※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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飽くなき興味は世界を動かす
似て非なるもう一つの世界。そんな近くて遠い存在に興味を惹かれない者などいるのだろうか。
ふと気が付くと、瞼越しにかすかな光がちらついている。目を開ければ作業の為に使っていた灯りになる水晶球がルトガーの腕辺りで動き続けていた。とりあえずその動きを止めて光を消し、欠伸をしつつ上体を起こす。寝起きの冴えない頭でも机の状況を見ればすぐに、作業途中で寝入ってしまった事が分かる。ルトガーにとって特別珍しくない光景だ。一度何かをやり始め、それが軌道に乗り出すと楽しくなってついつい時間の経過を忘れてしまう。夜にやり出して、一旦小休止を挟もうと立ち上がって窓の外を見たら空が明らんでいた、なんて事も度々ある。食事を摂っていないと空腹を通り越して最早何も食べる気がしなくなるが、自分の分だけ作って食べるのも面倒で軽食すら用意しない始末だ。以前交際していた女達にもその事はよく呆れられていて、共に過ごす時間がそれなりに長くなると大抵の女は面倒臭がって手料理を作ってくれなくなった憶えがある。
今机の上に広がっているのはルトガーの本職である機導術を用いたもの、機導装置の一種である魔導機械――の作りかけだ。もっとも、一般人には扱えない為定義上そうなるだけで、完成した場合の用途としてはインフラストラクチャー、より具体的に言うなら、転移門を発展させたものとなる。
(リアルブルーへの転移……今はまだ夢物語だな)
依頼を完遂して自宅へと帰る道すがら、不意に思いついたので急いで家中の機械用パーツを引っ張り出し、頭の中で組み上がった構造を思い浮かべながら作業し始めたのは、一体何時間前の話か。もしかしたら二桁まで乗っているかもしれない。外を見れば夜も随分更けている。ともあれ、ルトガーがスイッチが切れるように眠ってしまう前には、現在発見されているアーティファクトですら実現出来ていないリアルブルーへの転移を目的とした機械を組んでいた。
気になったら何でも試してみる性質を持つルトガーだが、歪虚と戦う際にも主として用いているように機導術を専門分野としている。そして、現代における機導術の基礎はリアルブルーから来た人間が作ったとされている事は、機導師なら誰もが知っている常識で。ならば発祥であるリアルブルーについて興味を持つのは当然といえるだろう。転移者の多くが覚醒者でもあり、ハンターとなって生計を立てる。だから、ルトガーも同じ道を選んで彼らとの接触を試みた。自分の目で見るのがベストだが資料を調べるよりずっと有意義な情報が得られたと思う。
そうして関心を抱いたのがリアルブルーへの転移だ。元よりその発想はあったが、こちらの世界よりは幾らか平穏らしい場所から飛ばされてきて、帰る事を願う者も多いと知って。彼らの為と大義名分を掲げるつもりはないが、挑戦するのも面白そうだなと感じた。
しかし、数多の機導師が試す以前に投げ出すだけあって一進一退、ルトガーの思うようには進まない。この魔導機械も残骸のような物だ。後で再利用出来る部品だけ回収し残りは処分しなければならない。既に同様の不要品が部屋の隅で山を築いていた。一体どれほどの損失になったのか。おそらく昨日――の筈の報酬もすぐに溶けて無くなりそうだ。ルトガーの興味は衣食住からスポーツに芸術まで留まるところを知らない。
立ち上がって姿勢のせいで固くなった体をほぐすと、財布の中身を確認し部屋を出た。勿論髪型を整えるのも忘れない。空腹を通り過ぎていても食べないとどうしても堪える。趣味を満喫する為にも体は大事な資本だ。
運動がてら食べ歩きでも、とも考えたが酒を呑みたくなったので馴染みの酒場へと向かう。扉を開ければ近くにいた店員が振り返った。
「ルトガーさん、いらっしゃいませ!」
何年か勤めているが、年若く可愛らしい女性だ。笑顔で元気に挨拶するとそのまま注文を訊いてきたのでルトガーもメニューを確認せずに答える。度数の高い酒も好きだが樽ジョッキにビールを注いで呑む事が多い。つまみはその時の気分で選ぶので難色を示されても押し通した結果、失敗する事も時々ある。今回は腹にたまる物をと肉料理を選んだ。
「おーいルトガー、こっちだ」
「ああ、今行く」
常連客と同席し他愛ない話をしながら届くのを待つ。身だしなみを整えても知り合いには何をしていたか筒抜けだ。世話をしてくれる女房がどうこうと相手が言い出したところで先程の店員がルトガーの注文を持ってきた。
「ルトガーさん、独身なんですか?」
「ん? ああ……」
話が漏れ聞こえたらしく質問され、答えようとして。皿を置くため頭を下げた女性の頬に水が跳ねているのに気付いて手で拭う。狭い視界に映る彼女の顔がじわりと赤くなり。そしてビールと料理を置くと話を打ち切って行ってしまった。常連客の声が耳に入る。
「全く、罪な男だなぁ」
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1847/ルトガー・レイヴンルフト/男性/50/機導師(アルケミスト)】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
職業と台詞、ハンターになった経緯を見てこういうのもアリかなあ、
と思い、リアルブルーへの転移も興味の一つとして挙げてみました。
芸術家肌ですが、結構研究者寄りになってしまったかもしれません。
女性遍歴が多いとのことですが恋愛には余り興味がないっぽいので
ちょっと天然女たらしな感じも目指してみましたが字数が息をせず。
渋くて格好いいのに気さくで話しやすいのは色々とずるいですよね。
今回は本当にありがとうございました!