※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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magicians' box
●パンドラ
――その箱には、思いつく限りの贈り物が詰まっているという。
一度蓋を開けてしまったならば、取り返しのつかないことになるらしい。
だから触れない方がよいという教訓にすべきだと、物語の中では終わっていた。
開けてしまったなら、箱からなくなってしまったのなら。
取り戻すなり、かわりを集めるなり、詰めてしまえばいいのでは?
だから探して、調べて、確かめて……新しく生み出したって構わない。
詰める努力をしてはいけないなんて、誰かが禁止したわけではないのだから。
●類似
その日の東小屋は珍しく、雨宿りの為の場所になっていた。
「……降って来たね」
「ワア、珍しいネー☆」
ジュードの呆けた声に、いつも通り楽し気なアルヴィンの声。
ここに来るときはいつも、晴れた日だ。だから晴れているのは当たり前で、このベンチから雨を見ることになるなんて考えたことが無かった。
(別の世界みたいだ)
いつもなら陽射しが差しこむテーブルも。笑顔のアルヴィンが座るベンチも。自分が持ち込んだティーコゼーだって、さっきと何も変わっていないはずなのに。
静かに降る雨の気配が、空気を湿らせる水が、太陽を陰らせる雲が。
この東小屋を別の空間へと切り離してしまったように思えた。
●ハートの駆け引き
「いつ止むのカナー?」
言いながらアルヴィンが取り出したのはトランプケース。ジュードも見る機会が多いそれは、手品であったり占いであったりと用途が広い。
「占うの?」
流石に手品は違うだろう、ならもう一方で。さっきの言葉を思えば、ここはこの後の天気を……だろうか?
「ンン、天気は占えないんだヨネ」
アルヴィンとトランプ、どちらにもとれる声。
「じゃあ、どうしてトランプなの?」
どう聞いていいのかわからなくなったジュードは、最初の疑問に戻ることにする。
「暇つぶしカナ? ハーティも一緒にドウ?」
言いながらアルヴィンは、テーブルの空いた場所にカードの山を広げていく。全てを使うわけではないようで、抜き出すのは一部だけ。
(ゲームみたいなものかな)
忘れがちだが、トランプはゲームにも使えるものだったはずで。
見る限り枚数は少ないし、そう時間がかかるものでもないのだろう。それこそ暇つぶしだと言っているのだし。
「じゃあ、教えてくれる?」
ティーセットをテーブルの端に寄せて、場所をあける手伝いを始める。
「勿論ダヨー♪」
アリガトー、と言いながら不要なカードをケースに戻して、アルヴィンはにこにこと笑った。
伏せたまま、テーブルクロスの上でウォッシュシャッフル。かき混ぜる。十数枚、二人がかりならそう時間がかかるものでもなくて。
その上で上下の向きもランダムにしたいからそこは譲れない。
更に交代でヒンドゥーシャッフル。どちらからでもいいけれど、それぞれの手がカードに触れることが大事。
最後は再び、テーブルクロスの上に伏せたまま散らして。
「それじゃハーティ、お先にどうぞなんダヨー」
促せば、わからないなりに一枚選び出すジュード。表にしないまま自分の傍へと引き寄せて、尋ねる視線。
「表にしちゃって大丈夫ダヨ。お互いに一枚ずつ選んで、足しタリ引いタリ、掛けタリ割っタリ。7が出来たら終わりなんダヨー」
「最初に7が出たら?」
「そこで終わりダネ♪」
簡単デショ? アルヴィンが首を傾げて問えば頷いて。最初の一枚が表になった。
――ハートの6、正位置――
(まさに、今のハーティみたいダネ)
疑いなくカードを扱う様子に、少しだけ目を細める。親友としての愛も、含まれているからカナ……?
信じて貰えているのだと分かって嬉しい。けれどそれとこれとは話が別で。
「それじゃ僕は7を狙っちゃおうカナ☆」
「あっリッチーずるい!」
「フフーフ、言った者勝ち、早い者勝ちなんダヨ?」
言いながら、ジュードの視線が向いていたカードを捲った。
――ハートの8、逆位置――
自分でも、一所に留まっていられる性格じゃないと自覚はある。身の置き所ではなく、心の置き所とでも言えばいいのか。
落ち着きがないとも評される、まさしく宙ぶらりんな状態。
これが正位置だったら、とも思うけれど。特別な相手がいるというわけでもなく。それほど強い願いがあるのかと聞かれれば即答はできない。
(それとも……僕がそう思い込んでいるカラ、とか?)
答えがわかる筈もなく。二枚目をどうぞとジュードに視線を向けた。
「残念だったねー! それじゃ……1出てこーい。エースはどこかな、ここかなー?」
張り合って念を込めるうちに楽しくなったのか、ジュードはカードをノックしている。
幾度か繰り返してこれぞと選んだジュードの二枚目が、捲られる。
――ハートの4、横向き――
表にした瞬間、引いた本人から見た向き。しかしこの場合はどちらだろうかとアルヴィンはいくつもの文献を読んだ記憶を探る。
(不安だトカ、頑固トカ……ウウン、ハーティなら、思った通りにならない状態ってところカナ)
迷いがあるからこその捲り方なのだろう。逆位置も加味するとすれば。
(新しい展開……それが、イイ結果を運んでくれるといいネ)
胸のあたりに小さな温もりを感じた気がしたアルヴィン。
迷いなく手に取った二枚目を捲れば、ジュードが目を瞬いた。
「あれっ、選んだりしなくてよかったの?」
「コレが気に入ったんだヨ☆」
――ハートのジャック、正位置――
(神託の皆の事だヨネ)
それ以外に読み解く気は起きない。アルヴィンにとって気のいい、良い友人達。目の前に座るジュードだってその一人だ。
各自に芯があって、共に過ごす機会が増える程に似ることはあっても、完全に混ざることのない仲間達。
自分が傍でふらふらしていても、急に真面目に過ごしても、どちらでも受け入れてくれるし、互いに引きずられない存在。
宙ぶらりんのままでも、彼等が居るから。そう思えることがどれだけ凄い事なのか。アルヴィンは頭では理解しているが、心では理解できていない。
「うーん……今度こそ!」
促されずとも三枚目を選び始めるジュード。このあたりで引き当てないと、長期戦の可能性も出てきていた。
――ハートの5、逆位置――
「リッチー! 見てこれ、足して引けば7!」
店を持つ者としても計算は速く、ジュードが笑顔で3枚を見せてくる。
一緒に凄いとはしゃぎながら、アルヴィンは胸の内でもう一つの賞賛を贈る。
(今みたいに、勢いつけて答えがでるのカモしれないね?)
仲間の幸せが約束される、なんて自信をもって言えるわけじゃない。けれど少しだけ先に良い事があるとみるだけでも嬉しいものだから。
「はー。意外と集中するし、緊張するねこれ。ねぇ喉乾かない? おかわり淹れるよ」
「お願いしちゃおうカナ。片付けは任せてくれて大丈夫ダヨ☆」
「じゃあよろしく!」
ジュードが身体ごとティーセットに向き直り、鼻歌が始まる。
視線がカードにない事を確認したアルヴィンは新たな一枚を捲った。
――予備札、白紙――
気紛れであり、戒めのつもりもあって入れた一枚。
(……マダマダ空っぽだってことくらい、わかっているんダヨ?)
「ところでリッチー?」
蒸らす状態になってから思い出す。ゲーム中はずっと集中していたせいで、尋ねる余裕がなかったのだ。
「どうして全部ハートだったの?」
同じ数のカードは入っていないのだろうな、という事は気付いていた。14枚だったから、残りはきっとジョーカーだろうと見当つけて。
「ハーティと僕なら、ハートしかないと思わナイ?」
スートを見てカードをより分けるのが一番簡単だからでもあるのだと説明されれば、納得できる。
(愛の彷徨人と……名前かな。……いや、あの人のこと、かな?)
ボッと頬が朱くなるのを感じながら、誤魔化すように言葉が滑り出す。
「でもほら、俺ならダイヤって考え方もあるしね?」
「フフーフ、それでも良かったネ?」
いつもの楽しげな笑顔に、からかわれたのだと気づく。皆といる時はこうしてからかわれるのは、どちらかというと恋人の方なのだが。
(改めて、自分に向けられるとどこか……恥ずかしいよ!?)
無意識に、手が自分の顔を仰ぐ。早く熱が引けばいいのに。
「そ、そろそろお茶がいい頃合いかな!」
●切欠
お茶が注がれる間、手は無心にカードをスライドシャッフルし続ける。
心臓を示し、感情を示すハート。だからこそ愛を知る手掛かりになるのではと考えて解き方の本を読んだのはいつだったか。
自分が空に近いからなのか、カードはよく答えてくれる。無意識に、自覚に近いカードを引き当てているだけかもしれないけれど。
(その方が可能性高いのカナ)
次第に手元が明るくなってくる。雨雲が薄くなり、陽射しが差しこんでくるのだと気が付いて。
いつもと違う状況に最初こそ緊張していたらしいジュードだが、今は大丈夫そうだ。アルヴィンはいつも通りに声をかけた。
「ハーティ、虹が出てるヨ!」
「本当だ! 今まで当たり前に感じてたけど。ここってこんなに明るかったんだね……!」
気分屋の雨がもたらした、現の夢を見る時間。
●ヒトの器
必ずしも、全ての隙間を埋める必要なんてない。
最後に残ったひとつがあるのだ、空っぽになったわけではないのだから。
ただ目指したという事実と、一欠けらでも手に出来たという達成感を。
見据えた何かに近づいたという実感を、ほんの少しでも得られるとするなら。
そこにはきっと意味があって、そうでもしないと何もかもを零してしまいそうで。
駆け抜けるための縁をそこに求めた、ただそれだけかもしれなくても。
――望んだ贈り物を集めて、最期を迎えられるなら。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2378/アルヴィン = オールドリッチ/男/26歳/聖輝導士/感情の欠片を繋ぎ合わせる、笑顔の奇術師】
【ka0410/ジュード・エアハート/男/18歳/猟撃術士/恋の欠片を積み上げる、お菓子の魔法使い】
副発注者(最大10名)
- ジュード・エアハート(ka0410)