※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
共に抱える星空

 触れるノートに記されたのは、色んな人からもらった大切な言葉。

 ――どれがいいと思う?
 目を閉じて考えに沈めば、「どれも」としか答えようがない。

 ――あなたの役に立ちますように。
 だから、あなたが必要にするだろう道具を。
 ――あなたの傍に在れますように。
 だから、あなたが身近に置ける装飾品を。
 ――あなたと揃いになれますように。
 だから、私達だけの絵柄をこっそりと忍ばせる。

 皆が見せてくれた思いはどれもキラキラしていて、どれかだけ選ぶなんて小夜には出来そうになかった。
 欲張りと言われたら返す言葉もないけれど、多分、此処は出来るだけ手を伸ばしていいところだと思っている。
 だって、もらった気持ちはどれも大切なもので、彼らが小夜のために考えてくれた言葉だ。

 一番上に予算を書いて、思いつくものを並べる。
 さて、収められるかどうか。

 …………。

 用意したプレゼントを潜め、クリスマスを通り過ぎた。
 意中の人と当日に会う事は見送った、気持ちが引っ張られなかった訳ではないのだけれど、恋人でもないのに当日に手を伸ばす事は躊躇われる。
 前日に話す機会は……本当はあったのだけれど。

「お兄はんは……お忙しいのではあらしまへんか」
 特別な一日を過ごすため、聖輝節とその前日は当然のように外食系が大忙しとなる。
 知り合いの店に呼ばれているのか、自分の店を開くのかはわからないけど、素晴らしい料理の腕を持つ研司が暇という事はないだろう。

 困ったように頬をかき、否定しない研司がその証明だ。
 気にする必要はない、とばかりに小夜は胸前で手を合わせて。
「特別な日をお兄はんの料理で過ごせる方達は幸せものどすなぁ」
 お兄はんが振る舞った料理の数だけ幸せな人が増えるんです、そう言って微笑んだ。

 結局研司は言い訳も釈明もしない事にしたらしい、ごめんね、と気を遣わせた事を謝罪して、ありがとう、と気持ちを受け取る事を口にした。
「お兄はんのお料理は私もよう思ってますから」
 独り占めするのはずるいし、何より好きな事に打ち込む研司を見るのが好きだ。
 彼の腕が評価されるのは、自分の事のように喜ばしい。
 だから行ってらっしゃい、と小夜が口にした後、研司は何か重大な決意をしたとばかりに、思いの外真面目な口振りで声をかけてきた。

「聖輝節の後に、別途祝うための時間が欲しい」
 当日じゃなくても祝わせて欲しい、そう真剣な口振りで言われると、籠もる熱意に当てられたのか、小夜はつい胸の動悸を早めてしまう。
 元より誘い直すつもりだったのだから時間は開けている、なんとか落ち着きながら、二日後でもいいですか、と尋ねると頷きをもらえたのでその日にした。

 お兄はんの物事に対する真剣さも、真面目な熱意もとても好きだ。
 でも、そのまま自分の方を向かれるのは、ちょっと慣れない。

 +

 小夜に気を遣わせてしまった、その事を研司は思いの外気にしていた。
 正直申し訳なさが募る、小夜が考えた通りに、この時期はなかなか休む事が出来ない、休みたくない、というのが本当で、腕を振るう絶好の時期だから、それを見過ごすのはなかなか難しかった。

 だから、何度選択し直しの機会が訪れても、自分は小夜に気を遣わせてしまうだろう。
 小夜と過ごすのが嫌、という訳ではないのだ、だが自分は料理の事になればどこまでも馬鹿で、小夜がくれる優しさに甘えてしまう。
 改める事は最早絶望的で、自分に出来る事と言えば彼女に埋め合わせを行う事くらい。

 彼女のためにコースを作る……というのは流石に迷惑だろうから、小さなパーティーくらいの規模で。
 二人分のサンドイッチに、小さめのフライドチキン、ケーキをミニホールで作って、上にチョコレートの黒猫を載せた。
 お茶の準備もばっちり、後は小夜を待つだけ、と言ったところでふと我に帰る。

 ……もしかして俺、早まってないか?

 聖輝節の予定を決める時、一瞬でも小夜の事を思い浮かべた。
 無論、自分と彼女は別に恋人でもなんでもない。ただ好ましく、大切に思っているというだけ。
 でも……彼女といっぱい時間を過ごしてきたのだ、去年の年越しも、彼女と共にいた。
 特別な日には近くに彼女の姿があった、だから、聖輝節の時にだって気にしてしまう。

 考えすぎか? 思い上がってないだろうか。
 いやいやいや……と思考を振り払い、どうであるにしろ、彼女に埋め合わせをすると決めたのだ。
 だって、彼女は特別な日を自分の料理で祝えるのは幸せ、と言ってくれた。そんな事を言ってくれる彼女が何ももらえないのはあんまりじゃないだろうか。
 小夜の分もある、それを示すためだと自分に言い聞かせた。

 それに……彼女のための、特別な用意があるのだから。

 …………。

 いつも通りを装って彼女を出迎え、彼女を招いた。
 既に並べていた料理を振る舞い、喜びを示してくれる彼女に笑い返す。
 用意したプレゼントを何時渡したものか、もし彼女も用意していたのなら早まるのはまずいんじゃないだろうか、そもそもそれすら考え過ぎではないか……とぐるぐるしていたのも杞憂で、彼女はひと目でそれとわかるほどの大きい靴下を抱えていた。
 挨拶もそこそこに、席についた彼女はプレゼントだと言って靴下ごと渡して来る。

「いつも頑張ってるお兄はんへの……特別なプレゼントどす」
 渡された靴下はちょっとしたボールくらいなら入れそうなサイズで、しかも中に色々詰まっているように思える。
 出してもいい? と許可をとってから、中のものを引き出した。

 入っていたのはベルトにつけられるタイプの革の小物入れ、ポケットも細かくあって、色々提げられるようになっている。
 中に入っていたのは火打ち石と、携帯砥石。依頼にせよ野営にせよ、いずれも必要になる品物達に、そして懐中時計が一つだった。
 蓋には星をあしらった彫刻、開けた文字盤には小さくスマートな猫が描かれている。
 ハンターズソサエティで売っているものを特注で改造してもらったもので、蓋と時計板の交換だけだから言うほどはかかっていないと小夜は言う。

 数日前から、小夜は友人たちに相談しつつ、研司へのプレゼントを考え、用意していたらしい。
 一人一人から大切なアドバイスをもらったと聞いて、研司はどうも安心したような、感慨深い気持ちに浸ってしまう。
 これだけの数を用意するほど、小夜には大切に思い、思ってくれる友人たちがいるのだろう。
 それらを込めての贈り物なのだから、大切にする他ない。有難う、と口にして、俺からも贈り物があるとクリスマスカラーで包装してもらった箱を出した。

 開けても良いですか、と先ほどの自分のように尋ねられたから、もちろん、と頷いて箱を渡す。
 リボンを解き、箱を開けると両手に乗るサイズの箱が姿を現した。
 まだそれが何かわかっていない小夜が蓋を開けると、優しく落ち着いた音色が響き始める。
 蓋の上部に星空、下部にはその星空を見上げる猫の姿が描かれているオルゴールで、それを悟った小夜が「ふぁ」と声を上げる。

 なんと言っても鍛冶師の兄ちゃんに無理を言って、その奥さんの協力を得て仕上がった珠玉の逸品である。
 漏れる賛嘆の吐息と、見開いて輝く瞳から小夜が大いに気に入ってくれているのが伝わってくる。大成功ですと心の中で鍛冶師さん達にガッツポーツしながら、研司は表面の平静を装ってオルゴールの解説を口にした。

「これ、わかると思うんだけど……きらきら星の曲を入れてもらったんだ」
 蒼の世界と紅の世界で、違う空なんだろうけど、それでも見上げる星空の、大枠の景色は変わらない。
 蒼に想いを馳せつつ、紅の大地を踏みしめるって事で作ってもらったと言って、どうかなと反応を伺えば小夜は曲に聞き入りながら、探すようにして言葉を口にする。

「懐かしくて……向こうの事を思えば、少し寂しくなってしまう歌どすけど……」
 それ以上に優しく感じますと言って、小夜は微笑みを浮かべた。
 指先が震えてしまうのは、きっと仕方のない事なのだろう。
「寂しさはあるんどす、でも……それ以上の……強くなれるくらいの優しさを貰っています」
 これをくれたお兄はんの分も含めて、そう言うと小夜はオルゴールの蓋を閉じ、大切に抱え込んだ。
「有難う……研司お兄はん、大切に……させてもらいます」

 蓋を閉じて気づく。
「あ、もしかして……これ、お揃い……かな?」
 懐中時計とオルゴールの贈り物は二つとも蓋に星をあしらい、内側に猫を隠している。無論、ただの偶然なのだけど。
「あ、えっと……その……男の人の持ち物で、蓋に猫はどうなのかなって思って……っ」
 まさか被るとは思ってなかった、そう言って小夜はわたわたと言い募る。
「俺のは鍛冶師の奥さんが考えてくれたものだよ」
 その人はリアルブルー出身なんだ、と言って笑うと、小夜は気恥ずかしげにもごもごしながら「さよですか……」と少し落ち着きを取り戻した。
 研司にとっても多少の気恥ずかしさはあるけど、贈り物はいずれも貰ったもので、作って貰ったものだ。
 片方には小夜の想いがあり、片方には鍛冶師達からの応援の気持ちがある、だから。

「お揃いだけど、このまま持っててくれないかな」
 緊張もしたし、悩みもした。でも想いを大切にするという一点が変わる事はないと確信している。
「わかりました、あの……」
 私はお揃いで嬉しいです、そう小さく言って小夜はお茶のカップで顔を隠してしまう。
「……ああ」

 たとえ今だけの時間限定でも構わない、それまではこの時計を抱えよう。
 それくらいの男らしさは、きっと年長者として見せるべきだと思うから。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3062/浅黄 小夜/女性/16/魔術師(マギステル)】
【ka0569/藤堂研司/男性/25/猟撃士(イェーガー)】
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
浅黄 小夜(ka3062)
副発注者(最大10名)
藤堂研司(ka0569)
クリエイター:音無奏
商品:イベントノベル(パーティ)

納品日:2019/01/11 13:07