※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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ハンターロイドのティーパーティー
キリリ。キリリ。キリリ……。
繰り返される乾いた音。背中のねじを回す、機械仕掛けの小さな手……。
「あんのうんさん、起きてください。お茶の時間ですよ」
聞き覚えのある声。ゆっくりと目を開ける黒の夢。
無機質な金色の瞳。そこに映るのは、赤や黄色、茶色、白の積み木。
色とりどりのそれらをよく見ると、ケーキの形をしている。
そしてその中心は部屋になっていて……彼女の後ろには銀髪の、ネジがついた人形がいた。
「うななー、シグリッドちゃんいらっしゃいとおかえりなのなー」
「はい、ただいまです。……僕らからしたらあんのうんさんこそおかえりなさい、ですけどね」
「うな?」
かくり、と小首を傾げる黒の夢。シグリッドからにこやかな雰囲気が伝わって来るが、表情は変わらないまま。
彼の背にも黒の夢と同じような大きなネジがついている。
「れいちゃんのばかー! 『もうちょっと待て』なんていうからあんちゃん止まっちゃった!」
「ちょっとタイミング見誤っただけやろが。元に戻ったんだからええやんけ」
浅黒い肌に黒髪のエルフに向かってぷんすこと怒る女の子。彼女の頭にある白い長い兎耳がをぴょこぴょこと揺れている。
この2人の背中にも見える大きなネジ――。
「うな。カヤちゃんもレイちゃんも仲良くなのな」
「はーい!」
「へいへい」
2人の返答に、カタン、と音を立てて頷く黒の夢。
どうやら満足しているようで……。
そう。彼らは体長10cmほどの小さな人形だ。
動力は電気と、ネジというちょっと厄介な構造で……動力を失うと止まってしまい、その間は何をどうしても記憶されない。
人形故に表情も特段変わらないが、感情はあって――。
彼らは、この積み木のケーキの家で仲良く暮らしている。
――自分達がどこから来て、一体いつからこうしていたのか。
覚えているものは誰一人としていない。
だが、そんなことは些細なことだ。
だって毎日楽しいし。この家から出ることはないけれど、賑やかで退屈している暇もない。
時折、どこからともなく仲間が動力を求めてやってくる来ることもある。
客をもてなすのも楽しい。毎日がお祭りだ。
だから――彼らはとてもシアワセだ。
「だから何でつつくんだよ!」
「だってめずらしいもん!」
「つつく理由にならねえだろ! お前も何か言えよ!」
「……ああ、世話になるな」
黒い髪の2体の人形の頬をつつきまくるウサミカヤ。
赤い目の方の人形がわーわー騒ぐ一方、黒い目の方はとても静かだ。
久しぶりにやって来た客人に、黒の夢はびょーんとジャンプして飛びついた。
「スーちゃんもバターちゃんもいらっしゃいなのな!」
「バタルトゥさんお久しぶりです。……スメラギさんは相変わらず小さいですね!」
「久しいな。皆息災で何よりだ」
「うっせ! 喧嘩売ってんのか!?」
挨拶をするシグリッドに頷くバタルトゥと吼えるスメラギ。
ウサミカヤはガバッと立ち上がると拳を振り上げる。
「喧嘩!? 喧嘩よりかけっこしよーよ! かけっこたのしーよ!」
言うが早いか皆の周りをぐるぐると走り出す彼女。
その首根っこをレイがむんずと掴む。
「ほれ、お茶淹れてんのにほこり立つやろが。大人しくしいや」
「やだもーん! はしるもーん! れいちゃんのばーか」
「あーそうかい。……うさぎ肉美味いやんか。鍋にして食うかね」
「ぴっ!?」
ニヤニヤとしている(ように見える)レイにびくーーーーっとするウサミカヤ。
兎耳をシオシオとさせて涙目でレイを見る。
「うさぎは食べもんじゃないよ」
「そうかぁ? 非常食にもって来いだと思うんやけどなあ」
「うさぎは食べもんじゃないよ」
「ミートパイも捨てがたいなぁ」
「うさぎは食べもんじゃないよ」
「レイちゃんお腹空いてるのなー? きにょこ食べるのなー」
そこにひょこっと顔を出した黒の夢。レイの口に問答無用でキノコを突っ込む。
「うわあああん! あーちゃん! れいちゃんがいじめるううううう!!」
「カヤちゃんにはにんじんなのなー」
泣きつくウサミカヤ。振り返りざまに黒の夢がニンジンを放り込む。
「わー。静かになって良かっ……ってお二人とも大丈夫ですか?」
「おおお……シグ坊……。ちょっとお花畑が見えたぜ……」
「あーちゃんがくれたにんじんおいしー」
キノコが喉にジャストミートしてピクピクしていたレイを救出するシグリッド。ウサミカヤは大好物のニンジンだった為かニコニコとしている(ように見える)。
今回やたらと(ように見える)という表現が多発しているが、何しろ人形なので全部雰囲気で察するしかないのだ!
本人達は全く困ってなさそうですけど!
「きにょこ、スーちゃんとバターちゃんも食べるのな?」
「い、いや。遠慮しとく……」
「何で? きにょこ美味しいのな」
「……生で食べるのはちょっとな……」
「きにょこにょこにょこなのな」
謎の呪文。何だろう。何故にこんなにキノコ推しなのか。
両手にきのこを構えてずずいっと迫る黒の夢は何ともシュールで、スメラギとバタルトゥがじりじりと後退していく。
どちらかが動いたらやられる……!
そんな緊迫感。
それをぶち破るようにシグリッドが割って入った。
「あんのうんさん、きのこもいいですけど……」
「うな?」
「あっ!」
「……あ」
「あーあ……」
「わー! しぐりーのお口にきにょこが2本立ってるーー!!」
五人五様の反応を見せる総員。うさぎさんのご説明の通り、シグリッドさんがその……大ピンチです……!
「きゃー! きゃーーー!!」
「わーー! わーーーー!!」
「おい、シグリッド、生きてるか?」
「あああ……僕の方が背が高いのに。お兄さんなのにぃ……」
「……この様子なら大丈夫そうだな」
「とりあえず茶淹れてやるさかい……立てるか? ああ、その前にネジ巻いた方がええな」
何故かぐるぐると走り回っている黒の夢とウサミカヤ。
スメラギに介抱されて、何故か悔しそうにしているシグリッドに、バタルトゥが安堵のため息を漏らす。
助け起こされた少年の背のネジをキリキリと巻くレイ。彼の発した『お茶』の一言に、黒の夢とウサミカヤの足がぴたっと止まる。
「レイちゃん、お茶淹れるのな!? 飲みたいのな!」
「お砂糖たっぷりいれたーい!」
「へいへい。ちょっと待ってや」
「あ、僕お菓子出しますね。というか、さっきも出そうと思ったんですけど……」
「お前大丈夫かよ?」
「手伝おう……」
ネジを巻いて貰って元気に起き上がったシグリッド。ポットを手にしたレイに、スメラギとバタルトゥも手伝いに入って……。
立ち上る湯気。ポットから注がれるオレンジ色の紅茶。爽やかな香りが鼻をくすぐる。
そして、シグリッドはクリームがたっぷり乗ったシフォンケーキを運んで来た。
「お待たせしました。お好みで蜂蜜かけて召し上がってくださいね」
「わーいわーい! ケーキだあああ!」
「クッキーもありますよー。うさぎさんの好きなニンジン型と、キノコ型と……」
「わーいわーい! ニンジンー!!」
お菓子を前に万歳三唱のウサミカヤ。しゅばっとすごいスピードで席につく。
シグリッドが並べるクッキーを覗き込んでスメラギが驚きの表情をした(ように感じた)。
「おい。今日やけにキノコ推してくるけど何なんだよ!?」
「坊主。細かいことは気にしなや。若いうちからそんな細かいことにこだわってるとハゲるで?」
「だ、誰がハゲだよ!!」
ニヤリとしている(ように見える)レイに何となく頭を押さえるスメラギ。
仲間達のやり取りをぼーっと見ていた黒の夢は、くるりとバタルトゥに向き直って口を開けて見せた。
「バターちゃん。あーん」
「……どうした?」
「食べさせてなのなー」
「……自分で食べられるだろう?」
バタルトゥがそう返した途端、黒の夢の目にぶわっと溢れる涙。ぼろぼろと泣き出した彼女に、バタルトゥが微かに動揺した(ように見えた)。
「な、何故泣く……!?」
「バターちゃんがつめたいのなあああ」
「……冷たいとかそういう問題ではなくてだな……自分で出来るだろうと……」
「うええええええええええええええええええええん」
「あー! あーちゃん泣かした! いけないんだー!」
黒の夢とバタルトゥの周りをぐるぐると周り出すウサミカヤ。
騒ぎを聞きつけたシグリッドが戻ってきてため息をつく。
「あーあ。こうなっちゃうとあんのうんさんなかなか泣き止まないんですよねえ」
「……どうすれば泣き止むんだ?」
「簡単ですよ。バタルトゥさんがあーんでケーキ食べさせてあげれば万事解決です」
「しかし……」
「やらないとずっと泣きっぱなしですよ? いいんですか?」
「うわあああああああああああああああああああああああああん」
「いーけないんだーいけないんだー!」
ビシッと言うシグリッドと、追い立てるようにぐるぐる回るウサミカヤ。
泣き止むどころかどんどん泣き声が大きくなる黒の夢の様子に観念したのか、バタルトゥはフォークにケーキを刺すと、黒の夢の口元まで持っていく。
「ん! おいしーのな。ありがとー! バターちゃん」
ケーキを口に入れた途端、ぴたりと泣き止む黒の夢。
その変わり身の早さに、バタルトゥは若干驚いたようだがやはり表情は変わらない。
まあ、元々人形なので表情(以下略)。
そういう意味ではバタルトゥが人形になって一番違和感がないのかもしれない。
その横で、スメラギが一心不乱にケーキを食べていた。
「おっ。このケーキ美味いな!」
「でしょでしょ。僕の自信作なんですよー!」
「シグ坊腕上げたなぁ」
「いえいえ。レイおにーさんにはまだまだ敵いませんよ」
「これは負けてられへんなぁ。ここは一つ、俺も料理を披露するか」
レイに褒められて恐縮するシグリッド。彼はすっくと立ちあがると、魔法のようにどこからともなく料理を出して、次々と並べていく。
「わーい! レイちゃんのお料理なのなー!」
「わー! おいしそー!」
「かぼちゃのグラタンやろ。あとかぼちゃのスープに、かぼちゃのキッシュ、かぼちゃのサラダ……」
テーブルに所狭しと並べられたかぼちゃ尽くしの料理に、黒の夢とウサミカヤが目を輝かせる。
「今度はかぼちゃ推しかよ」
「ハロウィンだからなぁ。ま、味は保障するから食ってみろって」
スメラギのツッコミにニヤリと笑った(ように見える)レイ。
バタルトゥは行儀よく手を合わせると静かに料理を口に運ぶ。
「……うむ。シグリッドのケーキも美味いが、レイの料理も美味いな……」
「お。料理上手と名の高いあんたに言われるたぁ光栄だねぇ」
「シグリッド、レイ……。迷惑でなければ是非、レシピを聞きたいのだが……」
「はい! バタルトゥさんにはお裁縫教えて貰いましたしね! それくらいお安い御用です!」
「シグ坊が世話になったんじゃ、断る訳にはいかねえやなぁ」
料理上手の男たちが料理の話で盛り上がる中、スメラギとウサミカヤはもっもっもっとすごい勢いでごはんを食べていて――。
その光景を金色の瞳に映す黒の夢。
だいすきな、だいすきな皆。
――人形という器にも、彼らへの溢れんばかりの愛が詰まっている。
「みんな、みんなだいすきなのなー!」
「……!? こら、やめ……」
「おー。アンノ。どうしたー。よしよし」
「わ、わ。あんのうんさんダメ、ダメですって……!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「うひゃほーーー!!」
仲間達に飛びつき、ちゅっちゅとキスの雨を降らせる黒の夢。
思わず飛びずさるもの、あっさり受け入れるもの、恥ずかしがるもの、悲鳴をあげて固まるもの、よくわからずにぐるぐる走り回るもの……。
――反応は様々だけれど。それでもやっぱり彼らがだいすきだ。
「……そういうことは軽々しくするものじゃないと言っているだろう」
「えー。だってみんな大好きなのなー。じゃあ今からするって予告すればいいのな?」
「予告あっても死ぬわ!!」
「ほらほら、アンノ。飯はいいのか? 腹減ってるだろ」
「あ、そういわれてみればそうだったのなー」
「ネジ緩んでませんか? また巻いてあげましょうね」
「あたしもあーちゃんだいすきよ!」
「ありがとなのな!」
「さあ、もう一度席について、飯にするとしようや」
「「「はーい!!」」」
ハンターロイドのティーパーティー。
終わりの見えぬお茶会。
だって毎日楽しいし。この家から出ることはないけれど、賑やかで退屈している暇もない。
時折、どこからともなく仲間が動力を求めてやってくる来ることもある。
客をもてなすのも楽しい。毎日がお祭りだ。
だから――彼らはとてもシアワセだ。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka0187/黒の夢/女/26/ぼんやりとした人形
ka0248/シグリッド=リンドベリ/男/13/世話焼きな人形
ka0183/レイ=フォルゲノフ/男/30/男前な人形
ka0490/ウサミカヤ/女/16/うさぎさんな人形
kz0023/バタルトゥ・オイマト/男/28/仏頂面な人形
kz0158/スメラギ/男/13/元気な人形
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。
ハンターロイドになった皆さんのお話、いかがでしたでしょうか。
ほのぼのというよりは大分シュールなギャグよりになってしまったような気がします。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。
ご依頼戴きありがとうございました。