※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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誰かのことを思うこと
白い息を弾ませ、志鷹 都(ka1140)は冬の街を歩いてゆく。特別急いでいるわけではないけれど、せわしない気持ちになる季節だ。都だけではない、行き交う人々は皆、どこか余裕のない様子だった。
「ええと、あとはケーキ用のお砂糖とチョコレートとアーモンドプードルと……」
都はすらりと細い指を折り、これから買う予定のものを数える。と、何か思い出したように不意に立ち止まった。
「あっ、いけない、オリーブオイルをきらしていたかも。うーん、これからまだたくさん買い物をするし、重い荷物は増やさない方がいいかな……」
冬のごちそうを作るには是非とも揃えておきたい食材のひとつではあったが、調味料の類はとにかく重さが苦になる。
「ちょっと後で考えようかな……」
最優先にすべき食材をそろえてから決めよう、と都は再び歩き出す。けれどその足はまたすぐに止まってしまった。
「わあ。可愛いマフラー! 手袋も! 耳あてもいいなあ……」
子ども向けの商品を扱う洋品店のショーウィンドウに目を奪われたのである。
「あの子たちに、似合いそう……」
都は目を細めた。縫物も編み物も好きだから、こうしたものは手作りしてあげられるのだけれど、生活に追われる中でつくるものとなれば柄や色合いの工夫などにおいてやはりプロにはかなわない。
「ちょっと、見ていこうかな」
飾られた手袋がまるで手招きをしているようだし、なんて言い訳めいたことを胸中で呟きつつ、都はその店の扉を開いた。
「いらっしゃいませ」
店内でにっこりと微笑んでいたのは、上品な老婦人で、彼女がこの店の店主であるらしかった。都は軽く会釈して、店内を見て回る。子ども向けの商品だけでなく、家族で揃えられる小物がたくさん並べられており、それらはどうやらすべてハンドメイドであるようだった。
「素敵……!」
都は、ほう、とため息をついた。このところ疲弊していた心が、久しぶりにあたたまってゆくのを感じ、ひとつひとつ丁寧に眺める。こうしたものを見ていると自分も何か作りたくなる。子どもたちの好きなモチーフをそれぞれ編み込んで、などと考えていると、いつの間にか、目の前に並ぶ商品を眺めるよりも、そちらの構想の方に夢中になってしまっていた。
「……お客さま」
「……あっ」
気がつくと、老婦人がすぐ隣にいた。にこにこと穏やかな笑顔で、都を見ている。都は慌てて頭を下げた。
「ごめんなさい、ぼーっとしてしまって」
「いいえ、いいんですよ。お客さまにはね、こちらの方がいいかと思ってオススメをお持ちしたんですけれどね」
そう言って老婦人が差し出したのは、色とりどりの毛糸玉だった。都は目を見開く。
「え?」
「あなた、ご自分で作る方がお好きなんでしょう? 見ていればわかりますよ」
「……はい、そうなんです」
都は驚いた表情をゆっくりと笑顔に変えて、頷いた。ここのところはそんな余裕もなかったけれど、と胸中でそっと呟く。
「家族で揃いのものを作れたらと思うんですけれど、人数が多いので……、これから編んでいたら冬が終わってしまいそうで」
都は肩をすくめてそう言った。だから今回は出来上がったものを買います、と続けようとすると。
「あら、いいじゃないですか、冬が終わってしまっても」
老婦人がそんなことをさらりと言う。都は再び目を見開いた。
「え?」
「来年の冬に間に合わせるというのはどうです? そうしたら、丸一年、家族のためにどんなものを作り上げようか考えることができますよ。誰かのためにできることを考える時間は、そりゃあ幸せなものでしょう? 長い方がいいじゃない?」
「誰かのためにできることを考える時間……」
都は、老婦人の言葉を口の中で繰り返した。そうだ、それは、何にも代えがたい幸福だ。
「そう、ですね」
都はまた笑顔になる。老婦人と顔を見合わせて、ふふふ、と笑った。
「毛糸玉、もっと種類がありますでしょうか?」
「もちろん、ございますよ。こちらへどうぞ」
老婦人に案内されながら、都は久しぶりにうきうきした気持ちになっていた。毛糸を選んだら、予定通り食材の買い物をしよう、と考える。庭で夏に収穫した果物を、果実酒にしたものがあるからそれをケーキに使おう、きっと皆喜ぶだろう……。
「ああ、そうだよね」
都は小声で呟いた。こうして、ごちそうの内容を考えることも、誰かのためのことを思う時間だ。
「……さあて。何色にしようかな」
毛糸のあたたかな色合いが、都の心に、そっと、しみわたるようだった。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1140/志鷹 都/女性/24/聖導士(クルセイダー)】
【ゲストNPC/老婦人】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ごきげんいかがでございましょうか。
紺堂カヤでございます。この度はご用命を賜り、誠にありがとうございました。
疲れを癒すのは、実はのんびりすることだけでなく、忙しさだったりすることもあるよなあ、なんて思っている次第です。
ただし、無闇に忙しいのではなく、充実した時間を過ごすことができれば、ですけれども。
都さんはきっとそういう時間を過ごせる方なのではないかな、と思って、このようなお話にさせていただきました。
楽しんでいただけたら幸いです。
この度は誠に、ありがとうございました。