※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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混沌(カオス)の酒場にて
●めぐりあい・カオス
酒場の扉を開くと同時に、様々なものがどっと押し寄せて来た。
それは真偽の程も定かでない武勇伝を語る男の大声だったり、冷やかし混じりの男女の笑い声だったり。あるいは料理のいい匂いだったり、集まった連中のむさ苦しい体臭だったり、酒の芳香だったり。
とにかくそこはカオスとしか呼びようのない空間だった。一応看板には『青い小山羊亭』等と書かれているが、大体において冒険者の集う酒場というのは似たようなものだ。
「へーい、酒が足りないじゃーんっ! それとツマミもまだなんだぜ?」
ユハニ・ラハティが後ろを通りかかった酒場の女に向かって、椅子からでろ~んとのけぞって言った。忙しい女は叫びながらジョッキを運んで通り過ぎて行く。
「何いってんのさ! さっき運んだ肉の煮込みが、そこでカラになってんだろ!」
「あっるぇ~?」
人生という旅の練達といえる齢のユハニだが、その精神は若者のものだった。というか、そこらの若者より爆走真っ最中だった。何故なら彼の信条は「人と違う素敵な人生を生きること」、すなわち「ファンキーライフ」なのである。
生え際のかなり後退した髪はオレンジ色でツンツンに立っているし、筋肉質の体はまだまだ活力に満ちている。酒をいくら飲んでも(本人曰く)潰れることなどないし、食欲だって旺盛だ。
「おい、ワシまだ食ってないじゃーん? 誰が食っちまったんだー……って、あれ?」
据わった目で卓を見渡し、ユハニは眉をしかめた。
幾ら彼がもう若くはないとはいえ、今日の昼間、一緒に死線をくぐり抜けてきた仲間の顔ぐらいは覚えている。
だがどう見てもそこに並んでいる顔は、違っていた。
「っかしいじゃーん? さっきまでいた連中と入れ替わってるじゃーん?」
ユハニが指さす顔、顔、顔。
ヴァルトル=カッパーは大きな腹を撫でながら、楽しそうに笑う。
「細かいことを気にするでない。禿げるぞ」
まだ若いドワーフの顔はもさもさの赤い髭に覆われていた。端っこが焦げてチリチリになっているのは、鍛冶仕事のせいだろう。体格と相まって貫禄を感じさせる風貌のなかで、キラキラ輝く茶色の瞳は年相応の茶目っ気を見せていた。
「さっき、相席お願いしますって案内されて座ったんだぜ。覚えてないの?」
ティト・カミロがナフキンで口元を拭いながら言った。どうやら煮込みを平らげたのは彼らしい。
「んー? そういやそうだったかー?」
「そうだって! あ、すみませーん、料理の追加いいですか!!」
金髪の若者は元気よく手を振る。若い胃袋は、とてもではないがこの程度では満足できないのだ。
その隣では、ユーノ・ユティラが何度も頭を下げながら何やら呟いていた。
「すみません、すみません、僕達は気にしないですと言ったのですが、相席はお邪魔だったかもしれませんね。でもこちら、どなたもいらっしゃらなかったので……」
耳からしてエルフのようだが、森に生きる孤高の種族というイメージからは少し外れている。
だがユハニにとって、そんなことはどうでも良かった。
サングラスをかけた強面をくしゃくしゃにして楽しそうに笑う。
「カハハハッ、いいじゃーん! 見知らぬ同士、盛り上がって行こうぜー!!」
……要するに飲めれば相手はどうでもいいらしい。
●私はコレでハンターになりました
改めて料理や酒が運ばれてくる。
冒険者が集まるリゼリオでは、様々な料理が食べられる。牙を剥いた魚が棒に支えられて、唐揚げで出て来る。鶏肉の煮込み料理は、程良くスパイスが効いている。トマトとバジルのピザにはたっぷりのチーズ。
若いティトが目を輝かせた。
「へえー、こんな料理は初めて見るよ! どんな味がするんだろ?」
目標は当然、完全制覇。フォークを使って魚の身をほぐす。ほろりと取れた身を薄い紙のようなものに野菜と一緒に包み、独特の匂いのするソースにつけて口に入れた。
「んまい!」
凶悪な外見に反して白身魚の味は繊細で、ソースによく合う。パリパリになった鱗も食感に変化を与えているのが面白い。
「も一つ貰っていいかな? いいよね?」
ティトは夢中で手と口を動かす。
「そういや名前を聞いてなかったな。ワシはユハニだ」
ユハニが名乗ると、全員が次々に名乗る。二度と会うことはない相手かもしれないが、だからこそ酒のツマミがわりに話を聞くのも楽しいものだ。少なくともユハニはそう考えている。
「そうか、じゃあティー坊はなんでハンターになった?」
ティトは『坊』をつけられて少し不満げに頬を膨らませた。
「せっかく精霊と契約したんだぜ、剣の腕を生かさなきゃ意味ないだろ?」
これでも村一番の剣士だったのだ。……そりゃ、ハンターになってみたら強い奴はごろごろいたけど、いつか絶対追いついて見せるという気概があるのだ。
「だから依頼もどんどん受けて、強い人の戦い方も勉強してるところだよ!」
「へー、そりゃまたかっこいいじゃーん?」
ユハニがカラカラと笑った。
「で、カッパはなんでだ?」
ユハニは酔っているのか、自分の印象に残った部分で適当に相手を呼んでいる。
だがヴァルトルはそもそもカッパを知らないのか、特に怒る様子もなかった。
「俺か? 俺は鍛冶屋だ。最高の金属を探しておるが、見つからんでな。ハンターになればいずれ巡り合うのではないかと思っておる」
そう言ってジョッキになみなみと注がれた酒を豪快に煽った。中身は火をつければ燃え上がるような、強い酒だ。
「いいねいいね、そーゆーのもファンキーじゃーん? で、えーと……そっちのは……」
ユーノは一瞬びくっと肩を震わせて、焼いたジャガイモから顔を上げた。
「すみません、ユーノです、平凡な名前ですよね。覚えにくいですよね、はは、すみません……」
「ユーノンか。おぬしは全くハンターには見えんな! 何やってんだ?」
「あ、はい、商人なんです。おっしゃる通り、ハンターとしては殆ど活動していませんね……」
ユーノは引きつった笑いを見せた。
(ああ……なんだかまた、嫌な予感しかしませんね……)
彼は今日まで、数々のトラブルを勘と幸運で生き延びて来た。
だが自分では運が悪い方だと思っている。
さて今夜に関しては、どちらだったのやら……。
そうして小一時間経った頃には、この見知らぬ同士が顔を合わせた卓も、店内の各所と全く変わらない状態だった。
「カハハハッ、カッパ、もっと飲め!」
「ユハニ殿こそ、ペースが落ちておるではないか」
ユハニとヴァルトルはすっかり意気投合し、互いにすごいペースでジョッキを開けて行く。
時折、ヴァルトルはフォークやナイフ、果てはマグまで舐めていた。
「あの……ヴァルトルさんは何をなさってるんですか?」
ジュースのようなフルーツカクテルをちびちびと啜ってはジャガイモをもそもそと食べていたユーノが、恐る恐る尋ねる。
喧騒の中、会話に混じることもできず、商人の癖でつい目の前の相手を観察してしまうのだ。
「おお、よくぞ聞いてくれた。実はな、幼少のみぎり、最高の金属に出会ったのだが。その後巡り合うことができんでな、ただその輝きと、舐めたときの味わいだけははっきり覚えておるのだ。なのでこうして、時々確かめておるという訳だ」
「ああ、そうですか……いずれ出会えるといいですね……」
赤髭のごつい男が、ナイフを舐めている姿は中々の迫力だったが。ユーノはそう言って頷いた。
そこでティトが首を突っ込む。
「ユーノさん、ジャガイモしか食べてないよね。こっちのも美味しいよ、どう?」
「あ、有難うございます……ジャガイモが、その、好きなんです、ははは」
慣れない物を食べるとすぐにお腹を壊すんです。
とは、流石に初対面の相手に言えず。
「ふーん? あ、そっちのミートパイ、もうひとつ!」
大人ぶってジョッキを傾けつつ、ティトは旺盛な食欲で次々と料理を平らげる。
但しジョッキの中身は、ぶどう酒にそっくりなぶどうジュースである。
●酒場のお約束
そんな調子で楽しく卓を囲んでいたのだが。
ユハニは少し物足りなさを感じていた。
(酒場と来たら……アレだろ、アレ……!!)
今日同席した連中は、何やら平和そうな感じで期待できない。
そう思った時だった。
ガチャーン!
「やるかァ?」
「いい度胸だ、かかって来い!」
「ちょっとお客さん! やめとくれよ!!」
酒場の一角でお決まりの小競り合いが始まったのだ。
ハンターの中には、血の気の多いのもいる。依頼の帰り、興奮冷めやらぬ状態でアルコールが入れば、ちょっとしたことで掴みあいだ。
そしてこれこそユハニが待っていたことだった。
「来たぜーーーー!!」
勢いよく椅子を蹴って立ち上がる。
「え? ユハニさん、お知り合いの方ですか?」
ユーノがおどおどとユハニと、騒ぎの起こった方を見比べる。
「喧嘩が起きたんじゃーん? 黙って座ってる訳にはいかないじゃーん? カハハハッ!!!」
「ええええええ!?」
酒場の中は騒然となっていた。ユハニだけではない、無関係の暴れん坊どもがあちらこちらで立ちあがっている。
「いいぞー! あ、そっちの奴が武器出してるぜ、注意な!」
ティトは楽しそうにはやし立てている。ぶどうジュースで酔っ払っているかのようだ。
「ちょっと、止めないと! ヴァルトルさん!?」
ユーノは助けを求めるようにヴァルトルを見るが、我関せずとばかりに酒を楽しんでいた。
「なあに、血気盛んなご老人には、時にはガス抜きも必要であろうよ」
こちらの方が若いのによほど落ちついている。
「あ、あ、あ……!」
真面目なユーノがひとり青ざめ、おろおろと立ったり座ったりを繰り返していた。
乱入したユハニはとても楽しそうに隣の男の顔を殴り、椅子を蹴って別の男にぶつけている。当然殴られた男は殴り返し、蹴り合い、掴み合い、誰の腕だか足だか分からない有様だ。
「酒場といえばこうでなくちゃな! 最高にファンキーじゃーん!! ……ぐえっ」
丸太のような太い腕が、ユハニの首に絡んでいた。
「ああ、ユハニさんーーー!!」
「あーあ、流石にあれじゃ逃げられないかもな。ユーノさん、マギステルでしょ? こういうときなんかないの?」
「え?」
ティトに振られ、ユーノがびくっと身体を震わせた。
「あ、そ、そうですね、皆さんを眠らせて……」
わたわたと躓きながら前に出たユーノは、飛んで来た瓶に驚いてストーンアーマーを纏う。
「ひゃあ!」
それでもなんとかしてユハニを助けようと、一生懸命念じた。
「ねむれ……ねむれ……えいっ!!」
その姿をまさに他人事の風情で眺めていたヴァルトル。
「ハハハ、ユーノ殿、頑張っておるn……ぶほぉ、何だこれは!!」
ご機嫌で煽ったジョッキの中身は、美味しい水だった。
ユーノは眠らせるつもりで、何を間違ったかピュアウォーターを使ってしまったらしい。
この事態に、酒場はますます混乱に陥った。
「水飲ませてんじゃねえよ、なんだこの酒場は!!」
「うるせえぞ、今それどころじゃねえ!」
「ああもう、いい加減にしとくれ!」
結局、警備隊が到着して騒ぎは収まったが、鼻の利く連中はその頃にはとっくに逃げ出していたのだった……。
●本領発揮?
倒れたテーブルを起こし、ティトが溜息をついた。
「……何で俺がこんなことしてるんだろうなあ」
「うっ……すみません……」
ユーノが椅子を抱きかかえて小さくなる。
蜘蛛の子を散らすように逃げていく連中のなかで、しっかり捕まえられてしまったのがユーノだったのだ。同じ卓の面子ということで付き合わされ、ティトは不満げである。
(こんな所知り合いに見られたら、どうするんだよ……!)
腕自慢の若者としては、カッコ良く殴り合いしてるところを見られるならともかく、後始末の現場を見られるなんて恥ずかしすぎる。
しかし元はといえば、ユハニのせいである。
そう思ってじろりと見ると、当人は頬に大きな痣を作ってご機嫌だった。
「喧嘩は参加しなきゃ損じゃーん! コレも男の勲章じゃーん?」
「だが店に迷惑を掛けるのはいかんな。うむ、せめて修繕しておこうではないか」
そういうヴァルトルは、喧嘩に臨む前のユハニに負けないぐらい嬉しそうだった。
「何、俺に任せておけ。以前よりもすごい酒場にしてやろう!」
がははは、と笑う声はどこか不吉に響く。
「ちょっと、ちゃんとして直しておくれよ!」
酒場のおかみさんが腕組みして睨んでいる所に、ユーノがつつつと近付いて行った。
「ええとですね、今回の修理の材料なんですが……」
「何だい?」
ぎろりと睨まれ一瞬ひるむが、商人魂を奮い立たせるユーノ。
「ぼ、いや、私はこれでも信用のおける商会に伝手がありましてね、宜しければ良い品を安く手配させて頂こうかと思いまして、はい」
教わった商人トークで必死におかみさんに立ち向かう。だが、相手は荒くれ者の集う酒場のおかみさん、百戦錬磨のツワモノだった。
「何言ってんだい。なんならあんたらをしょっ引いてもらっても良かったんだよ?」
「あああ、すいません、すいません……」
逆に買いたたかれる羽目になってしまった。
壊れた扉の蝶番を直し、穴の開いたカウンターの板を取り換え。
「こんなもんだろ!」
ヴァルトルが嬉しそうに指さすのを、酒場のマスターは胡散臭そうに眺めた。
「まあ、さすがドワーフってとこか。ん? こりゃなn ……ぎゃああああああ!!!」
カウンターの片隅に取り付けられていたレバーに触ったマスターの姿が消えた。
正確には、地面に口を開けた穴に落ちて行ったのだ。
「ハハハ、気に入ったか? 今度のような事態に脱出し、助けを求めに行けるようにと思ってな! 便利であろう!」
いい仕事ができたとご満悦のヴァルトルである。
「間違って触ったら危ないだろ! よしとくれよ!!」
おかみさんが吠えると、ユハニがいそいそとペンキの缶を持って現れた。
「しょうがないなー、じゃあワシがわかりやすくしておいてやるぜ!!」
またたく間にカウンターの内側は、カラフルに塗り分けられる。脱出孔(?)付近は、黄色と黒とオレンジで賑々しく、毒々しく塗られていた。
「どうだ! ワシのサインもいr……ごふぅ」
「いい加減におし!!」
おかみさんの拳が、ユハニの腹にめり込んでいた。
「うーん……ハンターって案外、カッコ良くないかも……」
ティトは首を傾げる。
(村で騒ぎを起こしていた連中とあんまり変わらないような?)
だが若い駆け出しハンターは前向きだった。
「いや、俺がカッコいいハンターになればいいんだよな! うん、そうだ、頑張ろう!」
とりあえず、今日見た連中よりは(ティト基準で)カッコ良く……。
「おう、ティー坊! これが済んだら、飲みなおしだぜ! このままなんて帰れないじゃーん! カハハハッ!!」
「ティトだよ! あ、でも、さっき食べられなかったシチューは食べたいなっ」
なんだかんだで、ユハニのペースに乗せられているティトである。
「ユハニ殿、次の店では暴れんようにな」
「私からもそれはお願いします……」
ヴァルトルとユーノに釘を刺されつつも、ファンキーオヤジはどこ吹く風。
「よしよし、皆で飲み直しだな! カハハハッ、サイコーの夜になりそうじゃーん!!」
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1005 / ユハニ・ラハティ / 男 / 65 / ファンキーオヤジ】
【ka0840 / ヴァルトル=カッパー / 男 / 28 / 前衛職人】
【ka0975 / ティト・カミロ / 男 / 16 / 最強剣士(予定)】
【ka0997 / ユーノ・ユティラ / 男 / 28 / 流され商人】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました。ファンキーオヤジと、巻き込まれた人々の酒場模様のお届けになります。
生い立ちも性格も年齢もバラバラな皆様がたまたま出会って……というシチュエーション、楽しく執筆致しました。
ご依頼のイメージに添っていましたら幸いです。この度は誠に有難うございました!