※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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湖面の三日月
その子が僕の私の家に来たのは何年前の話だろう。
2年?
3年?
ああそっか、そもそも僕と私と君たちじゃ流れる時間が違うから、正確なことなんて伝えられないや。
とにかく……彼女の足は擦り切れて血だらけで、汗だくの顔もとても見られるものじゃなくって、一体何をそんなに急いでいるんだろうって思わず笑っちゃった。
あっ、人間みたいに下品に甲高い声を上げたりはしないよ?
僕らの私らの笑いはそよ風で、周りの木々の若葉をカサカサと揺らすんだ。
僕の私の家を前にした、あの子の顔と言ったら今でも忘れられないよ。ぽかんと口を開けて、もともと汗と涙でぐちゃぐちゃだったのにさ、あんまり微動だにしないものだから感動しすぎて死んじゃったんじゃないかって、ちょっと心配にもなったもの。
その時、彼女が楽器を持っているのが見えたんだ。
人間の楽器だから、名前なんて分からない。そもそも、楽器を使わないと音を奏でられないなんて、とっても不便だし可哀そうだなとも思うよ。でも音楽は僕だって私だって好きだから、そこに分け隔てを持つつもりはない。
――聴かせて。
僕らの私らの言葉でそう尋ねると、彼女は飛び上がって辺りを見渡してた。
それでようやくこっちのことに気付くと、恐る恐る、その音色を聞かせてくれたんだ。
とっても悲しい歌だった。べつに、そういう曲だったってわけでもない。でも、そこに乗ってる彼女の心はとても悲しそうで、なんていうか、歌うのがとても辛そうだった。
そんな彼女が、また僕の私の家を訪れた。数年ですっかり変わってて、やっぱり人間との時間の流れの違いを感じたね。
でも、違ったのは見た目だけじゃない。彼女の音楽もすっかり変わってたよ。とても楽しそうだった。あの日聞いた音が嘘のように、彼女の幸せな心がのっていた。
それを聴いて、僕も私も、またそよ風をカサカサ鳴らして笑ったんだ。どうせ聞くなら、一緒に歌うなら、楽しい方が良い。
僕は私は笑う方法は知っていても、人間みたいに泣く方法は知らない。悲しいってことは知っていても、涙の流し方は知らない。一緒になって感じて、表情にできるのは楽しいことだけなんだ。
だから、次も楽しい歌を待ってるよ。
今度はもっとたくさんの笑顔を、一緒に連れてきてね。
――了。
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【ka1565/ルナ・レンフィールド/女性/16歳/魔術師】