※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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自分を見つめ直す方法
穏やかな空間に、しかし一方的に居心地の悪い沈黙が続く。
蜜柑を剥きながら泰然とした姿勢を崩さないアルヴィンと、どうも歯切れの悪いエアルドフリス。
蜜柑を一つ完食するまでそんな時間が続き、片付けをしたアルヴィンは「出かけようか」と一方的に切り出した。
…………。
言うまでもなく、エアにとってアルヴィンとの相性はそこまで良くない。
まず前提として女性ではない。
更に距離感も本心も掴みにくい人種であり、人懐っこい分ふとした瞬間に懐に入り込んで来そうで、エアとしては態度を決めにくい部分がある。
油断すると弱さに踏み込まれそうで、気が抜けない。仮にも仲間であるため悪いようにはされないだろうが、エアとて些細なプライドくらいはあった。
彼はエアの恋人と仲が良かった。
無論変な勘ぐりをしている訳ではない、恋人はエアに対して十分過ぎるくらいに愛情を示しているのだから、そういう勘ぐりをするはずもない。
だが、二人で出かけてた時の話とか、少しは気になりもする。
そう――有り体に言えば、エアは『恋人の様子はどうか』聞きたいだけなのだ。
しかしそういう事を詮索する事自体女々しいのではないのかという思いもあり――結局何も切り出せないまま、一方的な気まずさを味わっていた。
自分の不甲斐なさは重々承知している。
迷う事は数知れず、決断力も思い切りも足りていない。
これでいいのかという自信が足りなくて、ひいては自分でいいのかと疑いすら持ってしまう。
……ああ、口にしたら間違いなく怒られるとも。だからずっと抱えているしかなくて、迷いの中歩き続けるしかなかった。
そんな後ろ向きな黙り込みをしていると、アルヴィンから出かけようという申し出が飛んでくる。
正直意味がわからないが、来るヨネ? みたいな問いかけをされたから、特に断る理由もないとエアは頷いていた。
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アジトから出て、ハンターオフィスへの通りを歩く。
道辺の落ち葉は大分色あせていて、冬の到来を感じさせる。エアの心情に反して、天候は至って良好。日差しは多少暖かくすらあり、人間に構う事なく巡る世界は、エアの思考を暖かくほぐしてくれる。
これが気分転換の散歩だとしたら、アルヴィンは相当センスがいいと言わざるを得ない。何も言わず、何も踏み込まず、傷に触れる事ないまま、自然の癒やしに任せている。
こんな簡単に、とも思うが、有効であり、有り難い優しさすら感じるのは確かなのだ。
そうして何も喋る事ないまま、二人はハンターオフィスに到着していた。
…………。
「ジャア、テキトウに見てみようカ」
アルヴィンが向かったのはメインの依頼板ではない、報告書が作られないような、些細な依頼を集めた方のボードだ。
歯ごたえのある依頼はあまりないが、お小遣い稼ぎには出来る。
どれが受けられそう? って尋ねられたから、一応質問には答えるべきだろうと、エアは反射的に依頼ボードを検分していた。
些細なものであるにせよ、掲載されてる依頼は「多少自衛能力がある方が望ましい」ものが多い。
たとえば街から離れた場所での材料採集、重要なものの配達、時には専門技能を問うものもある。
「薬草採集……ああ、これ日持ちが効かないから、使う度に採ってくる必要があるんだよな……」
周囲を警戒する人と、薬草を採る人の二人で足りる程度の依頼だ。
とは言え、薬草を見分けて扱う知識は必要だから、ある意味専門性を問うものではあるかもしれない。
その辺を見繕って答えると、じゃあこれ受けて来ていい? とカウンターに持っていく分を見せられた。
「受けるのか?」
「ルールーがイナイと僕じゃ出来ないヨ?」
……そういう言い方はずるいと思う。おだてられているのか、と考えたが、そこを反抗する気力も余りなかった。
自分に不都合がある訳でもない、言ってしまえば沈んでいた精神には断る方が面倒で、アルヴィンと共にその依頼を受けるのを了承していた。
気分は気分、依頼は依頼である。
エアは最低限その辺の切り替えくらいは大人として出来ていた。
採集に向かうポイントを見繕い、危険度と、必要な道具などの準備と相談を進めていく。
戦闘になる可能性は、おそらく低い。ただ皆無ではないから、採集してるところを襲われないように、一人は周囲に気を向ける必要がある、後荷物持ち。
その辺を説明するとアルヴィンは聞き入れた上で全部了承してくれた、この依頼はルールーが必要だから、と。
「何か企んでるのか?」
「ウウン、そういう訳じゃナイヨ」
こうしてルールーとお仕事したかっただけ、とアルヴィンは言う。
道中ゆっくりお話しようか、と微笑む彼は、やっぱり何か企んでるようにしか思えなかった。
+
幾つかの移動手段を経由し、現地に足を踏み入れる。
場所は沼に近しい湿地、日持ちが効かないだけではなく、栽培の条件も見つかってないような代物で、希少な訳ではないが現物にはそれなりの値がついている。
アルヴィンに自前で用意した現物の写真を見せると、少し驚きを見せていた。
「写真、あるンダネ」
「あった方が便利だろ」
薬師であり、その手の材料を扱う以上、資料として写真はあった方が利便性も確実度もあがる。
昔は特徴を記したメモだけだったが、言葉である以上齟齬の心配はどうしてもあった。……正しく言うと、誰かに説明をする時に、この伝え方で本当に大丈夫なのか? と自分で心配になったために用意したものだ。
助手を取らなかったら一生記憶とメモだけで済ませてしまっていたかもしれない。
自分は頭に入っているからなくても問題ない、依頼の間は貸しておくと写真を持たせて、二人は湿地の中に入っていった。
黙々と採集を進めていく、採るのはエアで、アルヴィンはエアが採ったものを籠に詰めて行く係だ。
しゃがむ必要がある以上エアにとっては隙も大きい、横に立って警戒するのもアルヴィンの役目になる。
やる事が明確な依頼は、余計な気を回さなくていいから楽でいい。
気が紛れると言うのだろうか、気がつけば、話を切り出そうとしていた時に悩んでいた無力感は、大分薄れていた。
「なぁ」
「ウン」
なんでも聞いていいよ、みたいなアルヴィンの態度。
こいつはどこまで計算していたのだろうか、踊らされたようでやっぱり苦手意識は拭えないけど、今はもう腹を決められる気がする。
「あいつは……どうだった?」
「ルールーを待ってたヨ」
僕から言えるのはここまで、そう言ってアルヴィンは微笑んで口を噤む。
だってあの子とのお話タイムを僕が取る訳には行かないから、と。
「そうか……」
「思うんダケドネ」
時にはイベントがなくとも彼をデートに誘ってはどうかとアルヴィンは言う。
イベントがあったら当然好きな人と一緒に行きたくなるものだけど、そうじゃなくても一緒にいたい、と示すことはまた独自の特別さを持つのではないかと。
「僕はミンナとデートしてるカラ、ミンナと仲良しダヨ☆」
アルヴィンの言い分にエアは思わず苦笑する。
仲良しかどうかはわからない、でも彼は確かにその行動力で自分の意志を相手に伝えている。
相手に好意を持っていて、尽力したいって思っている事。寄り添い、伝え、それを示す事だけが、なんとも得難い。
「この仕事に誘ったのは、慰めか?」
「違うヨ、僕ハ本心カラ、ルールーのコトを頼りにしてイル」
でも、きっとエアが迷い、落ち込んで、気弱になっている事には気がついていた。
失敗し、迷い、助けてもらって。
それは決して悪い事ではないけど、それが続くと辛いと思ったから、ルールーはそうじゃない、って思い出して欲しかっただけ。
そうか、とエアは息を吐いて言葉を受け止める、アルヴィンの言葉には嘘がなかったから、少し染みたけど、抱え込むことは出来た。
どこまで計算してた? と問うと、何一つ、と言って彼は首を横に振る。
「ただ、ヨリ良い方向にありますヨウニと願ったダケ」
この言動通り、何も考えていないとも、とアルヴィンは自慢にもならない事を堂々と宣言して微笑んだ。
滑稽で、馬鹿馬鹿しくて、いっそ笑えてくる。
その重すぎない気遣いがとても有り難い、いい仲間だな、と本心から思う事が出来ていた。
立ち上がり、籠の中から採った量を検分する、目標には十分足りている、そう判断した。
「帰るぞ、採りすぎると後で困る代物だからな」
アルヴィンを背に、帰り道を先導する。
「まぁ、その、なんだ」
頼ってくれて嬉しかった、そういった事を背中を向けたまま告げた。
彼の顔は見えない、お互い様だ。でもきっと穏やかに、少しの茶目っ気を混ぜて微笑んでくれている事は予想がつく。
「お疲れ様、コノ依頼はルールーがイテくれたお陰で成功出来た」
「……お前もだよ、見張りと荷物持ちご苦労さん」
それ以上の事もしてもらったけど、その話は、いつか酒の肴に。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2378/アルヴィン = オールドリッチ/男性/26/聖導士(クルセイダー)】
【ka1856/エアルドフリス/男性/30/魔術師(マギステル)】
副発注者(最大10名)
- エアルドフリス(ka1856)