい。企みを悟られる可能性は減っただろうし、何より楽しいデート計画がまた一つ増えた。
(本当未悠には感謝だね。……んー? うん、まだ迷ってる)
 未悠の居場所を把握しそちらに足を向け直す。女子の買い物が長くなることは織り込み済みだからこそ、余裕を持っていられる。未悠が水着に迷う時間が長いほど、リクは自然に「彼女に来てほしい水着リスト」が作れるというわけだ。予め方向性を決めておけば、実際の彼女が水着を前に悩む姿を見逃すことがなくなる。どこまでも自身の欲求に忠実に、計画を練っているわけなのだった。

「えっ、私?」
 待たせたね、とお決まりの文句を用意していたリクと未悠の間を影が遮った。
 心底驚いた様子の未悠は、普段を知っているリクとしても随分とまた無防備に見えていた。声をかけた二人組の男、つまり遮った影達も同じことを考えたのだろう、未悠を囲み猫なで声が聞こえている、リクからは見えないが、さぞ気持ち悪い笑顔でも浮かべているのだろう。狙いがシースルー過ぎて周囲のカップル達の視線が真っ白な事も気づいていないあたり、足りなさが極まっている。
(うっわ~。確かに未悠は美人だと思うけど、無いわ~)
 女性用の水着コーナーに男だけで張ってる時点で最低だ。どれだけ飢えているのか。
(確かにさっきの未悠は儚げに弱そうに見えたのかもしれないけど……タイミング悪すぎ。笑い話だね~)
 自分達から背後を取らせてくれた愚かな二人組を、片手で一人ずつ押しやる。すぐに身を滑りこませて威圧込みの笑顔を決める。
「先約があるから、君らはお呼びじゃないんだけど?」
「!」
 気配で気付いてたらしい未悠がサッとリクの背後に隠れた、かすかに奮えている。
「初対面の男二人に寄って集られ、僕の家族が怯えてるだろ……失せな」

 男達の背も見えなくなったところで、ゆっくりとリクの声が届く。
「……未悠ー、そろそろ収まってほしいんだけど?」
「だ、だって……」
 もう駄目、声を出したら止まらないに決まっている。ああでももう面倒な相手は居ないからいいのだったかしら?
「リクってば……っ!」
 口元をしっかりと抑えていた手はもう自由で、未悠の声が軽やかにフロアに響く。事件性はなくなっているため、集まっていた視線ももう未悠の声を気にすることはない。なにより楽しそうで、どこか音楽的な響きを含む声は店のBGMにのって一つの演出かのように馴染んでいた。
「ああ、可笑しかった……っ! もう、あと少し遅かったら台無しだったわね!」
 折角格好良く決めてくれたリクの邪魔をするのは悪いと思って隠れたはいいが、まさか演出のひとつに加えられてしまうとは!
「こっちもそれなりに冷や冷やしたんだけど?」
「そうかしら? 楽しそうに見えたわよ?」
 別に私一人でも対処は出来たのに、わざわざ割り込んできたのがいい証拠だ。それにリクの身体を微かに電流が走っている様子が見えたので。さぞかし殺気は強かっただろうと思う。
「そりゃまあ、せっかくの機会だしね? 練習になるかな~なんて」
「そもそも彼女と離れたりなんてしないでしょうに」
 恋人同士ではないから、其々のコーナーで水着を見ていたわけで。お互いに自身の恋人と来ていれば、周囲のカップル同様に二人行動していたに決まっている。
「当たり前。未悠相手にキザな台詞とか、笑いそうになってたから僕もそろそろきつかった」
 失礼ね、なんて軽口は簡単に交わせる。友人よりも近い気楽な距離感。
「それはそれは、表情筋がお疲れではない?」
「そこはほら、弟遣いの荒い姉貴分のためですから~?」
 確かにいくら気心が知れているとはいえ、恋人とは別の異性と来ていい場所ではないのはわかっていた。けれど彼との時間をとれるなら別の為に取っておきたかったのだ。
 彼となら何をしていてもどこに居ても幸せになれるけれど。買い物を長引かせ過ぎて退屈させる、なんてことは避けたかった。
(男性視点を参考にしたかったというのも、あるのよね……)
 今回はたまたまリクの都合もついたので、いい機会だと思ったのだ。
(リクも付き合いたての彼女がいる訳で、その話も聞けそうだものね)
 思っていた以上に、理由はたくさんあったわね?
「ふふ、そんなリクにはご褒美をあげようかしら♪」
 笑いの波は治まっている。機嫌よくそう言えば妙な視線が返されて。
「今日の話を半月ほど口外禁止にしてもらえれば」
「……何を考えているのか薄情なさい、この愚弟」
「ひどっ!?」
「冗談よ♪」
 実際は心配になったのだけれど、視線で察したようなので言葉にはしないでおく。
「最終的に、下見に来たことはちゃんと教えるんでしょう? 尋ねに来られたら、私からもきちんと説明してあげるわよ」

 恋人と行ってみたいカフェのはす向かいにある食堂で、遅めの昼食となってしまった。
「ごめんなさいね、私がなかなか決められないから……」
 頭を下げる未悠にリクは首を振る。
「結局買えなかった、とか思ってそうだけど。それが正解だからね、未悠?」
 別の男と一緒に行って買ってきた水着なんて普通、嫌に決まっている。
(なにより僕も恨まれたくないし)
 お互いの恋人とは面識がゼロというわけではない。深く知っているというわけではないけれど、同じ男として、これは必要な配慮のはずだ。
「ある程度まで候補を絞れたんだから、その中から好みの奴を選んでもらいなよ」

「そうよね、やっぱり彼の気に入ったものを着たいわ。彼の分も一緒に選んで……」
 候補は全て試着して、実際に見て確かめてもらって。お互いに納得のいくものがいい。互いの色もよいが、同じデザインで揃えるのも捨てがたかった。
 今日のおかげで悩む時間が減らせたのだ、揃っての買い物を楽しめそうな気配に未悠の心は弾む。 
「選択肢持ち出された時点で、事前準備があったのはすぐばれると思うよ」
「ぁ……っ!?」
 察しのいい彼の事だ、それはあり得過ぎる予測だった。
(でももうなかったことにはできないわ……)
 彼に負担をかけないことばかり優先し過ぎて、大事なことを見落としてしまっていた。
「はじめからすべて説明するしかないわよね」
 思い込んだまま、また走り抜けようとしてしまっていた。ずっとそんな自分を見せていたから、想いは疑わないでくれると信じているけれど。
「さっきのお返しじゃないけど、僕も説明……一筆、したためとく?」
 未悠でさえ会える機会が限られているなら自分に時間を割かせるのも良くないだろう、そう提案してくれるリク。
「……私、いい弟を持ったわね……」
「大袈裟じゃない?」
 すっかり腰が低くなった未悠の感謝の言葉が、しばらくの間繰り返されていた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【ka3199/高瀬 未悠/女/21歳/征霊闘士/暴走猫は覚悟を決める】
【ka0038/キヅカ・リク/男/21歳/守護機師/策士はマイペースに罠を仕込む】

このノベルはおまかせ発注にて執筆させていただいたものになります。
似た者狩る者青色同志、食後の茶請けに惚気合戦も行われました。
恋人同士の初めて記念日、どれも思い出深きものになりますように。
『海風のマーチ』
  • 0
  • 0
  • 0
  • 0

発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
未悠(ka3199)
副発注者(最大10名)
鬼塚 陸(ka0038)
クリエイター:石田まきば
商品:イベントノベル(パーティ)

納品日:2019/07/16 13:58