※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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はれたる雨の降りしきる日に。
降りしきる小雨の音が、しっとりと耳に心地よい朝だった。
六月二日。志鷹 都(ka1140)――否、あの日まではまだ『紬 都』だった、愛しく優しい大切な家族の元を離れた日のことだ。
その日は都の誕生日で、例年ならばまた1つ歳を重ねたことを両親らと祝う、大切な日だ。けれどもその年の誕生日は都にとっても、両親や彼女の恩師にとってももっと特別で、大切な意味を持つ日になった。
「本当に」
実母亡き後、ありったけの愛情を注いで育ててくれた養母が、柔らかな瞳を優しく細めて、もう幾度目か知れぬ感慨深い息を吐く。
「こんなに奇麗に……立派になって……」
「まったくだ。こんなに美人な花嫁は、国中を探しても都くらいのものだろうよ」
「もう、お父さんもお母さんも」
養母の言葉に、傍らに座って居た養父までもが大真面目な顔でうんうんと頷くものだから、都は思わず呆れた声を上げた。それはあまりにも親バカが過ぎる、というものだろう。
そんな愛娘の呆れ顔に、くす、と顔を見合わせて微笑む養父母である。そうして今度は2人目を細めて、本当に綺麗になって、と感慨深げに愛娘を見つめた。
今日を限りに紬家を後にする、都の身に着けているのは白い睡蓮の如く美しい白無垢だ。綿帽子も角隠しもしない頭はただ緩く纏められ、柔らかな色合いの生花が優しく彩っている。
そうして左手の薬指に幸せに輝く、淡い桜色の真珠の指輪――
(――あの子が、妹が生きていたら、どんなにか喜んだかしら)
そう、ため息のように考えて彼女は、都、と娘の名を呼んだ。その声色が、きっと固く響いただろう事は彼女自身も気付いていて。
呼ばれた都には、なおさら。ゆえにほんの少し眉をひそめ、こくりと小さく首を傾げる。
「なに? お母さん」
「――こんな日に言う事じゃ、ないかも知れないんだけどね」
そうして尋ねた娘に、尋ねられた養母はそんな前置きをしながら己の、まだ迷いを振り切れない胸をぎゅっと握りしめた。わざわざ言う事ではないのかも知れない――けれども、きっと今告白しなければ一生口にすることもなく、それを一生胸に重しの様に抱え続けることだろうから。
実はね、と告げたのは都が生まれる前のこと。彼女の妹が身ごもったと知った、その頃の事。
彼女の妹は体が丈夫なひとではなかったから、到底出産になど耐えられそうにはなかった。最悪は母子ともに命を落とすだろうし、例え無事に生んだとしても長くは生きられないだろう、と。
だから彼女は出産した。まだ生まれてもいない姪よりも、今目の前に生きている愛しい妹の命を惜しんだ。
けれども結局、妹は子を産んで。その子は巡り巡って今、彼女の愛おしい自慢の優しい娘として、他家へ嫁いでいこうとしている。
――そう。ずっと胸に抱えていた複雑な思いを吐き出した、養母の肩を養父が優しく抱き寄せるのを、都はじっと見つめた。
胸の中で、語られた話を反芻する。そうして痛い程に愛された、幸せな少女時代を思い出す。
向けられた愛情に一点の曇りもなかったことを、都はちゃんと知っていた。感じていた。幼い頃に亡くなった母の、そして父の欠落を感じさせないほどに、けれども決して塗り潰さないように、細心の思いやりを持って育ててくれた事を解っていた。
だから。
「お父さん、お母さん。話してくれてありがとう」
胸の中で昇華して、そう微笑んだ都に養母が「許してくれるの?」と目を瞬かせたのに、苦笑する。許すも許さないも、これはそういう話ではないと思っているのに。
だから気にしなくて良いのだと、両親に幸せそうに微笑んで見せた都はだが次の瞬間、2人には知れないようそっと、細い息を吐いた。それは決して、養父母の話のせいではない。
今、都の胸に重くのしかかっているのは、彼に嫁ぐのだと決めたその日から胸にある、2人に隠し事をして嫁ぐのだという心苦しさだ。その罪深さを思えば、自分が生まれる前の話など何になるだろう――そもそも養母は都に悪意があったわけではなく、ただ妹である実母を愛していたからこそ、なのだ。
ふぅ、とまた細い溜息。
彼――今日から都の夫となるその人の持つ闇は、深い。それを理解したいと、寄り添いたいと願う都にももしかしたら、まだまだ理解も何も出来ていないのかも知れないほど。
そんな彼の携わっている後ろ暗い稼業を明かせばきっと、嫁ぐ事は許されないだろう。それより何より都自身の中にも確かに、いつ彼を喪うかわからないという不安がある。
でもだからこそ、少しでも長く共に居て、彼の生きた証を――子を遺したいと想った。想ってしまった。
その気持ちと、再び彼の手を離したら二度と逢えぬのではないかという予感。何より再会後の彼の苦しそうな笑顔が忘れられなくて、他の男性から告げられた想いは全て断ってきた都である。
そうまでして貫いたこの想いと願いが叶う今日は、だが結果として彼女が裏切らねばならない想いと愛情を振り返れば、晴れやかな気持ちとは程遠いのも無理からぬことだった。これを自業自得というのだろうかと、ふと思って苦笑いと共に首を振る。
――都の晴れ姿を心から喜び、祝ってくれている両親を見た。同じように喜び、祝福してくれた恩師の姿を思い出した。
(必ず)
その笑顔に、想いに、都はそっと心に誓う。
(必ず、幸せになるから)
それは、決意。なりたいという願いではなく、必ずなるのだと、ならねばならぬのだという、意志。
それが今日まで都を愛してくれた人々への最大の恩返しであり、たった1つの罪滅ぼしであるのだと、今の都は思っている。何があろうとも両親や恩師の笑顔を守る為、生涯愛する人達に優しい嘘をつき続け、笑顔で居続ける事こそが。
だから。
「お父さん、お母さん……今日まで本当に、お世話になりました」
とも知れず零れ落ちそうな涙をぐっと堪えながら、都は深々と頭を下げた。心からの感謝と、限りない愛をこめて。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職 業 】
ka1140 / 志鷹 都 / 女 / 27 / 聖導士(クルセイダー)
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
長らくお待たせしてしまいましたこと、本当に申し訳ございません。
家族と過ごす大切な日の思い出の物語、如何でしたでしょうか。
シリアス寄りでとのお話でしたので、かなり自由に――いやそれはいつもの事のような――とまれ楽しく(ぇ)書かせて頂きました。
ご両親のイメージが崩れていないかがとても心配です。
えぇ、とても。
もしイメージと違うなどあられましたら、いつでもお気軽にリテイクをお申し付けくださいませ(土下座
お嬢様のイメージ通りの、優しい思い出を心に抱きしめるノベルであれば良いのですけれども。
それでは、これにて失礼致します(深々と