※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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其の願いの、向かう先
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その日、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)は正しく、怒りを抱いていた。
男は、ユグディラ達の島で機会を得た。グラズヘイム王国の王女と言葉を交わす機会を。巨躯を誇る偉丈夫であるジャックと比べると哀れなほどに小さい王女との久方ぶりの対話。
その活動の如何まではともかく、少女の葛藤はジャックとて知る所である。その上で、少女を前に、ジャックは傲岸不遜にも、こう言ってのけた。
俺様が、王国を変えてやる、と。
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憤怒の息を吐き出したのは、少女との会合が終わった後のこと。その場を後にして、切り株の椅子に腰掛け、俯いた彼は、顔の前で組んだ両手を固く握りしめた。
――彼には叶えたい願いがある。
嘗て失った友に誓った、遠き日の願い。取り返しのつかない過去の、熱く煮え立つ憤怒すらも伴う願い。
慮外の大望で、果てることなき願いだ。しかし、その重さは、ジャックにとって無慈悲な現実と相違ない。
“それ”を果たすには、力が、無い。地位も無い。人脈も足りない。機会が無い。金が、足りない。何もかもが、届かない。
商人でもあるジャックは、それを余すことなく理解出来ていた。
だからこそ、ジャックは少女に、一片たりとも妥協を抱き得ないのだ。
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――忘れねえぞ。
胸のうちに凝る昏い怒りを、ジャックは独白した。
彼女は、こう言った。
『今の私には、出来ない』
赦せるわけが、無かった。
およそジャックに足りないものに関していえば、少女はあまりにも恵まれていた。にも関わらず少女が放った言葉を、許容できなかった。少女の在りようを、受け容れられなかった。
ジャックのそれは、百度死して蘇ったとしても、叶えられる願いではない。それでも、叶えると決めたのだ。膝が折れても、足掻くと決めたのだ。
だから、彼はあのように告げた。
「……クソったれが」
けれど。少女から返ってきた反駁は、少なからずジャックを揺るがしていた。
――あのクソガキ、俺を……。
あの時、少女はおそらく、“ジャック”を真っ向から見ていた。彼女が示した突き刺すような視線は、彼が知る限りで初めて見たものだ。その一瞥をもってジャックの大言壮語を居抜き、それを発した“ジャック”を見て、初めて、少女は激怒した。
つまり。
――俺を、舐めやがった……ッ!
“今の私には出来ない”
それは裏を返せば、いつかしてみせる、という宣言にほかならない。その上で、少女はジャックの言葉とその実現性を世迷い言と切り捨て、怒った。
ああ。ジャック・J・グリーヴは、虚仮にされたのだ。あのような少女に、クソガキに。
「……足掻きもしねぇ、ガキが」
赦せるはずが、ないだろう。
だから、男は勢いをつけて立ち上がる。
次の戦場へ、行かねばならない。
「……見てろよ」
そう言って、男は笑った。心の奥から湧き上がる反骨が、何故だろう――今は、心地よさすら感じるのであった。
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1305 / ジャック・J・グリーヴ / 男性 / 21 / 王女の好敵手】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。ムジカ・トラスです。 この度は発注、ありがとうございました!
というわけで、おまけノベルでございます。おまけノベルなので、あえて書かせて頂きますが、ええ、ジャック様の嗜好はどっちなのかな、と常々悩む所でして、例えば先般のノベルを思い返しますと、彼の未来を決定づけたのが中年、しかも当時はジャック様は少年という事を踏まえますと、つまりジャック様はそういうことなのかな、と思ったりもすることもあるかもしれません。
以上、戯言です。おまけなので。
ジャック様はそういえば、自然と照れなかったよなあ、と思い返しながら、このノベルを書かせて頂きました。お気に召して頂けたら幸いです。
今後とも、機会がありましたらよろしくお願いいたします。それでは。