※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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届かせたい気持ち
はらりとまた一つ、さして役にも立ちそうにないページを読了送りにする。
知りたい事はそういう話じゃなくて、違う記述を探すために、ソフィア =リリィホルム(ka2383)は次へ次へとページを送っていく。
焦りと苛立ちが募る余り、何度手元の本を読み飛ばしたいと思った事か。でも駄目なのだ、手がかりはただでさえ少ない、些細な糸口でも欲しいのに、読み飛ばすなんて出来るはずもない。
そういう作業を続けてれば集中力散漫になるのも致し方なくて、文字を追う傍ら、ソフィアの思考は物思いに沈んでいった。
…………。
どうすればいい? どうすれば正しい?
焦るのは禁物だとわかっているのに、心のささくれが止められない。
此処で何かしらの方法が見つからないと、愛する娘同然の存在が消えるかもしれなかった。
――この世界に必要なのは自分じゃなくてもう一人。
進んで消えたい訳じゃないけれど、必要だと思ったから、そのために消える事など厭わない。
それが考えた上で出した彼女の結論、彼女の想いなのだと。
それでいい、それがいいと彼女は言うのだ。
認められないと叫ぶソフィアに対して、認めて欲しいと彼女は叫び返した、他の誰でもない、自分が母親だと慕うソフィアにこそ応援して欲しいと。
叱りつけるべきだと思ったのに言葉が出なかった、果たして自分は正しいのか、迷いを振り払う事が出来なかった。
自分の想いは頭ごなしに娘を押さえつけてるだけではないのだろうか、彼女の想いを尊重する事こそが愛情なのか?
わからない、家族に対する接し方など、遥か遠くに置き去りにして来てしまっていたから。
記憶を探ろうとしたら仮面の軋む感覚がする、長らく被りすぎていて、自分が“演じている”事すらとっくに意識しなくなって、この期に及んでようやくその事を思い出したくらいだ。
感覚と共に記憶が蘇ってくる、自分は決していい娘ではなかった。
思いを馳せるなら認めるしかない、自分がそう望んだ訳ではなかったけれど、そうなりたくないって思っていたけれど。
結局ソフィアは両親に数え切れない心労をかけていた。
部屋の片隅から見上げた疲労の濃く滲む顔色。
人目を避けるように俯き、顔を上げられない両親の姿。
枯れ果てた気力で、それでも僅かな想いでソフィアを守ろうとしてくれていた。
自分は彼らに何を想っただろう。
世界には諦めしかなくて、時折思い出したように悔しくて、両親に合わせる顔など、ソフィアにだってなかった。
間際に向けられた謝罪はソフィアに許しを乞うようで、絶望は更に深くなったのを覚えている。
自分が許しを乞われる側なら、自分は誰に許しを乞えばいいのだろう。
想いの深くまで潜って、結局思い知ったのは自分は娘としても出来損ないだったから、出来のいい自分の娘と比べる事なんて出来っこないという事だった。
親としてならもう少し上手く出来るだろうかと考えて、経験がないからわからないと苦笑しか出て来ない。
――私はどういう親になりたい?
味方になりたいとソフィアだって思っている、ソフィアに味方はいなかったから、でもそれは決してこういう、娘の終わりに何も出来ない親でいいはずはなかった。
結婚もしてない、覚悟だって決めた訳じゃない、でもいつしかその存在を娘同然に大切に想うようになっていた。
彼女に出来る事もそれほど考えられていないというのに、娘はもう自分の意志でソフィアの庇護から離れようとしている。
――強くなった、心からそう思う。
その強さを認めてあげたい、褒めてあげたいと思うのに、口からは先に心配の言葉が出てきそうでもどかしい。
一人は直情すぎて、一人は突拍子もない。
正しさが何かもわかっていないまま、ソフィアは親としての決断を迫られていた。
娘の名前を唇で形作る。
――生きていてほしいよ、それ以上の望みなんてどこにもない。
消えることは終わりで、それが幸福に繋がるとはどうしても思えなかった。
(まぁ……娘を想った願いというよりは、私の願いか……)
ソフィアは自己中だ、自分でも認めてるし、その事はそうそう変わったりはしない。
だから、ソフィアが抱く気持ちなんて、最初から一つしかなかったのだ。
ママと呼んでくれた声を思い返す、とても甘美で、暖かくて、ただ頷いてあげられない事を申し訳なく思うけれど、せめて真摯に向き合いたいと思っている。
(私はね、犠牲を決断するのはまだ早すぎるって思うんだよ)
親として、娘にどんな姿を見せればいいのだろう。
でも何か一つを彼女に託すとするなら、この諦めの悪さを選ぶのはきっと悪くないと思っている。
(望む未来が掴めるとは限らないけれど……)
絶望を知っている、でもそれはかつてのソフィアに味方がいなかったからだ。
あの子にはたくさんの味方がいる、だからもう少し足掻いて欲しい、自分が辿ったのとは違う、輝く未来に送り出せるかもしれないから。
(そして願わくは……)
その道行きの側に、もう一人が側にいますように。
誰のほうが大事だとか、どっちが必要とされているとか、そういう話じゃなかった
貴女達はどっちもが唯一無二、そう思う気持ちに、親としての自分が手を届かせられればと思っている。