※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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君と食卓を
口に含んだ味噌汁の味がいつもと違った。
「……ん?」
決してまずいわけではない、まずいわけではないのだが、何かが気になる。
だからテオバルトは、台所に立つ妻の背中をじっと見つめた。別段、不審なところはないように思える。
杞憂であればいい。けれど妙な胸騒ぎがして、テオバルトは作業中の妻の背中に声をかけた。
「なぁ、もしかして味噌汁の味付け失敗したか?」
そして待つこと数秒。
返答はない。
これは、本格的に、やばいのでは。
「和沙」
食事中に席を立つのはマナー違反だが、今回に限っては緊急事態のため目を瞑る。
かちゃり、と音を立てて食器を置き、席を立つ。椅子で床を擦る大きな音がしたためか、和紗がようやっとテオバルトの方を見た。
その瞳が、若干潤んでいるように見えるのは、心配のし過ぎだろうか。
「何、どうしたの。ご飯おいしくなかった?」
「いや、今日もおいしかったよ。そうじゃなくてな」
洗い物を切り上げて手を拭う和紗の腰をかすめるようにシンクの淵に片手を置く。さりげなく片側の逃げ道を塞いで、テオバルトは愛する妻に慈愛たっぷりの笑顔を向けた。
「料理の味付け変えた? なんだかいつもと違う気がしてな」
「え」
そういえば、和紗は目に見えてうろたえた。
テオバルトの笑みが深まる。
「え、いや、その……。あ、そう、うんそうだよちょっと味付け変えてみたんだよねもしかして気に入らなかったかな大丈夫次からいつも通りの味に戻すから心配しないで」
「うん、大丈夫、和紗の料理ならなんだっておいしいんだけどね_」
しどろもどろになりながら、かと思えばいやに饒舌に、言い訳を口にする和紗。対するテオバルトは内心がいまいち読み取れない笑みを浮かべ、徐々に徐々に和紗へと迫っている。
にこやかな笑みを浮かべて自分へと迫ってくる夫に、不穏な空気を察した和紗とにかく距離を取ろうとじりじりと後退った。
そして、その背中が壁へと触れる。おまけに、夫の両腕が、和紗を閉じ込めるかのように壁へと当てられた。
なるほど、壁ドン。
和紗は悟った。逃げられない。
「和紗」
「ひゃい」
あ、これは怒ってる。にっこり笑って己の名を呼ぶテオバルトに、和紗は冷や汗が止まらない。
「風邪ひいた?」
「い、いや、」
「風邪引いてるよね?」
「そ、そんなこと……」
「熱、あるよね?」
「な、ないよ! 熱ないよ!!」
思わず叫んだ和紗のおでこに、テオバルトのおでこがそっと当てられた。
あ、ひんやりして気持ちいい。混乱気味の和紗は現実逃避気味にそんなことを思った。
「……やっぱり。熱あるじゃねーか」
呆れを含んだ夫の声は、それでもどこまでもやさしかった。
息が触れるほど近くにある妻の顔は、熱が上がったのか真っ赤になっていた。
「で、でも大丈夫だから! ほら、咳とかも出てないし!」
元気をアピールするかのようにブンブンと両手を上下させる和紗。なんだそれかわいいな、とテオバルトは思ったが、絆されてはならぬと内心で表情を引き締める。
「料理の味もわかんないんだろ。大丈夫じゃない」
「うっ」
ちょっとだけ語感を強めてそういえば、和紗はひるんだように眉根を下げた。熱が上がっているのか、若干涙目になっている。
なんだこれかわいいな、とテオバルトは思ったが、体調不良の妻に無体を働くわけにはいかないので理性を総動員させて表情筋を固定した。
「……あたし、別に風邪とかひいてないし」
「はいはい、そういうことにしておくよ」
「健康体だし」
「ほほう。健康なのか」
「ぐぬ……」
どこまでも強情な妻は、決して自分が風邪だと認めたがらない。どうせ、テオバルトに迷惑をかけたくないとか心配させたくないとか、そんなくだらないことを考えているのだろう。
まぁ、そんなことはお見通しなテオバルトは、自分の言い分が通らなくてぐぬぬ顔をしている妻を眼福に思いながら見つめているのだが。まさに暖簾に腕押し糠に釘。
「でも俺が心配だから」
そして、テオバルトはついに強硬手段に出た。
具体的には、和紗を横抱きにした。俗にいう『お姫様抱っこ』である。
「はへゃ……?!」
急にそんなことをされた和紗はたまったものではない。
あまりにスマートに横抱きされたため拒否する隙もなく。暴れようにも意外としっかり抱きすくめられていてろくに身動きが取れず。抱き上げられたことでテオバルトよりも視線が上になったため夫の端正な顔と肉体を一気に視界に入れることになり。
結論として、和紗の脳は許容量を超えてオーバーヒートした。
「……!!」
ぷしゅう、と頭から煙を立ち上らせんばかりに赤面して固まる和紗。
そんないっぱいいっぱいな様子の妻を、夫たるテオバルトは微笑ましいような心地で見つめ、危なげなく寝室へと向かう。
「いいから寝てな。俺のことは気にするな」
ベッドに和紗を下ろし、優しく寝かせて頭を撫でるテオバルト。
そこでようやく再起動を果たした和紗が申し訳なさそうな顔をする。
「でも……」
「でももだってもない」
「私なら大丈夫って言ってんのに……」
「俺が大丈夫じゃないの」
口では強がりながらも、不調には勝てないのか、和紗はテオバルトに為されるがまま。
額に当てられた手に気持ちよさそうに眼を細める様が愛らしく、テオバルトはなんだかいたたまれない心地になる。
「ほら、体温計。これ以上悪化するようなら病院行くぞ」
「えぇ……」
「そんな顔しねーの」
誤魔化すように体温計を手渡して、テオバルトは不満げな和紗の頭をポンと撫でて立ち上がった。
「なんか食べたのか?」
「んーん。食欲なくて……」
「わかった。なんか軽いもん作っから、それ食べて薬飲めよ。そんで寝てろ」
不満げながら、大人しくておバルトの言うとおりおとなしく体温計をくわえる和紗。しっかりと布団をかぶっているところを見ると、悪寒がするのかもしれない。もし寒がるようならもう1枚毛布を出そう、などと考えながら、テオバルトは部屋を出る。
さて、いつもよりちょっぴり甘えたな妻に何をしてやろうか。
風邪が治るまでは自重することなく存分に甘やかすつもりのテオバルトは、手始めにりんごでも摩り下ろそうと、にやける口元を片手で隠しながら、台所へと向かうのだった。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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副発注者(最大10名)
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クリエイター:-
商品:パーティノベル
納品日:2018/12/25 10:33