※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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【Parousia】
――ねぇ、エアさん。
もしも、出会う形が違っていたら、俺とエアさんの関係も変わっていたのかな?
それぞれの立場やまわりの環境が違っていたら、世界のどこかですれ違うだけの他人で終わってた?
それどころか、互いの温もりを知る事すらなく、出会う機会すらなかったら。
もしも……もし、も。
それでも――。
○
●邂逅
泣き声が、聞こえた。
蒼く広がる天蓋と荒涼とした原野の狭間で、家族と家路を探して泣く声は、まだ幼い。
こんな場所に、親とはぐれた迷子が……と一瞬いぶかしんでみるも、すぐにその思考を修正する。
ここは自由都市同盟ではなく、北方の辺境なのだ。
道なき道を外れ、声を辿りながら周囲を見回す間に泣く声のトーンは上がり、恐怖に引きつった悲鳴となって、途切れた。
明確となった方向へ駆け出し、素早く手の内で符を繰る。
岩の上で跳ねる影を見つけた瞬間、それを放った。
まるで描かれた花の絵から散り乱れたように、花吹雪が影を覆う。
視界を失った影は、岩より転げ落ちた。
すかさず投じた次の符が光跡を引き、影を撃つ。
相手が体勢を整える前に、追撃を……と岩陰へ回りこんだ、その時。
「ハ……ァァッ!!」
渾身の気迫を込め、長柄の槌が振り抜かれた。
容赦なく肉と骨が圧壊される鈍い音に、思わず眉根を寄せ。
そんな『異邦人』を、きろりと鋭い眼が睨んだ。
……自分を捉えた一瞬、青みを帯びた灰色の瞳が僅かに見開かれたのは気のせいか。
すぐに水濡れた白い衣の男は視線をそらし、盾を置いて倒れた子供の傍らへ膝をついた。
「あの、怪我は……?」
「大丈夫だ」
返事と同時に子供の身体は淡く柔らかな光に包まれ、浅い呼吸も落ち着いていく。
だが気を抜く暇もなく、視界の隅で別の影が踊り。
即座にスカートの裾を翻し、狙いを定めぬまま矢を射た。
けん制の一矢に、山犬のような雑魔は更なる反撃を警戒して距離を取る。
その間に、まだ意識の戻らない子供を男が背に担ぎ上げた。
「ついてこい」
槌と盾を握り直すと、肩越しに短い言葉を投げる。
油断なく雑魔の出方を窺いながら急いで羽織りを脱ぎ、無防備な背中へかけても相手は何も言わず。
追いすがる雑魔を弓で退け、正面から飛びかかってくる相手は男が盾で跳ね除け、ひたすら二人は野を駆けた。
程なくして、行く手に武装した者達の姿が見え。
二人を確認するやいなや、口々に雄々しい叫びを上げ、武器を掲げて突っ込んできた。
一団は二人の脇を通り過ぎ、追いかけてきた歪虚を次々と屠っていく。
「やれやれ、これでひと安心だな」
「あ、れ……ここ?」
朦朧とした声に初めて男は表情に安堵の色を浮かべ、やれやれといった態で子供を背中から降ろした。
「痛いところは、ないかね」
「うん、ありがとう。えっと……お姉ちゃんも、ありがとう」
子供は二人へ礼を言うと、兄弟らしき少年の元へ走って行く。
心配でたまらなかったのだろう。駆け寄った先の少年は驚き、とっさにはぐれた事を叱ってから、感極まって子供の頭をくしゃくしゃに撫でた。
「さて。恩人にはすまないが、少しばかり待っていてもらえるかね」
無造作に羽織を返す男の眼は、仲間と思しき戦士達の動向を追っていた。
「私も……手伝って、いいかな」
「それは心強い申し出だが、いいのかね? ……えぇと」
羽織を受け取りながら聞けば逆に問い返され、こくりと頷く。
「九条子規、です。子規で」
「エアルドフリスだ、よろしく」
短い自己紹介を交わした後は雑談する余裕もなく、先頭に立つ部族の戦士達を無心で援護する。
なんとか歪虚の群れを撃退し、人心地ついたところで脇から水袋が差し出された。
「今日は、本当に助かったよ」
「いえ。少しでも力になれたなら、よかった」
労う言葉に軽く頭を下げてから水で口唇を湿らせ、喉を潤す。
その間、ずっと黙っていた男は、落ち着いたのを見計らって切り出した。
「急ぎの旅なのかね? そうでなければ、せめて一夜の宿を提供するくらいは申し出たいんだが……村の子を助けてもらった礼も兼ねてね」
尋ねる瞳はいつの間にか灰一色に変わり、白い衣も乾いている。僅かな変化に気を取られながら、緩やかに首を横に振り。
「とんでもない。そちらに不都合がなければ、逆にこちらからお願いしたいところ、です」
即答すれば、それまで纏っていた厳めしい雰囲気がふっと和らぐ。
「それじゃあ改めて。ようこそ、客人」
――それが魔術師協会に身を置く符術師の九条子規(ka0410)と、滅びに瀕した部族の巫女たるエアルドフリス(ka1856)の出会いだった。
●流れ往き、巡りて結ぶは
暮れる陽に急かされるように辿り着いたのは、連なる山々とそこから流れ下る川の恩恵を受け、緑に抱かれた集落だ。
村を守っていた者達は歪虚との戦いから戻ってきた戦士達の無事を喜び、恩人でもある旅人の来訪を歓迎した。
「ああ、ちょうど良かった。少し、頼まれてもらえるかしら?」
それとないフリをしているが彼を探していたのか、エアルドフリスと目が合った中年の女性がほっとした顔で話しかけてきた。
「もしよければ、お客人に……旅の途中なら、着替えも不自由すると思うから」
その手には、丁寧にたたまれた部族の衣装。
女性らしい気遣い、というか。お節介に甘えるか否かは本人の意思だと、頭の中で片付けておく。
「分かった、渡しておく」
了解すると、ほっとした顔で相手は後を託した。
いつの間にか客人の世話をする役にはめられているのは、単に自分が部族の出自ではないからかもしれないが。
「“外の者”は“外の者”同士……か」
それについて、特に異論がある訳ではない。
小さい頃に彷徨っていた自分を拾われた恩も、ある。
「まぁ、ちょうどいい」
その扱いが、今は逆に有難かった。
小さな集落の外、辺境の外から来た客人と話し込んでも、何もおかしくない。
「失礼する」
「えっ、ちょ、待……っ」
一声かけて客人の部屋に入ると、焦った表情で子規が固まっていた。
ちょうど着替えようとしていたのか、美しい羽織がたたんで置かれ、上着を脱ぎかけ……。
「……おや?」
予想以上に華奢というか、あると思っていたモノがナイ事に目を瞬かせ。
「ああ。男、だったのか」
知らずと口からこぼれた呟きに、赤かった子規の顔がますます紅潮する。
それまで、変化に乏しかった表情の変わりように、何故かエアルドフリスは感銘を覚えた。
「いや、勝手に勘違いして、すまない。しかし男同士なら、遠慮も不要という訳だ。村の女から着替えを預かってね……女物なんだが。交換してくるかね?」
ふるふると、首が小さく横に振られる。
「せっかく、用意してもらって……悪い、から……」
「そうか。もしお邪魔なら、すぐにここから出るが」
黙ったまま、再び否定の仕草。
その反応と所作は実に女性らしく、子供や村の女達も間違う筈だと妙に納得する。
単に異性装が趣味という部類ではなく、もしかすると複雑な理由があるのかもしれない。
「着方が分からなければ、聞いてくれ。何故知っているかは、愚問だがね」
軽く冗談めかせば、くすりと小さく笑う気配がした。
「そうか……魔術師協会から、魔術研究の為にわざわざ辺境まで」
「はい。それで、もしよければ辺境に伝わる術の研究も兼ねて、しばらくここに滞在できないかと思って」
着替えながら他愛もない話をしている間に、いくらか子規は打ち解けたらしい。
旅の目的を明かし、エアルドフリスに相談を持ちかけた。
「残念ながら、俺の一存では決めかねる事だね。族長に進言はしてみるが」
「助かります。でもエアルドフリスさんの立場が、悪くなるなら……」
あくまでも子規は相手を気遣い、エアルドフリスが困った風に癖のある髪を掻く。
「その、名前は適当に、短く呼んでくれても構わないから」
「じゃあ……エア、さん?」
また、随分と思い切って短くなったもんだと笑いながら頷けば、子規も笑みを返した。
「私の事も、子規でいいよ」
「では、子規。そろそろ宴の席が整う頃だ。良ければ、出席してもらえるかね」
「喜んで」
その夜、客人を歓待するささやかな宴の席で、子規は老いた族長からしばらく村に滞在する事を許された。
礼儀を損なわない程度に宴の列に混ざった後、民族衣装に身を包んだ子規は旅の疲れを理由に席を外した。
戻る途中、宴の熱気を冷ましたくて水の流れる音を辿ると、『先客』らしき灯かりが一つ。
「……エアさん?」
「おや、子規も酔い覚ましかね?」
位を示す額冠を外したエアルドフリスは、いくらか砕けた雰囲気で言葉を返す。
「うん。滞在の件、ありがとう」
「それは、子規が子供を歪虚から助けてくれたからだ。感謝すべきは、こちらだよ」
緩く頭を振った子規は、すとんと巫女の隣に腰を降ろした。
「エアさんからも、いろいろ教えて欲しいな」
「術かね? あんたの御眼鏡に叶うかは、分からないが」
符を操る術は、エアルドフリスから見ても見事だったと思い返す。
そんな彼に、自分が何を教える事が出来るだろうか?
「私の力で、少しでも……エアさんが守りたいと思っているものを、守る手伝いが出来たら。滞在と術を教えてもらうお礼は、それくらいしか出来ないけど」
「礼なら。俺はもっと、あんたの話を聞きたいがね」
「私の話?」
「住んでいる町や、人の話を。辺境とは違う世界の事を……内緒で、な」
「内緒だね、わかった」
神妙な表情で、子規は頷いた。
それから二人は、他愛もない話に花を咲かせた。
それこそ、途切れる事のない川の流れの様に。
会ってまだ間もない、ほとんど互いの事を知らないにもかかわらず、交わす言葉は尽きず。
いつになく喋る自分に子規自身は少し戸惑い、宴の余韻のせいだろうとエアルドフリスがもっともらしく嘯く。
ひとしきり話をして途切れた頃、思案の末に子規が口を開いた。
「一つ、聞いていいかな」
「うん?」
「最初に……私を見た時、驚いてなかった? 辺境の人間じゃなかったから?」
「あれは……」
不意の問いと、僅かな動揺を気付かれていた事に内心で舌を巻きながら。
「綺麗だと、思ったからだ」
記憶を辿るように、エアルドフリスは目を伏せる。
幻の花吹雪に、そこから抜け出したような――背に幻影の蝶の翅を広げ、香しい花の香をまとった姿。
「それが男か女かなんて……考える気も、起きなかった」
「……そっか」
照れたのか、小さく俯きがちに子規が答える。
ほのかに微笑んだ横顔は確かに現実で、綺麗だと――エアルドフリスは、思った。
○
――それでも。
たぶん、きっと、俺はジュードを見つけ出すだろう。
それこそ精霊の思し召しだと、思わないかね?
たとえ姿形が違っても、名が変わっていても。
……その魂に、惹かれて――
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【PCID / 名前 / 性別 / 外見年齢 / 種族 / クラス】
【ka0410/九条子規(=ジュード・エアハート)/男性/18歳/人間(クリムゾンウェスト)/符術師(カードマスター)】
【ka1856/エアルドフリス/男性/27歳/人間(クリムゾンウェスト)/聖導士(クルセイダー)】
副発注者(最大10名)
- エアルドフリス(ka1856)