※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
聖なる魔の物語

★20XX年 某月某日
 時は日付が変わる頃、地下にひっそりと存在しているバーに、全身に黒い布をかぶっている一人の少女が訪れる。
「おや、いらっしゃい。静玖様」
 バーカウンターでグラスを磨いていたシグ・ハンプティは顔を上げて、店内に入ってきた常連客に声をかけた。
「美味しい飲みもん、ありますえ?」
 客が身に付けていた布を外すと、現れたのはとてもじゃないが深夜を出歩くには相応しくない容姿の幼い少女だ。しかも額には鬼のような小さな角が二本、生えている。
「ええ、もちろん。カウンター席にどうぞ」
 勧められるまま、角の少女はカウンターの一番奥の席に飛び乗った。
「今宵は良い月夜どすなぁ。血のように赤く大きな満月が闇空の中で輝いておってな、おかげで獲物も見つけやすかったで」
 ペロリと唇を舐める仕草は、先程味わった獲物を思い出しているのだろう。
 シグはそれでも笑みを崩さぬまま、静玖の目の前に真っ赤な液体をそそいだグラスを置く。
「それはそれは、良かったですね。それでは食後のドリンクをどうぞ」
「うむ。……うん?」
 真っ赤な飲み物は静玖の食欲をそそる色ではあったものの、一気に飲み干すと渋い表情になった。
「……何かおかしな味がするどすえ」
「今が旬のトマトと赤紫蘇とアセロラのミックスジュースですよ。材料の全てが美容成分の高いものなので、女性のお客様に喜ばれると思ったんですけどねぇ。何故か不評で」
 シグの優雅な微笑みに魅了された女性客達は勧められるままジュースを飲んでみたものの、理解不能な味だったせいで精神的なダメージを受けたのだ。
「確かにトマトの酸っぱさと、赤紫蘇の風味、アセロラの甘酸っぱさが口の中でケンカをしているどす。マズいがもう一杯」
 空のグラスをカウンターにトンっと置いた静玖を、シグは嬉しそうに見つめる。
「そう言っていただけると嬉しいです。栄養は良いので、できるだけ女性客の方々に飲んでいただきたいんですよ」
 喜んで二杯目を作るシグとは反対に、静玖は遠い目をしながら深いため息を吐く。
「はあ……。この土地に来て大分経つけれど、お母はんはどこにおるんやろう?」
「情報屋として申し訳ありませんが、私の方には何の情報も来ておりません」
 シグは気まずそうな顔をしながら、お代わりを静玖の前に置いた。
「ですがあなた方のような方達を、狩るモノの存在のことは耳に入っております。『食事』を少々控えられてはいかがでしょう?」
「それは無理どす! ここにお母はんがいないことが分かったのならば、あるいは見つけることができたのならば、ここから去ることも考えるんどすけどなぁ」
 母親を探して夜な夜な歩き回っている静玖は、その途中で『食事』をすることが多い。
 しかしこのまま続けていればそう遠くない内に、静玖は狩るモノ達との戦いに身を投じる運命になるだろう。
(できればまだこの方には活躍してほしいんですけどねぇ。言葉で説得できる方ではないのが、少々残念です)
 片眼鏡の位置を指で直す振りをしながら、シグは考えを巡らせる。
「――それでは私の新作ドリンクの感想をいただきましたし、狩るモノ達の情報でもお教えしましょうか?」
「ほう、それは良いおすね。ぜひとも詳しく教えてもらおか?」
 二人は互いに笑みを浮かべながらも、緊迫した空気を醸し出す。


〇翌日の昼
「……あん? ちっ、仔犬からか」
 ヒース・R・ウォーカーは上着のポケットに入れていたスマートフォンが震えたので表示を見てみると、【仔犬】という文字が大きく出ており、渋々通話ボタンを押す。
「何だよ、昼間っから……」
『ヒースさん、大変なの~! 昨夜、また犠牲者が出たんだよぉ!』
 キィィンッと鼓膜が悲鳴を上げて、ヒースは思わずスマホを遠ざけた。いつもならばここで「うるさいっ!」と怒鳴るのだが、内容が内容なだけに真剣な顔つきになる。
「……今、どこにいるんだ?」
 電話の相手がいる場所を聞き、ヒースはそこへ向かい歩き出した。


「相変わらず甘いもんが好きだな」
 聞いた場所は、住宅街から少し離れた所にある喫茶店だ。しかし洋菓子を専門にしているらしく、店の外にいても甘い匂いがする。
 中に入るとカウンター席に座っていたヒヨス・アマミヤが、嬉しそうに手を振ってきた。
「こっちだよ~!」
 ヒースはスタスタと歩き、ヒヨスの頭を帽子ごと片手で掴む。
「奥の席に移動するぞ」
「はっはい……イタタッ!」
 店内にはあまり客の姿はなく、奥の席は秘密の会話をするのにちょうど良い。
「ヒースさん、ヒヨ、お腹空いているんだけどぉ……」
 上目遣いで見上げてくるヒヨスは、まるでエサをねだる犬に見えた。
「会計はおまえが持っている情報次第だ。それとおまえの身の安全も含んでいるから、真面目にやれよ」
「ふぁ~い。それじゃあ早速はじめようか」
 ヒヨスは大きなカバンの中から、雑誌サイズの茶封筒を取り出す。そして中に手を入れて、数枚の写真をテーブルに並べて見せる。
「昨夜の被害者は二十代のOLさん、残業帰りにヤられちゃったみたいだね」
 激しく食い散らかされた女性の死体を見て、ヒースは顔をしかめた。
「目撃者はいないんだけど、監視カメラには僅かに犯人の姿が映ったようなの。全身に黒い布をかぶっている姿の魔物が、彼女を物凄いスピードで連れ去った時のみ。後はいつものように、人気のない場所でじっくりと食事を楽しんだみたいだよ」
「人を喰らう魔物のクセに、慎重なヤツだな。他には何かないのか?」
「う~んとぉ……。そういえば、監視カメラに映っていた映像をよく調べてみたら、どうやら魔物の身長は低い……と言うか、子供っぽい体型じゃないかって」
「子供型の魔物かよ……」
 この世界には大きく分けて、二種類の存在がいる。
 一つは人間、そしてもう一つは魔物と呼ばれる存在である。
 ヒースは魔物を悪とし、退治するマフィアに所属していた。
 だが魔物の中には人間と共存することを望むモノもいて、ヒヨスもその一人だ。一見は普通の少女に見えるものの、気を抜くと徐々に顔が犬っぽくなっていく。
「……って、おい! 顔が魔物化しているよ!」
 小声でヒースが怒鳴ると、ヒヨスは項垂れる。
「だってぇ……こんなに良い匂いがする中、何も食べられないなんて拷問だよぉ」
「おまえ、一応情報屋として稼いでいるんだろう? 何で何も頼んでいないんだ?」
「情報屋でも、情報を買うことがあるの~。だからすってんてん」
「……アホ」
 渋い顔をしながらも、ヒースはヒヨスの帽子で顔を隠してやる。
 そして店の人を呼んで、スイーツを何品か注文した。しばらくしてテーブルいっぱいに並べられたスイーツ達を見て、眼を輝かせながらヒヨスは食べ始める。
「わぁい♪ ヒースさん、大好き!」
「とっとと食え」
 ヒヨスが食べている間に、ヒースは茶封筒の中に入っていた報告書に眼を通す。
 ――ここ最近、この地域ではとある魔物が出没していた。その魔物は神出鬼没で、獲物の決め方もよく分からない。姿・形も分からないが、それでも獲物の喰らい方が荒っぽいことから、一般市民達の間に不安が広がっていた。
「んぐんぐっ……あっ、そういえば、この件に関していろんなところが動き始めたみたい……ごっくん、よ」
「いろんなところとは?」
「警察はもちろんのこと、探偵とかも。犠牲者がここら辺に集中しているから、集まってきているみたい」
 口元をクリームまみれにしながらも、ヒヨスは真面目に答える。
「ヒヨの情報を求めてくる人も……もぐもぐ、結構いるし。でも、モシャモシャ……、いざ戦おうとしたら犠牲者が出るかもしれないねぇ」
 ヒヨスの金色の眼が、魔物らしい妖しい光を宿す。
「そのぐらい、腕が立つってことか。はっ! 上等だ。こっちも準備をして、討つだけだよ」
「まあヒースさんのところなら大丈夫だと思うけど……、でもちょっと心配だね」
 ヒヨスは獣型の魔物の特性からか、予感が鋭い。ヒースもこれまで彼女の勘に助けられたことが何度もある為、バカにはしていない。
「……なあ、仔犬。おまえの嗅覚で、魔物の居場所を知ることはできるのか?」
「満月だったらね。ヒヨは満月の夜、スッゴク元気になれるから!」
「なら次の満月に、狩りに行く。おまえも付いて来いよ。ちゃんと報酬を出すから」
「えっ!? ……ううっ、ヒースさんが護ってくれるなら……」
「魔物が人間に護られてどうするんだっ!」


●満月の日の夜
「今夜は嫌な空気くまね。生臭い匂いが漂うくま……」
 二メートル以上もあるしろくまが警察官の制服を着ている姿を見て、通りすがりの人々は一瞬ギョッとする。
「あっ、しろくま警部だぁ!」
「こんばんは、しろくま警部。見回りですか?」
 ヒヨスと天ヶ瀬 焔騎がこちらへ向かってくるのを見て、しろくまは両腕を広げた。するとヒヨスは走り出し、ぼふんっとしろくまの胸に飛びつく。
「えへへ♪ モフモフ~」
「二人とも、こんばんはくま。最近、物騒な事件が多いくまからね。夜の見回りが増えたくまよ」
「そうですか。実は我が探偵事務所も、魔物関連の事件について調べていましてね。おかげで不眠不休が続いていますよ」
 重いため息をつく焔騎の目には隈ができており、手には栄養ドリンクが握られている。栄養ドリンクを一気飲みした後、空瓶をゴミ箱に入れた焔騎は改めて姿勢を正す。
「うちの探偵事務所にも事件解決を望む依頼人が多く訪れまして、困ったものです。ちなみに警察の捜査はどうなっていますか?」
「お恥ずかしい話、なかなか進展しないくま……。魔物の仕業であることは分かっているくまが、どうも上級らしいくま」
「う~ん……。それじゃあヒースさん達でも難しいかな?」
「『ヒースさん』? ヒヨスさん、その方ってまさか……」
「あれ? そういえば焔騎さん、シェリル探偵とは一緒じゃないくまか?」
 ヒースの名に反応した焔騎だったが、しろくまの一言で慌てて周囲を見回す。
「シェリルさんっ! 一体どこへ……。さっきまでは一緒だったのにぃ!」
「流石『迷子の探偵』、略して迷探偵だね」
「ヒヨスさん、それ案外当たっているので止めてください! ……って、そんなこと言っている場合じゃないです! 俺の調べによると、犯人は今夜あたり動くと予想して探偵のシェリルさんと来たんですよ! なのに助手の俺を置いて、どこにいっちゃったんですかぁ!」
 パニックになる焔騎を見て、ヒヨスはため息を吐く。
「焔騎さん、シェリルさんの匂いならたどれるよ。ヒヨが探してあげてもいいけど、駅前のお店のシュークリームと引き換えね?」
「くっ……! 買うのに一時間待ちは当たり前のお店の人気商品ですか……。……でも分かりました。いくら戦闘能力の高いシェリルさんとはいえ、上級魔物相手ではどこまで通用するか分からないですからね。よろしくお願いします!」
 ペコリと頭を下げた焔騎を見て、ヒヨスはしろくまから離れると魔物の姿になる。犬の鼻を動かし、シェリルの匂いをたどりはじめた。
「――こっちだよ!」
「手伝うくま!」
「行きましょう!」


 ――その少し前、部下を率いたヒースは、獲物を前にして不敵な笑みを浮かべていた。
「ようやく見つけたよ。仔犬の鼻は捜索するのに役に立つな」
 先程まではヒヨスと共に行動していたが、彼女はふと血肉の匂いを嗅ぎつける。そこは住宅街の奥にある広い森林公園で、昼間は子供連れが多く訪れるものの、夜は怪しげな若者達が集まる場所でもあった。
 木々に囲まれた場所には、数体の若者の死体がある。その中心に、全身を黒い布で覆った小さな存在がいるのを発見した。
 戦闘になればヒヨスは邪魔になるので、遠くへ行くように指示を出した。そうして彼女が遠ざかったのを確認してから、ヒースはその存在に声をかけたのだ。
「良い満月の夜だな、殺戮魔物。今夜は人間狩りをするのも、魔物狩りをするのも良い日だ。さて、今夜はどちらが狩られるんだろうなぁ?」
 挑発的な言葉と眼差しを向けられて、血に濡れた魔物は素早くその場から去ろうと動いた。
「おまえ達、ヤツを追い掛けて逃げられないように追い詰めろ。仕留めるのはボクの役目だ。くれぐれもここから出すなよ?」
 部下達は軽く頷き、各々動き出す。
「さぁて、鬼ごっこをしようじゃないか」


 その後、森林公園の前を探偵のシェリル・マイヤーズが、助手の焔騎と共に通りかかる。
「俺が集めた情報によると、そろそろヤツの腹が空く頃だと思われます。なので今夜あたり、動くでしょう。見つける役目は俺がしますから、シェリルさんは無理のない程度に追いつめてください。恐らく警察も見回りをしているでしょうから、最終的には彼らに任せましょう」
「うん……」
 ぼんやりと聞いていたシェリルだが、ふと風にのって漂ってきた血の匂いにピクッと反応した。公園の入り口で立ち止まり、何の躊躇いもなくフラッと入る。
「――おや、あそこに見えるのはヒヨスさんですね。何か慌てて走っているようですし、ちょっと声をかけてみましょうか」
 こうして探偵と助手は、お互いに気付かぬまま離れ離れになったのだ。


 シェリルは血の匂いをたどって行くと、息絶えた若者達の死体を見つけて眼をつり上げる。
「……まだ死んで、間もない……。犯人、追い掛けられている……?」
 血の匂いをまとったモノが公園内をうろついていることに気付き、シェリルは真剣な表情で再び走り出す。
「多くの人の……匂いも、する……。急がなきゃ……」
 公園の奥の方から漂う魔物と複数の人間の気配、シェリルは腰に差した日本刀の柄を無意識に握り締める。
 そして気配の元へ到着した時、シェリルの茶色の目に映ったのは、腕から血を流している十歳ぐらいの子供が、怪しげな男達に囲まれている光景だった。しかもボス的な赤髪の男は、拳銃を手にしている。
「ようやく捕らえたな、鬼さんよ。さあ、終わりにしよう」
「……させないっ!」
 シェリルは刀を抜き、赤髪の男へ向かって下ろした。
「なっんだぁ!」
 しかし男は咄嗟に腰に隠していたナイフを抜き、刀を受け止める。
「何だ、おまえは!」
 問われたシェリルは一旦身を引き、男を真っ直ぐに見つめながら口を開く。
「今夜も、ズバッと事件を解決……。探偵シェリル……、登場」
 と言った後にブイサインをするシェリルを見て、男は呆れた表情を浮かべる。
「――で、何で探偵がボクを突然殺そうとするんだよ?」
「魔物は……倒す。だってこの街、好き……だから」
「誰が魔物だぁ!」
「あーっ、見つけましたよ! シェリルさん!」
 そこへ焔騎が駆け付けた。
「また変なのが現れた……」
「『変なの』とは何だ! 俺はシェリル探偵の助手の天ヶ瀬 焔騎だ!」
「シェリルさーん! 心配したよぉ!」
「おっ、無事だったくま」
 後から来たヒヨスはシェリルに抱き着き、頬ずりをする。
「むぅっ! この気配……、ここに魔物がいるくまね」
 しろくまは真剣な表情で、この場にいる者達の顔を見ていく。
 するとシェリルはヒヨスから離れて、しろくまに抱き着き、大きな背中に移動した。
「しろくま、行けぇ……。魔物を、逮捕だ……。行くよ、アマガセ……」
 そうして刀の先を向けられたヒースは、ズキズキと痛む頭を両手で抱える。
「シェリルさん、彼は魔物じゃありません。恐らく魔物退治専門のマフィアの方ですよ。若いのに腕が立つことで、闇社会では結構な有名人です」
 冷静に焔騎が紹介すると、シェリルはキョトンとした。
「そうだよぉ、シェリルさん。あの人はヒヨの情報を買ってくれる人間だよ」
「なっ何と……! 人相で……魔物だと、決めつけて……しまった」
「どういう意味だよ! ……っていうかアホなことしている間に、アイツ、逃げやがった!」
 人が増えてドタバタしている間に、犯人は消えてしまった。
「チッ! おい、仔犬! また匂いをたどれ! アイツからは複数の人間の血の匂いがするだろう?」
「ううっ……! お代は高くつくよ!」
 ヒースとヒヨスが走り出すと、シェリルもしろくまから下りて走ろうとする。
「じゃあ、私も……」
「ここは危ないくまよ。お菓子をあげるから、焔騎さんと一緒に避難するくま」
「しろくま警部の言う通りにしましょう。せめて公園入口でヤツを逃さないように、待ち構えましょう」
「……うん」


「今夜が満月で良かったよ! おかげで負傷中の魔物なら、すぐに追い付ける!」
 眼をギラギラと輝かせながらヒヨスは走り、とうとう魔物の目の前で立ち塞がることができた。後ろにはヒースがいて、前後を囲まれた魔物は悔しそうに顔を歪ませる。
「迷子の子供でも演じて、獲物を油断させたところで殺して喰らっていたのか。見た目は十歳ぐらいの少女の姿だが、中身はそう若くもないようだな。鬼の魔物とは珍しいが、捕らえる気はない。ここで仕舞にしよう」
 そしてヒースは魔物を殺すことができる銀の銃弾を入れた銃口を、魔物の二本の角が生えている額の中心へ向ける。

 ズドンッ!

 銃声が、深夜の公園内に響いた――。


☆数日後
「今回はありがとうくまね。とりあえずあの夜から被害者が出ていないことから、事件は解決ということになったくま」
 ヒヨスがよく行く喫茶店に、しろくまから呼び出されたヒース、シェリル、焔騎は喜ばれてもどこか複雑そうな顔をしている。
「みんな、良かったね♪ 事件が解決して、街にも明るさが戻ってきたし」
 ヒヨスはしろくまからご褒美ということで、テーブルいっぱいのスイーツを笑顔で食べていた。
「……ですが、我が探偵事務所が解決したわけではありませんからねぇ」
「マフィアが……魔物と似て、まぎらわしいから……仕留め損ねた。ゴメン、とか言わないし……。ありがとうだなんて、もっと……」
「相変わらず失礼な探偵屋だな。手柄を奪われたからって、八つ当たりするなよ。ボクはもうそろそろ行く。まだ残りの仕事があるんでね。仔犬、また何かあれば情報を」
 立ち上がったヒースは報酬が入った茶封筒をヒヨスの膝の上にポンっと乗せると、そのまま店を出て行った。
「さて、俺達も行きましょうか。事後処理が残っていますし」
「ううっ……。事務作業、好きじゃない……」
「頑張りましょう。……ああ、でも魔物にはなりたくありませんが、人の限界を超えて働きたいですねぇ。あの人並外れた体力には、少々憧れますよ」
 グッタリしながらも、シェリルと焔騎も出て行く。
「さて、くまもそろそろ行くくま。まだ仕事中なのだくま。支払いはしとくから、ヒヨスさんはゆっくりしていってくま」
「はーい♪」
 伝票を持ってしろくまは支払いを済ませて、店を出る。しかしふと真剣な目つきで、空を見上げた。
「……本当にコレで終わったくまか? 最近、魔物達の動きがおかしいくまよ。嵐の前の静けさでなければいいくま……」


 一人残ったヒヨスは美味しそうにシュークリームを頬張っていたが、ふとスマートフォンが鳴ったのに気づき、慌てて出る。
「もっもしもし?」
『こんにちは、ヒヨス様。私の情報はお役に立ちましたか?』
「ハンプティさん! はいっ、もちろん! お代は高かったですけど、確かな情報でした。バーに招待してくれたことも、嬉しかったですし。ハンプティさんのような有名で実力のある情報屋さんとは、これからも仲良くしたいです」
『ふふっ、光栄ですよ。それではまた何かありましたら、ご連絡をしますので』
「はい、お待ちしています」


「――どうやら上手くいったようどすな」
 通話を終えたシグに、カウンター席に座っている小柄な人物が声をかける。黒い布を全身にかぶっているものの、絹の糸のような美しい青い髪がサラサラと出ていた。
「ええ。あなたの身代わりに、鬼型の魔物を退治してもらいました。これでしばらく彼らは、こちらから気をそらすでしょう」
「じゃがあまり動くな――と言いたいようどすなぁ。まっ、今回はシグの顔を立てることにするどす」
「ありがとうございます」
 シグは満足そうな笑みを浮かべながら、二本の角を生やした少女の前に真っ赤なドリンクをそそいだグラスを置いた。


<終わり>


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【ka0145@WT10/ヒース・R・ウォーカー/男性/23/疾影士(ストライダー)】
【ka1403@WT10/ヒヨス・アマミヤ/女性/16/魔術師(マギステル)】
【ka0509@WT10/シェリル・マイヤーズ/女性/14/疾影士(ストライダー)】
【ka3900@WT10/シグ・ハンプティ/男性/22/猟撃士(イェーガー)】
【ka5980@WT10/静玖/女性/11/符術師(カードマスター)】
【ka4251@WT10/天ヶ瀬 焔騎/男性/29/聖導士(クルセイダー)】
【ka1607@WT10/しろくま/男性/28/聖導士(クルセイダー)】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 このたびはご依頼をしていただき、ありがとうございました(ぺこり)。
 皆様の個性を活かした作品を書かせていただきました。
 楽しんでいただけたらと思います。

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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
ヒース・R・ウォーカー(ka0145)
副発注者(最大10名)
シェリル・マイヤーズ(ka0509)
ヒヨス・アマミヤ(ka1403)
しろくま(ka1607)
シグ・ハンプティ(ka3900)
天ヶ瀬 焔騎(ka4251)
静玖(ka5980)
クリエイター:-
商品:パーティノベル

納品日:2017/08/21 10:24