※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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夢見れば、空想は実現する
クリムゾンウェストに転移してハンターになる前、『パパ』にお世話されてリアルブルーにある洋館の地下に閉じこもっていた頃。
その頃のまよいは地下に引きこもるようにして暮らし、箱入り娘として育てられていた為に世間知らずで、童話の絵本やファンタジー小説を読む毎日を過ごしていた。
その日もまた地下室で椅子に腰掛けて、古風なランプを灯りに、まよいは絵本を読んでいた。
魔法もある世界で、エルフやドワーフなどのクリムゾンウェストにのみ存在する種族達が人間達と共に暮らしており、様々なファンタジー的職業の人々が世界にはびこる悪い魔物を退治する冒険を繰り広げていく様子が描かれている絵本だ。
その頃、リアルブルーの人々はまだクリムゾンウェストの存在は知らず、その頃クリムゾンウェストの存在を知らなかったまよい自身もまた架空の世界だと思っていた。
(もし私がこの世界に行ったら、どんな冒険を繰り広げるんだろう)
エルフやドワーフなどと仲良くなるまよい。
魔法を駆使して悪い魔物を退治するまよい。
束の間の日常を仲間と一緒に過ごすまよい。
最後のは冒険ではないが、絵本を読みながら、空想に耽る。
空想の世界を夢見るまよいの顔には、自然と笑みが浮かんでいた。
(こんな世界があったら、本当に楽しいんだろうな~)
それからどれくらい経った時だっただろうか。
まよいが夢見た世界は、クリムゾンウェストへの転移によって現実のものとなった。
クリムゾンウェストのとある街。
転移後の早い時期に訪れた事があった街を、まよいは歩いていた。
転移直後、だいたいは直感に従って生きているまよいは、すぐに直感でこれは夢ではなく現実だと理解すると同時にあの時の空想が現実になったのだと喜びの声を上げた。
そして絵本の冒険者であるハンターになる事を決めたまよいは、即決で職業を魔法使いこと魔術師に決める。
精霊と契約し、覚醒者となったまよいはこの街を見て回っていた。
ハンターになる前にも思った事だが、クリムゾンウェストはまさしくあの時に読んでいた絵本の世界だ。
19世紀前後のリアルブルーによく見られた石畳に石造りの建築物で出来た街。
その街には人間だけでなく、エルフやドワーフなどのリアルブルーには存在しない種族が暮らしていた。
街に軒を連ねる店ではリアルブルーと同じ物だけでなくクリムゾンウェスト特有らしい青色のブドウや黒色のリンゴなど見た事も聞いた事もない物を売り買いしており、まよいもそれらを買うと口にする。
青色のブドウは口に入れると甘い果汁が溢れ、豊かなブドウの香りが鼻を吹き抜けて非常に美味しい。
リンゴ由来の甘い香りをする黒色のリンゴにも期待してかじると、香りとは真逆でとてつもなく苦かった。
顔を真っ青にするまよいは一心不乱に青色のブドウを口に運んで苦さを誤魔化す。
ちなみに青色のブドウはジュースに、黒色のリンゴは健康にいいらしいと必死で青色のブドウをほおばるまよいにエルフの男性が笑いながら教えてくれたが、後の祭りである。
持ち直したまよいが次に向かったのは港だった。
青い海の水平線には、米粒よりも小さく見えるが船らしき物も見える。
港では、岩にしか見えない物体や言葉で表すことが出来ない奇妙な形の魚などが並んでいた。
岩にしか見えない物体はウニに似た生物で、ハンマーで叩き割って中にあるウニの卵巣の様な物が食べるらしい。
奇妙な形の魚は、普通に三枚おろしにして食べるようだ。
まよいは漁師の好意で商品にならない小さな毒々しい色合いの魚たちをまとめて煮た鍋をご馳走になり、意気揚々と街へと戻っていく。
人を乗せて飛んでいたワイバーンにグリフォンなどの幻獣が下降していくのが見えたからだ。
幻獣たちが降りた場所に行くと、幻獣たちと共に飼い主たちが居たのでまよいは早速許可を得る。
「ねぇねぇ、この子達に触ってもいいかな?」
突然の申し出に飼い主達は驚いていたが、まよいが目を輝かせているのを見て笑顔で頷く。
ワイバーンを撫でると鱗の肌触りと唸り声が返って来るが、嫌そうな声色ではないので撫で続けていく。
グリフォンはふわふわとした羽毛が心地よく、無関心なのをいい事に満足するまで撫で尽くす。
絵本の中でしか見れなかった存在を、今触っている。
そう思うと、どうしてもまよいは自分を抑える事が出来なくなってしまう。
元々、抑える気など全くなかったが。
ワイバーンは理性的で、グリフォンは獲物や外敵以外には無関心だと教えられ、まよいは溢れ出る感情に身を任せて二匹に思いっきり抱きついた。
(……某童話小説の様に、不思議な世界に迷い込んでしまったのだと思ってはしゃいじゃってたっけ)
当時の事を思い出しながら歩くまよいの視界に、小粒の光が舞い降りてきたのはそんな時だった。
何事かと思いまよいが見上げると。
「わぁ……!」
まよいの周囲に幾つもの光がキラキラと、空から落ちて来ていた。
その光景にまよいは思わず感動の声を漏らし、自然と落ちて来る光が多い方へと目が向いた。
視線の先には、小さな舞台の上に立つ一人のエルフが居る。
その傍では仲間らしい魔法使い風の男性が球状の水を上空へ放ち、別の人物がそれを一瞬で凍らせる。
そしてエルフが放った風で氷の球が粉々に砕け散ると、太陽光を受けた氷が煌きながら地面へと落ちていく。
原理が分かってしまえば何という事もないが、それでもだ。
自分の夢見た世界がここにある、まよいは今も昔も確かにそう感じていた。
「あ、居た居た。おーい、まよいちゃーん」
遠くから呼ぶ声を聞き、まよいはそちらへと振り向く。
そこには、まよいがクリムゾンウェストに来てから知り合った人々が待っていた。
その人々に向かって、まよいは笑顔を浮かべながら歩みを進める。
魔法使いとなった彼女は、自分の足で、自分の意思で、かつて夢見た世界を歩く。
「お待たせ~。じゃあ、行こっか?」
彼女の新たな冒険が始まる。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1328/夢路 まよい/女/15歳/魔術師(マギステル)】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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夢路 まよい様へ。
この度は、シングルノベルの発注ありがとうございます。
個人的に印象深い方でしたので、書く機会を頂けて大変嬉しく思っております。
さて、内容の方はいかがでしょうか。
お気に召す内容に仕上がっていれば、幸いと存じます。
それでは、またのお会いする機会をお待ちしております。
2018/12/20 ザントより。