※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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火竜の息吹
エトファリカ連邦、天目。
それが詩天の三吉から教えられた地域の名前だ。
ハンター稼業を長く続けてきたソフィア =リリィホルム(ka2383)も聞いた事がない。
三吉によれば――。
『オラの師匠が天目出身だったんだぁ。
あそこは良質の鉱石やマテリアルが採取できるだけじゃねぇだ。高い技術とそれを支える炎が重要だって師匠は言ってただ』
三吉の言葉にソフィアは天目へ強い期待を抱いた。
高い技術もそうだがそれ以上に炎、つまり火力に比重を置いていた事だ。
鍛冶をする者にとって使用する素材に加え、それを鍛え上げる火力には気を使う。
鉄を鍛え上げて武具とするが、鍛え上げるのは鍛冶師の腕だけではない。鉄を柔らかくしながら魂を込めていく作業に炎は不可欠。それも高温を維持し続ける事に大きな意味がある。
「分かってるみたいだね」
ソフィアは未だ見ぬ天目を褒めた。
ドワーフ、詩天と鍛冶師を巡る旅だったが、ここに来て未だ他のハンター達も入手していない情報を手にする事になった。
一体、天目の技術とは何か。
ソフィアは一路、天目へと向かった。
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三吉の情報では天目は詩天の北東。
大陸から離れた群島の一つにある。
地図にも載っていない小さな島。だが、その島はかつて海底火山で隆起させた事を想起させるような良質の鉱物資源が採掘されていたという。
鉱物をただ売買するのではなく、それを加工する技術も生まれているとするならばその技術は如何ほどのものか。
ソフィアは期待を胸に船で天目へ上陸するのだが――。
「な、なんだこりゃ……」
ソフィアの前に広がるのは廃墟の山であった。
かつて人が住んでいた事は感じ取れるが、多くの家屋は捨てられて相当の日数が経過している。
廃墟を覗いてみれば鍛冶師に必須の小鎚が捨てられている光景も目の当たりにした。
鍛冶師であるソフィアには分かる。
この廃屋の持ち主は鍛冶師を辞めたのだ。それも逃げるように天目を去っている。
「歪虚から逃げる為? いや、違うね。そうだとしても鍛冶師が道具を捨てていくのは道理に合わない。だったら、何だ……?」
考えを巡らせるソフィア。
しかし、その答えは脳裏に浮かんでこない。
廃墟の中を見回してもそれらしいヒントも見つからない。
話に聞いていた天目の技術は廃れてしまったのだろうか。
「誰じゃ」
ソフィアの背後から掛けられる声。
振り返れば、白髪の老人が立っている。
「お爺さんは?」
「わしはおぬしに何をしておるかと聞いておる。ここは鍛冶師の工房じゃ。勝手に入る事は許さん」
老人は廃墟となったこの場所を工房と言った。
持ち主もいなくなり、工具も放置された状態でも、工房と――。
「工房か。ここは今も火を入れれば命を吹き返すって訳だよね」
「……おぬしは?」
「ソフィア =リリィホルム。こう見えても鍛冶師よ」
ソフィアは名乗る。
ここが工房であるなら、鍛冶師として礼儀を弁える。
鍛冶師が命を賭す場所なら、相応の対応をするべきだからだ。
そんなソフィアをジロリと老人は見回した。
「ついて来い」
老人はそれ以上述べず、黙ってソフィアに同行を求めた。
そして、その行く先で天目の技術の片鱗を目にする事になる。
●
「これは……!」
ソフィアの前にある巨大な工房跡。
既に火は消え、呼吸を止めている工房であるが、ソフィアには分かる。
広さからかなりの鍛冶師がここで鎚を振るっていた事。
それ以上に工房に横たわる大きな窯に目を奪われる。
「たたら製鉄? それだけじゃない。もっと違う技術も盛り込まれてる」
「分かるか。たたらを踏んで空気を送り込むだけではない。マテリアルの力を引き出して火力を一気に引き上げる。かつて『火竜の寝床』と称された天目一の窯だ」
ソフィアには分かる。
これだけの窯があるなら、鉄を鍛え上げる技術もかなり高い事を。
しかし、それ以上に聞かなければならない事がある。
「どうして火を……落としたの?」
ソフィアは、鍛冶師として辛い事を敢えて聞いた。
窯の火を消す事は、鍛冶師を辞めるも同義。
どうしてこうなったのか――。
「天目は歪虚の侵攻を受けた。だが、この侵攻のどさくさで火竜の寝床にあった火竜の息吹が盗まれたのじゃ」
「火竜の息吹?」
「火竜の寝床には火のマテリアルが不可欠じゃが、それはある鉱物性マテリアルを使っておった。火のマテリアルを巨大な結晶とする事で炎を自在に操る。
その結晶こそ、火竜の息吹じゃったが……何者かに盗まれたのじゃ」
老人の言葉でソフィアはその後の展開に察しがついた。
火竜の寝床で火力を維持出来なくなれば、鍛造にも影響が出る。
武具の品質にも安定しない。それは天目の衰退へと繋がる事に。
「そうか……」
「だが、わしは諦めん。ここを必ず復活させる。再び天目の名を東方に知らしめるまでは終わらせぬ」
老人の力強い言葉。
何より、同じ鍛冶師としてこのような自体を見過ごす訳にはいかない。
「探してくるよ。その火竜の息吹。それがあれば、天目は蘇るのよね?」
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2383/ソフィア =リリィホルム/女性/14/機導師(アルケミスト)】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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近藤豊でございます。
この度はノベルの発注ありがとうございます。
ソフィアさんの鍛冶を巡る度ですが、天目で廃墟となった工房を目の当たりにしました。既に火が消えた工房を再び蘇らせるべく、奔走する事になります。
火竜の息吹はどこへ行ったのか。その辺りは……次の機会に描かせて貰えればと思います。おまかせノベルがまた再開した際には、参加ご検討いただければと思います。