※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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「不運も戦闘で運が回ると思えばいいのですね」
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とある昼下がり、エルバッハ・リオンは二着のドレスを机に広げていた。ビキニアーマーだけを纏い、胸を締め付けるように腕を組む。
自宅だから誰も見てはいない。悩ましげな唸り声を上げて、一人つぶやく。
「こうなってしまったのは不運だとしかいいようがありませんが、かなり悩ましい問題なのは間違いないですね」
彼女が広げているドレスは、二着とも戦闘用のドレスである。もし、何事もないのであれば性能の良いドレスを選べばいいだけの話である。
何も、迷うことはないのだ。迷わなければならないのは、彼女にとって重要な問題が発生しているからである。
事件は、朝に起こった。
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「戦いの前は時間がいくらあっても足りませんね。必要なもの、必要な情報……いろいろと揃えないとならないのですから」
戦闘用のドレスを机に広げて、エルは自宅の中を行ったり来たりしていた。
「えーと、あれはどこにおいてましたか。あれもあると少し心強さがあるのですが」
エルはとあるアクセサリーを探していた。クローゼットの中、普段使いの鞄の中、机の中も探してみたが見つからない。
戸棚には無いだろうと思っているものの、椅子を持ってきて上ってみる。戸棚にあるのは保存食の入った箱や、いくつかの瓶……やはり、なさそうだ。
諦めかけて椅子から降りようとした――その時。
「あ」
足が滑り、椅子から落ちそうになる。慌てて戸棚を掴んで耐えようとするが、上に載っている物を落とすだけだった。
「……戦いの前に傷を負ってどうするのです」
ため息混じりに立ち上がったエルは、徐ろに顔をしかめた。
鼻に気になるニオイが届いたのだ。酸っぱ辛い中に、潮の香りが練りこまれたようなニオイだ。このニオイには、思いいたるところがあった。
打ち付けた背中を抑えつつ、立ち上がる。
ニオイのもとを探るべく周囲を見渡し……。
「――っ!?」
エルにしては珍しく、声にならない叫び声をあげた。
机の上に置かれていたドレス、その上に赤茶色の液体とドロッとした物体がぶちまけられていたのだ。エルは慌ててドレスを机の上から引き離し、洗濯場へと運ぶ。
洗剤をこれでもかと入れつつ、必死に洗う。洗剤の匂いが家中に満ちていく。
赤茶色のシミはみるみる落ちていく。何度もすすいで、しっかり乾かせば……。
……それでも、ニオイは落ちなかった。
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「ここまで強烈なニオイだとは思いませんでした。これは誤算ですね」
乾くのを待つ間、エルは片付けに追われた。原因となったビンは、机の下に転がっていた。中身も半分ほど残されている。
手に取れば、例のニオイが強烈な勢いで襲いかかった。
「蓋が緩んでいたようですね……」
物体の正体は、とある地方の珍味である。とある地方……沿岸部であることは確かなのだが、名前すら聞いたことがなかった。
しかも、舌を噛みそうなくらい微妙に言いづらくて長ったらしい地名だった。調べるのも億劫になる地名のため、調べることすらしていない。
では、知らない地方の珍味が家にあるのはなぜか。
「両親には感謝をしていますが、この贈り物には参りましたね。食べれば美味しいのでしょうが、この独特なニオイは困りものです」
受け取ったはいいものの、蓋を開けた時に漂ったニオイに一瞬で封印を決めたのだった。食べれば美味しいのは、同封されていた手紙で知っている。
知っていたとしても、覚悟がいるニオイが世の中に存在しているのだ。
「……さて」
机も綺麗になり、再度乾いたドレスを広げる。その隣には以前纏っていた戦闘用ドレスを広げてみる。
「今回の敵は手強いときいていますから、出来る限り性能のよいものをまといたいですね。それは間違いないですが、このニオイは困ります」
机の前で右往左往しながら、思考を整理する。
「着るだけでしたら、私がガマンすればいいだけです。幸いなことに、死ぬほど嫌な匂いというわけでもありません。嫌ですけど」
他のハンターが何か感じるかもしれないが、それもエルが我慢するなり説明すればいい。むしろ、戦う相手について、このニオイが障害とならないか。
「なりませんね。ニオイが障害になるのでしたら、私はすっぱりとコレを着ない選択をするでしょう。けれど、今回の歪虚は嗅覚がないタイプと聞いています。ニオイで気づかれるとは思えません」
ならば、結論は一つしか無い。その結論を認めたくなく、机の周りを回ってみる。
三周したところで、ため息が漏れた。
「着るしか、ないですね」
意を決したように真正面からドレスを見下ろす。
家を出るエルは、性能の良い戦闘用ドレスを身にまとっていた。
その表情が引きつって見えるのは、これから参じる戦いへの緊張感ゆえか。それとも、鼻孔に満ちる独特なニオイのためか。
真実は、本人のみ知るのであった。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【エルバッハ・リオン(ka2434) / 女性 / 12歳 / エルフ / 魔術師(マギステル)】