※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
兄と弟の秘密の休日

 表通りから二ブロックほど奥に入った細い路地を足音を忍ばせ神代は十字路まで進むと物陰に身を寄せ周囲の気配を探った。
 胸元で唸るノイズ音。神代はトランシーバーを取り出す。
『こちらラスティ、今から状況を開始する。使用ルートはAからBに変更』
 トランシーバーから流れてくるのは弟分の機械越しでも伝わる真剣さの滲む声。
 僅かに間を空けてから「いいな、ラスティ」と神代は周囲を警戒しながら口を開いた。
「戦地に偵察に行くつもりで移動するんだぞ」
『了解した。オーバー』
 それきり沈黙するトランシーバー。神代は両手に荷物を抱えなおして歩き出す。袋の中身は沢山の酒瓶に酒の肴。自宅から少しばかり離れた食料品店へ買出しの帰りである。
 単なる買出しだというのに何故にこんなに警戒しているのか。それには理由がある。
 神代はリアルブルーで教師をしていた頃も、職場から離れた場所に気に入りのゲームセンターを持っているくらいにはゲーム好きであり、ラスティも寝食を忘れるほどの重度のゲーマーだ。
 そんな二人で今日は酒とゲーム三昧の男の休日を過ごす予定なのだ。
 だが久々にがっつりゲームができる喜びと楽しみで浮かれてばかりもいられない。
 それを成功させるためにみつかってはならない相手がいる。神代の友人でありラスティの姉貴分である女性。馴染みの店ではなくわざわざ隠れるように遠い店に行くのもそのためだ。
 先日、馴染みの店で酒を大量に買おうとしたところ店主に止められた。お酒は四本まで、彼女と神代の約束を店主が知っていたのである。そう馴染みの店には既に彼女の手が回っていた。
 一応店主に交渉を試みたが「そこまで心配してくれる人はそうそういないよ」とすっかり彼女の味方だ。
 多分彼女に見つかれば「二人ともそこに座りなさい」と説教が始まるに違いない。いや説教だけで済めばよい。きっと酒も取り上げられてしまうだろう。なんとしてもそれは避けたかった。
 店主が言うように彼女が本当に自分の生活態度を心配してくれるのはわかっている。有難くもある。
 だが男には時として自堕落に過ごしたい日もあるのだ。徹夜でしばしばした目で黄色い朝日を迎えたい日もあるのだ。
 移動は最重要ミッション。失敗は許されない。
 シノビのごとく物陰から物陰へ渡る神代であった。

 ラスティはトランシーバーのスイッチを切る。
 自宅を出てまずルート変更を決めた。空は見事に快晴だ。こんな日は広場や公園に市がたつことが多い。しかも時間は夕刻。そうなると偶々買い物に出かけたあの人と鉢合わせる可能性も高くなる。
 故に使用するのは多少時間がかかるが遠回りのルート。
 今日は見つかるわけにいかない。念には念を……。ポケットの中の携帯ゲーム機を確認する。
「ミッションスタート」
 一人の青年から一人前の戦士の顔へと変わった。

 無事帰宅し扉を閉めても気は抜けない。神代は部屋中のカーテンを閉め、テーブルに買ってきた酒とつまみを並べさらに棚の奥から秘蔵品を取り出す。この日のために怪しまれないように少しずつ買い足していくのはなかなか骨が折れた。
 リアルブルーから一緒にやってきた携帯ゲーム機の充電も確認する。ファンタジー小説のような世界で充電できるとは驚きだった。
 間もなく連絡が入る。
『尾行はついていない。あと数分でそちらに着く。オーバー』
 神代はカーテンに隙間を空けると周囲を探る。もちろん裏手の確認も忘れない。
「周囲に人影なし」
『了解した。今から突入する』
 合流を果たした二人はまずは互いの無事に祝杯を挙げた。

「なにっ?!」
 驚くラスティの声をBGMに神代は余裕の笑みでべグラスを傾ける。
「何が起きた?」
 灰色のブロックが積み重なった画面と神代を見比べた。神代がゲームオーバー一歩手前だったはずだ。あと二回ブロックを消せばラスティの勝利は確定だった。だというのに神代の画面からはブロックは消え、逆にラスティへと降り注ぐブロックの雨霰。
 あっという間の逆転負け。
「ふっふふ……」
 不敵に笑う神代に「今度こそ」とラスティはコンテニューを選ぶ。自他共に認めるゲーマーとして簡単に負けを認めるわけにはいかない。
 神代のブロックは一箇所を起爆剤に連鎖を起こすように組まれている。見事ではあるが、どこか一箇所道を塞げば単なる高い壁に早変わりとなる諸刃の剣。ならば、と矢継ぎ早に自分のブロックを消し相手へ妨害用のブロックを飛ばす。流石に此方の邪魔するタイミングまでわからないであろう。
「……と思うだろ?」
 まるで心を読んだかのように神代の言葉にラスティは背筋に冷たいものを感じた。
「道は一つとは限らないのさ」
 楽しそうな宣言と同時に押されるボタン。
 再び降り注ぐブロック。
「どんだけ先まで計算してんだ!? くっそう」
 テーブルに突っ伏すラスティ。決してラスティが弱いわけではない。ネット対戦ではそれなりに慣らした口である。なのに連続で負けるとは……。
「ランカー並ってことかよ……」
 ラスティのぼやきに神代が眼鏡をくいっと上げた。得意気なのが腹立たしい。よろしい、ならば今度は自分のフィールドで勝負だ。
「……次はシューティングだ」
 起き上がると遊び慣れたゲームのスタート画面を立ち上げてつきつける。

 響く銃声。次第に赤く染まる液晶画面。浮かぶ無機質な『You are Dead』の文字。
「だああ、くそっ」
 頭を抱える神代。ラスティは唇の端をあげてみせた。
 敵、味方に分かれてのシューティングゲーム。スナイパーラスティにヘッドショットを決められ神代の敗北。
「誠一は前線に出すぎだな。良いカモだぜ」
 戦場を駆ける神代とひたすらチャンスを狙うラスティ。地形や天候を熟知している分ラスティのほうが有利であった。
「ゲームなんだからじっとしていたらつまらないだろーが」
 酒を呷り、さらにグラスに注ぐ。
「これも勝ち方の一つだぜ」
 ふふん、とラスティが顎を上げる。
「くっ、もう一回! もう一回シューティングで勝負すんぞ」
「次はこっちでいってみるか?」
 地球に侵攻してきたエイリアンを倒すゲームをラスティが選ぶ。同じシューティングだが此方はチーム戦だ。競い合うのは互いの得点。
「なぁ……」
 忙しくエイリアンを倒しつつ神代はラスティに話しかけた。
「さっきから気になってたんだが……」
 ラスティはまるで遊びなれた音楽ゲームをクリアしていくように澱みなくボタンを押していく。動きも三歩進んだら右に隠れるなど迷いがない。
「なんだよ?」
 神代に顔を向けたというのに的確にエイリアンを打ち抜く。ここで神代は確信した。
「ひょっとして敵の行動パターン全部頭に入ってるのか?」
「あたりまえだろ。どんだけやりこんだと思って……誠一、そこ頭上に大型スパイダーいるから気をつけろ」
「え……ぅおっ……」
 咄嗟に地面に転がり敵の一撃を避ける。反射的にキャラクターと同じ方向に自分の身を傾ければラスティが声を上げて笑った。
「やかましいっ」
 ラスティの椅子の足に入れる蹴り。
「危ねぇ……って誠一ずりいぞ」
 ラスティが動きを止めた隙に得点の高い大型エイリアンを神代は狙う。
「勝負の世界の厳しさを思い……だぁっ?!」
「おおっと、悪い。足が滑った」
 お返しとラスティが神代の椅子を揺らす。互いに邪魔しあった協力プレイはぎりぎりラスティの勝利で終わった。

 楽しい時間に酒も進む。酒精が充満する締め切った部屋。ここに踏み込まれたら最後、神代、ラスティともに現行犯で正座からの説教直行間違いなしだ。
 二人の勝負の行方は……。
「俺が勝ってるだろ?」
 訪ねるラスティに神代はメモを覗き込む。
「……五分だな」
「うぇ……メモってんのか?」
「折角の勝負だろ?」
「流石数学教師……」
 ぼそっと呟いたラスティは瓶から直接酒を飲む。
 神代は時計を確認した。間もなく午前三時、まだ夜明けまで時間はあるが、そろそろ決着をつけにかかってもいいだろう。
 ちらりと横を見ればラスティも同じことを考えていたようで視線がぶつかった。互いに浮かべる挑戦的な笑み。
 琥珀色の液体を飲み干すと空になったグラスをテーブルに置く。
「ここまできたら」
「これしかないだろ」
「「格ゲー!」」
 キャラクター選択し、始まるカウントダウン。
 3、2、1、0。
 一気に距離を詰めたラスティにいきなり足を払われて神代が転ぶ。
 そして起き上がりざまにダメージは小さいが隙の少ないキック。じりじりと壁際に追い詰められる神代。それでも必殺技を使用して壁際から脱出。
 だが今度は一定距離をとられこれまた隙の少ない遠距離攻撃でちくちくと攻撃を受ける。
 遠距離から逃げるためにジャンプをすれば対空攻撃からの着地を狙った足払い。そして再び連続技で壁際に。
「うわ、きったねぇ! じわじわ削んなって」
「勝てば良いんだよ、勝てば!」
 連続キックにガードを崩されたところを投げられてのフィニッシュ。基本技の連続攻撃で負けたような気がした。
「……パズルのときも小技の連続だったよな」
 最後に勝ったのは誰だったか、と視線を向ければ「言ってろ」と返ってくる。
 2ラウンド目、開始。
 前回の反省を生かし足払いを決められる前に長いリーチを活かし掴み投げ。そして浮いた体に大技を叩き込み、一気に体力を削った。
 ダッシュやジャンプを駆使し相手の間合いから抜け出し、ゲージが溜まったところで必殺技。今度は神代の勝利だ。
 3ラウンド前、眼鏡を外し目頭を揉む神代、対するラスティはストレッチで体を解す。互いに本気だ。
「負けないぜ」
「それはこっちの台詞だっての」
 勝負は互角、いややはり隙の少ない技を多彩に揃えるラスティが有利。じわじわと神代の体力が削れて行く。
「ぐっ……」
 壁際で体を浮かされたら第一ラウンドの再現だ。
(かくなるうえは……)
 神代は背凭れに体を預け寛いだ風を装う。
「そういえば……」
「手加減はしないからな」
「したら怒るぞ……じゃなくってな」
 体力が減っていく。だが焦ってはいけない。あくまで世間話のようなさりげなさで……。
「花は喜んでもらえたか?」
「花?」
「彼女にプレゼントしたんだろう?」
 神代は爆弾を投下した。
「なっ……!!」
 ラスティが顔を赤くして固まる。その隙を逃すほど神代も甘くなかった。
「はっ、まだまだあまいな」
 一気に畳み掛ける。
『You Lose』
 ラスティの端末から聞こえる音声。
「え? あ? ……あああ~~!! きたねぇ!!」
 ラスティが叫んだ。
「勝てば良いんだよ、勝てば……だろ?」
 先ほどラスティに言われた台詞をお返ししてやる。
 その後も二人はゲームを変えては勝負を続けた。
 気づけば二人の周囲にいくつも転がる酒瓶。

 小鳥の囀り。
「ん……」
 テーブルに伏したラスティの腕が空の空き瓶にぶつかる。瓶の倒れる音にラスティが目を覚ました。
「あれ……」
 目を擦り体を起こす。
「いつの間にか寝てたか……。誠一、起きろよ朝だぞ」
 神代の寝ているソファを軽く蹴飛ばした。
「んぁ……おはよ……ラスティ」
 ぐぃっと伸びる神代。カーテンの隙間から漏れた朝日がその顔を照らした。
「ああ、朝日が眩しい……」
 何時の間にかはずした眼鏡をかけて欠伸を一つ。黄色い朝日に覚える充実感。
 そこに聞こえてくるリズミカルな足音。それはとても聞き覚えのある……。
「げっ、まさか?!」
「とと……とりあえず瓶を片付けないと……」
 わたわたと立ち上がる神代。だが一晩の惨劇は一瞬で片付くはずもなく。
 近づく足音。瓶を抱え立ち竦む神代とラスティ。
「神代さん、おはようございます」
 ノックと共に声がかけられ、二人は青褪めた顔を見合わせた。
 神代の腕から酒瓶が転げ落ちる……。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名   / 性別 / 外見年齢 / 職業】
【ka2086  / 神代 誠一 / 男  / 32   / 疾影士】
【ka1400  / ラスティ  / 男  / 16   / 機導師】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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その後、お二人の運命は?!
……ということでこの度はご依頼いただきありがとうございます、桐崎です。

兄と弟のゲーム三昧な休日いかがだったでしょうか?
イメージ、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクを申し付け下さい。

それでは失礼させて頂きます(礼)。
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
神代 誠一(ka2086)
副発注者(最大10名)
ラスティ(ka1400)
クリエイター:桐崎ふみお
商品:WTアナザーストーリーノベル(特別編)

納品日:2015/05/11 18:18