※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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みち ~夢から覚めて~
「うぅ……もう勘弁してぇ……」
むずむず、ごろごろ、ごろ……びたん!
「っ……いたーい! ……痛い?」
がばっ!
ベッドから落ちて痛む身体を労わることもなく立ち上がる。大急ぎで身体のあちこちを触り、いつもの自分だと安堵する。
「あんな高いところから落ちたのに、かすり傷ひとつない!」
……あれ?
「違った! あれは夢! 夢じゃなかったら……」
夢の最後。あの子が無意識に出した声を思い出す。自分の身体からあんな声が出るなん、て……
頬が熱い、これは確実に真っ赤になっているのだと思う。鏡なんて見ちゃいけない、だって余計に想像しちゃうから!
部屋に飾っている武器の類も見ないように気をつける。自分の手入れの度合いを恨むとか、そんな嬉しくない機会、なくてよかったのに。
「うぅぅぅぅ。忘れなきゃ! そう、あれは夢なんだから!」
そのために必要なのは精神統一! 無心あるべし!
今日の予定を決めたクレールは立ち上がる。準備はすばやく。部屋着を脱ぎ捨て作業着を身に着ける。ベッドから落ちた時の痛みはとっくに忘れていた。
「私、今日は整備に行ってくるから!」
家事を行っている筈のユグディラに声をかける。
留守番お願いね!
魔導型CAMだろうと魔導アーマーだろうと、結局のところは纏う防具であり武器だ。その規模は生身で戦う時のそれと違うけれど。操縦席、つまり中心に近い操縦機器はともかくとして、外装の手入れはそう変わるものではない。
慣れた手つきで仕上げに拭き上げるところまで、一連の行程を終えたところで……クレールの集中力が、切れた。
(鍛冶場に行くべきだったかな)
朝のあの時はまだ、夢の記憶のせいで混乱していたのだと今なら思う。
無心になりたかったはずだ。その原因となった夢の相手を手入れするなんて、普通は避けるべきだ。
(でも、間違いではなかったみたい)
もの言わない2機を間近で見て、触れて。
今が正しく現実なのだと、じっくり向き合う事が出来た。
ありえない夢だったはずなのに、妙に臨場感にあふれていたから……自分にとっての現実を見失うなんて、らしくない。
「あの声が煽ってくるのも悪いと思う!」
どうにも記憶にひっかかる嫌味な声。その夢の中の誰かに責任を押し付ける。どうせ夢なのだ、それくらいしたって誰も困らないだろう。
ほんの少し、魔がさした。
あと少しの間だけだからと、現実から視線を少し、逸らす。
翼持つ名を与えた、夢の相手を見上げる。
「……ねえ。あなたなら、何をしたいかな」
自分で動けるようになったら。
夢は自分と身体の交換で、元に戻るという明確な目的があったから。お互い攻防に必死で、それ以外の可能性は見出さなかった。
(もし、ゆっくり話す時間があったなら)
日々を過ごす中で思う事を聞き出せたりしたのだろうか。
戦う中で、より効率的に動くための助言をもらえたり、共に新しい可能性を模索したり。協力するような時間がとれたのだろうか。
「あなたも。……やっぱり強くなるために、剣を研いだりするのかな」
次に視線を向けるのは剣の名を与えた機体。見上げて、あわないはずの視線をあわせようとする。叶わないと知っていても、考えてしまう。
整備中も、本当は無心なんかじゃなかった。頭の片隅でずっと、それを考えていた。
考えたら止まらなくなった。頭の中から消すことができなくなった。
(わかってる、あれは夢で、振り回されちゃいけないって)
けれど、考えてしまったのだ。
確かに機械だ。けれど夢の中で聞いた、『マテリアルの親和性』が妙なくらい、心に残って。
その理解が深まれば、機械だけじゃなく、鍛冶でも。ものの声を聴くことが、感じとることができるだろうか……なんて。
魔法鍛冶の道に、繋がる、何か、が……
Zzz……
(まずい! まずいまずいまずい!)
早く逃げないと、隠れないと、気配を隠せる場所を、どこか……!
逃げ続ければきっと、避け続ければきっと、あの子のエネルギー切れがあるかもしれない。
(私はここに居るのに、どうして!)
正面きって戦えるわけがない。その力は自分が良く知っている。
力を与えて、剣としての名を与えて……最大限発揮できるよう経験を積ませたのは、他でもない自分なのだから!
闇雲に走ってでも、途中の全てを破壊してでも、追いつかれてはいけない……!
例え同じように、むしろそれ以上に破壊を尽くして追ってくるとしても。
諦めたら終わりだ。
盾であるあの子でさえ容赦がなかった。
それ以上に殲滅する力を求めた結果の、赤き剣。まさにその子が自分に向かってきている。
なぜこうなったのか、今はもう考えることができない。
ただ繰り返されるのは、疑問の言葉。
自分の呼吸する音だけが脳を占めはじめる。
(夢ならっ、覚めてっ……!)
私は、あなたの力を、そんな風には使わない……!
……Zzz
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【ka0586/クレール・ディンセルフ/女/22歳/鍛機導師/道を見据え、未知に挑む】