※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
拝啓敬愛するお師匠様へ

 あのとき我が事のように流した涙は目の充血で家族達を心配させる結果になった。先輩または師匠としての言葉を掛ける事は出来ても、結局のところ立ち上がるか諦めるかは全て本人次第。頭の片隅に青年の存在を意識しつつもクレール・ディンセルフ(ka0586)は別れたその瞬間からきっちりと切り離して日常に舞い戻った。もう絶対にうたた寝はするまいと気を引き締め、馬車馬のように働く。暫く狩子達がいないとはいっても評判が評判を呼んで今はなかなかに繁盛しており、近々申し込んできた候補と面接し、どの子を預かるのか頭を悩ませる事になるのだろう。その辺りのスケジューリングも考えながら、先日まで預かっていた子の試験合格に至るまでの過程を振り返り、次回の育成に活かしたいところだった。勿論人が相手なので、判を押したような育て方は出来ないのだが。相手が人でも物でも人生に完璧なんてものはなく生涯勉強し続けるものだ。まるで上手くいかなければ時には腐りたくもなるが、生きて生きて生き抜いて、死ぬ間際に頂きへ到達するだろう難度にむしろ発奮する。止まっている時間なんてクレールにはないのだ。但し必死になった結果として潰れはしないよう加減は年齢を重ねてから次第に身に付いたような気がする。
 ある日クレールはいつものように郵便受けの中を覗く。リゼリオ周辺はスマホの利用が容易だが遠方では敢えて、利便性ではなく今までの暮らしを維持しようとする動きが活発で、連絡の手段も手紙が主である。広告を見て是非にという話がまた来たのだろうと思いながら封筒を数枚取り出した。家に戻りがてら、一つ一つ宛名を確かめていく。殆ど予想通りだったが何故か妙にくたびれた物を発見し、クレールは元は無地だろうそれをひっくり返す。裏側に書かれていたのは雨の日に再会した、あの青年の名だった。驚きに目を見開いて、この場で改めたい誘惑を何とか振り払うと急ぎ家に戻り、リビングにて封を切った。目を皿のようにして、会うときより伝わらない感情を零すまいと文字を追いかける。
「うん、良かった!」
 本人がこの場にいるかのように感情を込めて呟く。涙の代わりに満面の笑みが零れた。彼が何を選ぼうとどうだっていい。後悔しないのならば傷を背負って生きていかずに済むのならばそれで。紙を抱き締めて、ふふと笑うとクレールはそれを大事に仕舞い込んで朝ご飯の支度を始める。今日も一日元気に頑張れそうだ。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
様々な経験を経て強くて優しい大人になろうとも完璧にはなれなくて、
けれど子供の前では弱いところは見せられない、そんな矛盾も抱えて
この先ずっと生きることになるのかなとぼんやり考えてみたりします。
ですがクレールさんは何かあったとき、年齢とか関係とか抜きにして
青年と再会した日のように一人の人間として真正面から向き合う気も
しますね。旦那さんとはどういう距離感なんだろう、子供はどんなふうに
育つんだろう、とこっそり勝手に妄想してみるのもとても楽しかったです。
青年がどの道を選んだのかについては全く考えていませんが、
クレールさんとのささやかな交流はずっと続いていくのでしょう。
未来に関われてとても嬉しかったです!
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
クレール・ディンセルフ(ka0586)
副発注者(最大10名)
クリエイター:りや
商品:おまけノベル

納品日:2020/08/05 11:27