※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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5年目の初めてを
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「~♪」
上機嫌な鼻歌と共に、エリーゼ・G・リデンブロックが纏うスカートの裾がふわりと揺れる。その指が触れるのは機械ではなく、チョコレート。気持ちがふわふわと弾んで、時に笑みが零れてしまうのだって仕方ない。
生まれ育った世界から転移して5年。バレンタインは5回目。けれどこれまでと今年がこんなにも違うのは、『彼』の存在に他ならなかった。
「……できた♪」
5年目ともなれば、お菓子作りも慣れたもの。
エリーゼは目の前に並べたチョコレートを満足げに眺めて、味見に1つをぱくり。舌の上で蕩けるチョコレートは甘く、滑らかで──これなら彼へ自信を持って渡せるだろう。
ちらりと時計を見遣るが、まだ彼が帰ってくるまでには時間があった。エリーゼは手早く調理器具を洗って片づけ、予め買い込んでいたラッピング用品をテーブルへ広げる。雑貨屋で1つに絞ることができなかったので、チョコレートを作ったら改めて選ぼうと何種類か用意したのだ。
「ハルに似合ってて、喜んでもらえそうなのは……」
家で渡すからすぐ出してしまうだろうし、ラッピングを見る時間は決して長くない。そう思ってしまっても彼に似合う色、喜ぶ色でラッピングがしたいのが恋する乙女。
何色か買ってきたそれらを順繰りに見て。チョコレートを見て。彼を思い浮かべて。悩んで悩みきった末に1つの色へ手を伸ばす。結ぶリボンも何種類か用意してある。色はどうしようか。柄は? 結び方は?
それらが決まれば、普段の機械弄りとはまた別の緊張感を胸にチョコレートを包む。しわが寄らないように。リボンが捩れてしまわないように。
きゅ、とリボンの結びを締め、手を離す。上から見て、横から見て、持ち上げて下も見て。
「──完成! よかった、綺麗にできたー!」
達成感のままに声に出し、エリーゼはぎゅうっとそれを胸に抱く。あとは彼の帰りを待つだけだ。そろそろ帰ってくる頃だろうとエリーゼは時計を見て──。
「……あれ?」
──エリーゼは小さく首を傾げた。
(もう帰ってきていいはずなのに……)
時計の針は、とっくに彼の帰宅時間を越えている。エリーゼが僅かな不安を感じたその瞬間──彼女は瞠目した。
脳裏に浮かんだのはエリーゼと彼が生きていた世界の情景。蒼の世界が、突如封印された日。
物事はいつだって突然だ。あの日も、エリーゼたちが転移した時も。だから、もし、
(──ハルに何かあったら?)
気が付けばエリーゼはできたばかりのチョコレートを手に、部屋を飛び出していた。
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(ちょっと遅くなっちゃった)
はぁ、と息を吐きながらハロルド・H・オーウェンは空を見上げる。その空はいつも見ているそれより、少し時間が進んだ景色。春は近づいているのだろうが、まだまだ空気も冷たい冬の空だ。
けれどもハロルドは寒さを気にした風もない──いや、寒さを気にしている場合ではない、と言った方が正しいか。
(初めてのことだから、大丈夫かな)
もちろんリアルブルーにもバレンタインと言う文化はあった。クリムゾンウェストでもすでに5回目となるバレンタイン。けれどこんなに緊張してしまうのは、恋人として過ごすそれが初めてだからに他ならない。
ハロルドが中性的に見られる事もあって、傍から見ていれば彼女とは仲の良い姉妹のようだったと思う。だから一緒に行動することも多かったし、バレンタインを共に過ごすこともあった。その関係性が恋人へと変わり、初めての恋人に対して接し方に迷っている──不安を感じていると言うべきか。
自分は恋人としてちゃんと振る舞えるだろうか。エリーゼはそう感じてくれているだろうか。
ふと視線を巡らせれば、道行く多くは男女の連れ合いだ。バレンタイン当日だから当然だろう。ハロルドは主に男性の一挙一動をそれとなく視線で追ってみる。
──だが、いくら観察してもこの不安は晴れそうになかった。
恋人の待つ家までをぶらぶらと歩きながら、ハロルドは観察をやめて彼女のことを思いだす。
同僚だった彼女とは恋人になる前から思い出が多い。1つ、また1つ。順に思い出していれば笑みも浮かんだ。
(懐かしいな)
懐古の感情と共に愛おしさも湧きあがる。大切な彼女を守ってあげたい、とも。
同時に思い浮かぶのは昨年の聖輝節──クリスマスのこと。
『僕が1人の男として、エリーを守る』
それはエリーゼへの宣言でもあり、自らへの誓いでもあったかもしれない。そして──今、再び心に誓う。
(僕が男として彼女を守って、必ず一緒に地球に帰って──幸せにする)
この先何があろうとも、彼女は守り切る。そして自分も生き残って、あの蒼い世界へ2人で帰るのだ。
家へ辿りついたハロルドは鍵を開け、中へ1歩踏み出した。
「ただいま──」
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「……エリー?」
聞こえてこない『おかえり』にハロルドはこてんと小さく首を傾げる。だが、廊下を進めばすぐに気づいた。
(甘い香り……チョコレートかな?)
キッチンから漂ったのだろう。微かな香りが廊下にふわりと漂っている。恐らくエリーゼが今日のためにチョコレートを作っていたに違いない。
さらに進んでいけば、彼女の部屋から明かりが漏れていることにも気が付いた。チョコレートを包装していたからハロルドの帰宅に気が付かなかった、ということなら納得もいくのだが──さて、これは声をかけるべきか。
帰宅に気付かなければエリーゼがそのうち不思議がるだろうし、かといってタイミングによっては怒られかねないのではとも思う。こんな時、恋人としての振る舞いはどちらが正しいのか。むしろどちらも正しくない可能性もあり得る。
短い黙考の末──体感は長くも感じたが──ハロルドは声だけかけてみよう、と部屋へ近づいた。息を吸い込んで、彼女の名を呼びかけ──。
「えっ……!?」
突如扉が開き、中から何かが飛び出してくる。煌めく金髪の女性はハロルドに向かって飛び込み、その身長差も相まってハロルドは廊下へ押し倒された。
「……エ、エリー?」
「……ハル? ご、ごめん……びっくりした……?」
驚いたのはハロルドだけではない。恋人である女性──エリーゼもまた彼の存在に目を丸くし、しゅんと眉尻を下げた。そんな彼女へハロルドは状態を起こすと笑みを浮かべ。大丈夫だと言うようにしっかりと抱きしめる。
「……エリー、ただいま♪」
「おかえり……」
すぐいつも通りに戻ると思っていたハロルドは、普段よりも沈んだエリーゼの声に目を丸くした。同時に、気づく。ぎゅっと抱きしめ返した体が小さく震えていることに。どうやら落ち込んでいるのも、飛び出してきたのも何かの原因があるようだった。
良かった、とエリーゼは小さく呟いた。
目の前に彼がいる。彼の体温がある。触れた所から彼の脈拍を、心拍を感じられる。それはとても、とても深い安堵だった。そして同じように、自分たちがどれだけあやふやで不確かな世情の中にいるのかを感じてしまった。不意にいなくなってしまう、なくなってしまう──それは起こりうるものなのだ、と。
ハロルドにエリーゼの心の内を見通すことはできない。けれど、彼女の様子からなんとなくは感じられて。
(何か、怖がってる……不安だった?)
それに気づいた瞬間、ハロルドの心に巣食っていた落ち着かなさは掻き消えた。視線を巡らせ、そばに落ちていたチョコレートのプレゼントに気付いて拾い上げる。
「ねえ、エリー」
名を呼べば綺麗な蒼玉の瞳がハロルドを見つめた。
「これは僕に、だよね?」
「あ……そう、ハルに。今年のバレンタインの、プレゼント」
ラッピングしたそれを見せられ、エリーゼはようやく自らの手から離れていたことに気付いたようだった。小さく頬を染める彼女とチョコレートを見て、ハロルドの口元が綻んでいく。
勿論、これまで貰った時だって嬉しくなかったわけじゃない。けれど想いを通じ合わせて、大切で特別になった相手から貰うというのは──。
「嬉しい……うん、本当に嬉しい。エリー、ありがとう……!!」
実感するそれを噛みしめるように呟いて、ハロルドは満面の笑みを浮かべた。まるで花が咲くかのようなそれに釘付けになるエリーゼへ、不意打ちで唇を重ねれば彼女の瞳が真ん丸に見開かれる。
「んっ……ふぇ、っ……!?」
ほんの一瞬の、初めてのキス。ともすれば幻だったのかと思わせるような時間で、けれどその熱はしっかりと伝わった。
「……えへへ、ごめん──ガマンできなかった。本当に、ありがとう」
真っ赤な果実のように顔を上気させたエリーゼへ、ハロルドがくすりと笑って告げる。嗚呼、顔も熱いけれど──唇はもっと熱くて仕方がない。色々と考えていたことだって、今のキスで全て吹っ飛んでしまった。
「エリー、立てる? 廊下で座り込んでたら冷えちゃうよ」
そう、2人は廊下に座ったまま抱き合っている。このままでは足元から冷えてしまうだろう、とハロルドはエリーゼを促した。彼女の体を支えて立ち上がらせると、ふわりと揺れるスカートの裾がハロルドの足を擽る。
「今日のエリー、とっても可愛い」
普段──機械弄りの時は汚れてもいいように、そして動きやすいようにツナギなどを着ていることが多い彼女。けれど好いた相手には可愛く綺麗に見てもらいたい、なんて思いもあるのだろう。
恋人関係を結んだことで女性らしい服を着る頻度は上がった。だが実際に言われると何とも気恥ずかしく──さらに顔を上気させることとなる。
仲の良い姉妹のような関係は恋人というそれに。リアルブルーは封印され、クリムゾンウェスト各地も状況は刻一刻と変化を迎えている。
多くのモノが変わり、未だ変わり続ける。けれど──。
「あ……その、部屋……入る?」
「うん。一緒にチョコ、食べようか」
──まずは2人で、大切な甘い時間を過ごそう。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka0593 / ハロルド・H・オーウェン / 男 / 14歳 / 機導師 】
【 ka0257 / エリーゼ・G・リデンブロック / 女 / 19歳 / 機導師 】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして。お2人のバレンタインな1日、お届けいたします。
恋人同士で過ごすバレンタインを書かせて頂き大変光栄でした!
甘くなりましたでしょうか。お2人を取り巻く現状は中々甘くないようですが、密かに応援させて頂きたいと思っております。
リテイク等ございましたらお気軽にお申し付けください。 お2人のイメージに沿えていましたら幸いです。
この度はご発注、ありがとうございました!
副発注者(最大10名)
- エリーゼ・G・リデンブロック(ka0257)