※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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■悪い奴ほど、よく喋る
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「いやー、今年の祭も盛況に終わったのはアンタ達一座のお陰だ。アンタとの商売は楽しかったよ」
「こちらこそ稼がせてもらって、感謝してるさ。次の祭でも御贔屓に」
「もちろん。また来年な」
広場で町長と旅芸人の座長は握手を交わし、再会の約束をして別れを告げる。
座長が御者台に上がるのを待って、大きな屋根付きの荷馬車はガラガラと動き始めた。
女達は立ち話を中断し、子供らも馬車の後を追いかけ、一座の面々が見送る人々へ手を振る。
その光景を、身なりの良くない二人の男が広場の片隅から眺めていた。
「聞いたか。連中、たんまり稼いだそうだぜ」
「ヒヒッ。そいつぁ、おこぼれを頂戴しねぇとなぁ。踊り子も、いい女だったしよぉ」
小声の連れに、下卑た笑いを浮かべた男が舌なめずりをする。
すると連れの男は近くの果物籠へ手を伸ばし、積んだザクロを一つ掴むと笑う男へ放り投げた。
「そいつはボスが決める事だ。てめぇはソレでも齧ってろ」
そして売り子へ硬貨を投げ寄こし、一座とは逆方向へ歩き出す。
忌々しげに男は舌打ちし、ザクロをむしって口に放り込みながら後を追った。
「毎度~」
果物籠の間で座る売り子が小さく礼を言い、ザクロの代金を売上金の壺に納める。
それから立ち上がり、大きく伸びをした。
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街道から外れた林で、一座は野営を張った。
旅芸人達は早々に馬車の中で眠りにつき、火の番をする二人の男も疲れからかコックリコックリと舟を漕ぐ。
その時、小さな火の玉が幾つも飛来し。
ガ、ガンッ!
次々と荷馬車の壁へ突き立つ音に、驚いて火の番が飛び起きた。
「とっ、盗賊だー!」
「女子供を先に逃がせ!」
襲撃を知らせる足元へ、また火のついた矢が刺さった。
旅芸人は次々と馬車を降り、火矢の逆側へ避難する。
だが逃げた先、林の奥から男や女の悲鳴が響いた。
「ヒヒッ。ババァは構わねぇが、若い女は生かして……げぶっ!?」
弓を手に笑う男が、前触れもなく喉と口からゴボゴボと血を吹いて崩れ落ちる。
予期せぬ事態に、盗賊達は襲撃者へ目を剥いた。
「何モンだ!」
「ああ……つい手が滑ったせいで、見つかってしもた」
おどけた風を装う口調だが悪びれる様子はなく、ただ淡々と。
「誰だっつってるだろーが!」
「名乗る程のモンでもないし、聞いたかて意味ないやろ」
つがえる矢を緑の瞳が見据え、青白い刀身の直剣を軽く握り直す。
「おい、火が消えたぞ。何やってんだ」
野営地から少し離れた場所で、四人の部下を従えた盗賊の首領はイライラしていた。
一人が持つランタンには布が掛けられ、僅かに光が漏れている。
「見てきます、ボス!」
慌てて様子を窺いに行った男は、そのまま戻ってこなかった。
「旅芸人ども、護衛でも雇ったのか?」
「そんな報告は届いてねぇぜ」
残った者達が、ぼそぼそと情報を確かめ合う。
「何にしても、ヘマをやった事に変わりない。今日は引くぞ」
「見捨てるんで?」
「自分のケツは自分で拭けって話だ」
「そりゃ、ごもっとも。けど、こっちは困るんや」
「貴様ッ」
「いつの間に!」
音もなく接近した影は一人の首に腕を回し、盾代わりに拘束していた。
……だが。
ゾプンッ!
身構える部下が動くより先に、首領は大剣を『人質』へ振り下ろす。
「ボ、ス……」
呆然としたまま、盾にされた部下は絶命し。
まとめて斬り殺すつもりだった襲撃者の姿は、ない。
「酷いなぁ。仲間と違うんか」
「ほざけ!」
ブンッと、声の方向へ風が唸った。
僅かな光に映る刃の軌跡をすり抜け、飄々とした襲撃者は間合いを詰め。
刃は身を裂くが、致命傷には遠い。
余裕の笑いを浮かべた首領だが、やがて顔色が土気色に変色し。
「お、ぁ……毒……ッ」
のたうち、胸を掻きむしった末に動かなくなった。
どこか空虚に見下ろすラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)は、首領の死に様に言葉を失った生き残りへ目をやり。
「諦めて、投降せぇへんか。後追いは嫌やろ」
そう、促した。
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「本当に有難うございました」
「お陰で命拾いしたよ!」
「いや、ソサエティにキャラバン狙いの盗賊団を退治せぇって依頼が出てただけやから」
口々に感謝する旅芸人達に、ラィルは苦笑を返した。
「助けられた事に変わりないさ。ハンターさんが追っかけて警告してくれなきゃ、どうなっていたか」
「信じて囮をしてもろたお陰で、一網打尽に出来たんや。助けられたんは、こっちやて」
言いながら、ライルが盗賊が使っていたボロ馬車の御者台に登る。
荷台には、旅芸人が縛り上げた盗賊が――生死を問わず――転がっていた。
「せめて礼金くらい……」
「その分、旅先で皆を笑わせたってや」
勿論と座長が自信満々で返し、頷くラィルは手綱を打つ。
町へ戻っていく馬車を、一座は手を振って見送り。
「人を笑顔にすんのは、僕には難しいさかいなぁ……」
寂しげな呟きを聞くのは、遅れて昇った欠け月のみだった。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【PCID / 名前 / 性別 / 外見年齢 / 種族 / クラス】
【ka1929/ラィル・ファーディル・ラァドゥ/男/24/人間(クリムゾンウェスト)/疾影士(ストライダー)】