※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
-
百年越しの
閑散とした林が薄い緑の幕を作り、白いとあるペンションの外で静かにそよいでいる。
ただ住みやすいだけで、特筆するべき点もないこの町に観光客が訪れる事はない。宿こそ一応存在するものの利用する人間は稀で、今もただ一人が長期滞在するのみだった。
『お食事、置いてくね』
かけられた声に振り向くより早く、忙しいのだろう宿の手伝いの子供はぱたぱたと去っていく。
重い体を動かして振り向く事を諦め、アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は再び視線を窓の外へと移した。
この宿に来て何週間経っただろう、宿代は一年分を先払いしているが、……恐らく、それより先に自身の命は尽きる。
アルヴィンはその後を託す分も込みで宿に金を積んでいて、だから宿の人間もアルヴィンがどういう目的で此処にいるかわかっているし、わかって静かにさせてくれる。
緩やかな時間、ただ悪意のない噂話が軽やかに周囲を舞うのみだった。
『あの人、どんな人?』
『貴族のお偉いさんみたい』
『知ってる?』『知る訳ないじゃない』
『毎日、あんな感じで窓の外を眺めて、微笑んでるの』
『そうなんだ』
『あんな顔が出来るような、人生だったのね』
平和を象徴するような優しい声を聞きながら瞼を閉じる、残った僅かな時間の中、暖かな日差しを浴びて微睡みに沈んでいく。
絵画のように眺めていた記憶に色がつく。
仲間の声が、吹き付ける潮風が、差し伸べられる言葉が、……思い返すこの際になって、こんなにも生々しい。
少し騒がしくて、でも居心地は悪くなくて、とても心躍るような。
かつて当事者でありながら他人事のように眺めていた日々が、今は染み入るように感じられた。
100年の間、色んな事があった。やりたい事をやった、伝えたい事を伝えた。
笑いあった。
楽しかった、幸せだった。
皆の事が大好きだった。
……心が動いた、そう、今更のように思って。
『……ねぇ、お母さん』
『ああ……お迎えが来たみたいだね』
待たせたね、僕の大切な人たち。
……話したい事が、いっぱいあるんだ。