※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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そして青空の下で
どこまでも飛んでいけそうなくらい青い空だった。
時音 ざくろはある街を散策していた。
ところが、道を曲がろうとした時、ざくろは人にぶつかってしまった。
「わ、ごめんね……!」
「いえ、こちらこそ」
しかし、二人は同時に顔を見合わせることになった。
「もしかしてアメル?」
「そういうあなたは、ざくろさん?」
アメル・ボルコンス。かつてざくろが依頼で知り合った少女だった。
「「どうしてこんなところに?」」
お互いに同じ疑問を発した。
だが、アメルは返答を待たず、思い出したように後ろを振り返り、
「とにかく、こちらへ……!」
ざくろの腕を引っ張って、近くの細い路地に隠れた。
すると、男がやってきて、誰かを探している様子だ。
ざくろはその男を観察する。
武装をしており、その体つきから、鍛錬を重ねていることがわかる。
しばらくすると、男は走り去っていった。
「行きましたわね……」
「アメル、もしかして追われているの?」
しかし、アメルは答えずに、
「ざくろさん、どうしてこの街に?」
と、話題を変えてしまった。
簡潔にざくろは事情を説明する。
「と、いうことは、ざくろさん、この街は初めて?」
「うん、そうだね」
「じゃ、じゃあ、この街を案内してあげても……よろしくって、よ?」
アメルは、慣れない提案をしたため、物言いがたどたどしかった。
「本当? じゃあ、お願いしようかな。アメルともっと話していたいし」
「え、私と……?」
自分が捻くれ者であることを自覚しているアメルであるから、そんなことを言われるのは初めてのことであった。
こうして、アメルによる街の案内がはじまった。
「えーっと、ここは市場ですわね。す、すごい人ですが、たぶんいつもこんな感じだと思います!」
アメルは案内してはいるが、彼女自身も街の様相を興味深げに見ていた。
「確か、この先にケーキ屋さんがあって……あら、どっちだったかしら。と、とにかくこの辺です!」
その様子を、ざくろは微笑ましそうに見ていた。
「アメルが元気そうで良かったよ」
「……ざくろさんも元気そうで、なによりですわ」
「確か、アメルのお屋敷ってこの近くだったよね」
「ええ。ここは私の地元ですもの。ですから……結構詳しいんですのよ?」
「そうなんだ。ざくろ、リゼリオに冒険拠点持ってて、普段はそこに団員さん達と一緒に住んでるんだ、良かったらいつか遊びに来てよ」
「私が、行っていいんですの……?」
「もちろんだよ!」
ざくろは元気に頷いた。その拍子に艶やかで長い黒髪が可憐に揺れた。
「じゃあ、いつかきっと……って、あら?」
アメルは周囲を見回した。
ざくろと楽しくおしゃべりをしていたら、いつの間にか随分寂しい界隈に出てしまっていた。
「おかしいですわね……いえ、私について来れば大丈夫です。さあ、行きますよ」
「いや、これ以上先には行かせないぜ」
アメルがなおも進もうとするところへ、男が──アメルを探していたあの男が立ちふさがった。
「ざくろの後ろに!」
ざくろがアメルをかばうように立ち塞がる。
その様をにやにやと笑いながら、男が見ている。
「いい雰囲気のところ悪いが、ここから先は交通禁止だ」
「え、ちょっと、どういうことですの?」
「この人、ちょっと前からざくろたちのことつけて来てたんだ……一体アメルに何の用?」
ざくろが赤い目で男を見据えていう。
「バレてたなら仕方ねえ。拳で黙らせるまでだ!」
男が大きく拳を振りかぶって突進してきた。
それをざくろは上体をそらして躱し、男の腕を引っ張り、足を払って転ばせる。しかし、その手応えに奇妙なものを感じた。
本気で殴りに来てない。そう感じたのだ。
「も、もう! 一体何をしているんですか、あなた!」
その時である。
アメルが真っ赤な顔で、男に言った。
その言葉は明らかに敵に対するものではなく、どこか親しみを感じさせる語調だった。
「えっと、アメル、どういうこと……?」
「彼は……」
アメルは恥ずかしそうに、言葉を紡ぐ。
「父が私につけた、つけようとした護衛です……」
「今日アメルは一人で出かけようとして、そこをお父さんに止められたけど、逃げて街まで来たところを、ざくろと出会った。そして、護衛の人は、ざくろたちをつけていた、ってこと?」
ざくろがアメルと男から聞いた話を要約すると、嘆息交じりにアメルが肯定した。
「こっそりつけてたんですけど、ここより先は治安が悪いですから、無理やり止めに入ったんですよ」
からからと護衛の男は笑った。
「演技なんてせずに、普通に忠告してくれれば良かったのに」
ざくろは当然のことを言う。
「いやあ、二人の邪魔をしちゃいけないと思ってね……ハプニングがあったほうが盛り上がるでしょう?」
「? 何が?」
「そりゃ、デートですよ」
「「デート!?」」
ざくろとアメルは同時に耳まで真っ赤にして同じ単語を発した。
「そうですよ。そもそもあの日以来、お嬢様ったら、ざくろさんの話ばっかりなんだから」
「なななな、なにを言っているんですあなたは!!」
アメルは手をばたつかせて、男の言葉をかき消そうとした。
「そうなの、アメル?」
「いえ、そんなことは……ありますけど、ちょっと黙りなさいあなた!」
護衛の男はからから笑って、結局「ざくろさんの様な強いハンターがそばにいれば安心です」と言って、帰っていった。
さて、取り残された二人は赤い顔のまま、気まずい雰囲気である。
「ざくろさん!」
と、口火を切ったのはアメルだった。
「本当は、私、街の案内なんてできなかったんです」
体が弱く、家の中で過ごして来たアメル。外に出るときも父の馬車での移動だったので、自分の足で街を歩くなんでことはほとんどなかったのだ。
だから、こんな寂しい界隈に迷い込んでしまった。
「でも……もうちょっと、ざくろさんと一緒にいたくて。強い私を見せたくて……」
「アメル……今日、楽しかった?」
ざくろは優しく微笑んで、アメルに問う。
「ざくろはね、とっても楽しかった。うん、……デートみたいで、楽しかったよ」
ざくろは少女の様な顔の頬を桜色に染めつつ、笑って言った。
アメルはその綺麗な、嘘のない笑顔に瞬間、見とれた。
「わ、私も……楽しかったです……とっても」
アメルは消え入りそうな声ではあるけれど、そう告げたのだった。
「あっ、そうだ」
と、ざくろは思い出したようにあるものを取り出した。
それは銀の縁に青い石が嵌められ星のように輝いているペンダントだった。
「これ途中のお店で見つけて、似合うんじゃないかなって……良かったら」
ざくろは、照れて笑いながら、ペンダントを差し出す。
「つけてあげるね」
ざくろはペンダントの鎖を持って、頭や髪に引っかからないように慎重にアメルの首にかけてやった。
「うん、やっぱり、とっても似合うよ、アメル」
ざくろは、鎖の輪の内側に入ってしまったアメルの長髪を手のひらでそっと出してやりながら言った。
「……戻ろっか」
そのざくろの言葉にこくりとアメルは頷いた。
その光景を優雅な青い空だけが見守っていた。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1250 / 時音 ざくろ / 男 / 18 / 機導師】
【ゲストNPC / アメル・ボルコンス / 女 / 16 / 捻くれお嬢様】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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私はまだ弱くて、捻くれ者で。
けれど、あの人は楽しかったと言ってくれた。
私にも出来ることがあったのだ。
そんな思い出を胸に、私はまた歩いて行こう。
この日に恥じないように。