※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
過去は曇りでも

 ――子供の頃、ヒーローになりたかった。他の人にない特別な力を持っていて誰かを守ることが出来る。人の為に何かを出来る強さがあるなら、きっと愛される筈だ。鬼塚 陸(ka0038)は理屈も抜きにそう信じていた。だから格好良さより先にヒーローになりたかった。結局はゲームみたいな分かりやすい英雄なんて世の中には必要とされていなくて、自分には絶対になれないと思い知る羽目になったが。
 すぐ妻の顔が見たくて、彼女と過ごす平穏なひと時を楽しもうと急ぎ帰ったところまではよかったものの、一人で仕事に出掛け、彼女がリゼリオから出ていない日は陸がデザートを買って帰る恒例行事をうっかり忘れてしまっていた。彼女は当然、わざわざ買いに行かずともいいと陸を引き止めたのだが、自分が納得出来なくて家を出てきてしまった。
(だってもうじき出来なくなるじゃないか)
 あのアパートなり、どちらかの故郷なり、歪虚やマテリアル汚染から遠ざかって普通の幸せを手にするという選択肢もあった。五年を超える転移してからの日々を駆け抜けてきて、現在ここにある緩やかな時間も居心地がよかった。妻との未来を一番大事にしたいと思えば尚のことだ。ただ失われた世界の再誕を知ることは出来ないかもしれないが、邪神を倒したことでクリムゾンウェストやリアルブルーに起きた変化をこの目で確かめることは出来る。それは、今があって未来に続いているこの世界線の、大きな決断を下した自分たち守護者――いや、ハンターがこれでよかったと確かめられる唯一の手段でもあった。世界の今を見て自分に出来ることをする。自分らしく生きることにも繋がる、大きな意味のある行為だ。だから二人で旅に出ると決めた。悩む陸に比べて、妻の返事はあっさりしていた。固い信頼と深い愛ゆえの結論にいっそ泣きそうになったのを覚えている。
 知り合いが経営している菓子店を目指しながらもまた、様々な記憶が陸の脳裏をよぎっていく。家に帰る前にはあった寂しさが、思い出を軸に無数の絆と繋がっていると信じられて、希望へと変わる。
 矛盾の守護者という肩書きは陸が子供の頃思い描いたヒーロー像そのものだ。けれどなりたかったものになっても凡人は凡人で、それでいいのだと思っている。一人一人と向き合うにはその方がいい。だから夢を掴みに行く。
 ――まずは妻が明日も笑っていられるように。地を蹴ってこの先も陸は自分の足で歩いていく。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ヒーローのくだりを本編では尺の都合で拾えなかったのと、
つぶやきのお土産のデザートが凄く所帯っぽい感じがして
好きで、そこにちょっとでも言及してみたかったので
本編のちょっと後のお話として入れて書いてみました。
FNBは既にシナリオ発表が終了しているということで、
寂しいですが未来が分かっているから書ける話もあるのが
面白いところだなあと思っていたりもします。
特に陸さんと初めてご縁をいただいた時には
結婚や旅に出たり起業したりするのは勿論のこと、
転移前の家庭の不和も分かっていなかったりしたので……。
過去を知ると陸さんが今幸せでいられることがより嬉しく
感じますね(お前は陸さんの何なんだという話ですが!)。
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
鬼塚 陸(ka0038)
副発注者(最大10名)
クリエイター:りや
商品:おまけノベル

納品日:2020/02/18 14:20