※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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こころに灯るもの
東方と一言で言っても、色々な場所がある。
南の長江の方は大分暖かく、冬でも雪はあまり降らないが、首都である天ノ都より北側の地は結構寒く、冬は多く降るところがある。
以前、シアーシャが仕事で行った村は、東方の中でも割と北にある豪雪地帯だった。
その時に、村人達と仲良くなってとても良くして貰って、再会を約束して帰って来た。
そんなことがあった数か月後。村人さん達元気にしてるかなー……なんて考えていた矢先に、彼女の元に招待状が届いたのだ。。
この村では、『年賀祭り』というのを毎年行っていて、正月になると雪で作った家を作る。
その中に祭壇を設け、今年1年も良い年でありますようにと、黒龍にお願いするのだそうだ。
この時期は村中のあちこちに雪の家と雪灯篭が作られ、それはそれは賑やからしい。
生来楽しいことが大好きなシアーシャは、この話にすぐ飛びついた。
……ただ。一人で参加するのは何だか気が引けて――そんな時にふと思い浮かんだのが、赤毛の青年の顔で。
気が付くと、シアーシャはその人に連絡を取っていた。
「あの、ごめんね。急に付き合って貰っちゃって」
「ん? 別に構わないですよー。東方、一度行ってみたいと思ってましたし」
「あれ? イェルズさん、東方行ったことないの?」
「仕事でなら何度か行きましたよ。でもこういう催しものって初めてなので」
人懐っこい笑みを浮かべるイェルズに、笑みを返すシアーシャ。
眼帯姿って何だか怖いイメージがあったのだが、彼に関してはあまりそれがない。
むしろカッコいいように思う。
――そもそも。彼が眼帯をしているのは、災厄の十三魔を討伐した際、瀕死の重傷を負って左腕と左目を失ったからだ。
あの時は本当にどうなるかと思ったけれど。生還してくれて良かった……。
――でも、結構あの時の怪我重かったし、後遺症とかないのかな。
そんなことを考えていたシアーシャは、ふとイェルズを見上げる。
「イェルズさん、もう身体は大丈夫なの?」
「んっ? この間ちょっと風邪気味でしたけどもう治りました」
「そうじゃなくて、左目とか、腕とか……古傷痛いとかないの?」
「ああ……大丈夫ですよ。片目の生活も慣れてきました。左腕は皆さんが協力してくれたお陰で、すごくいい義手が出来ましたしね。お陰様で調子いいですよ」「そうなんだ。良かった……」
ほっと胸を撫で下ろす彼女。そんな話をしながら歩いて、ようやく村が見えてきた。
入口には、村人たちがシアーシャの到着を今か今かと待ちわびている様子で……彼女の姿を見つけると、おお! と歓声が上がった。
「シアーシャさん! ようおいでくださいました!」
「わあー! 村長さん! 皆さんもお久しぶりー!! わざわざ待っててくれたの?」
「ええ。村の恩人の再来を皆楽しみにしておりました。雪で歩きにくい中大変でしたでしょう。さあ、これ飲んで温まってください。お連れ様もどうぞ」
「わあ。ありがとうございます」
村人から差し出された甘酒を笑顔で受け取るシアーシャとイェルズ。
村長はそっとシアーシャに歩み寄ると耳打ちをする。
「……シアーシャさん、お連れ様は結構な美丈夫ですなぁ。恋人ですか?」
「えっ?! ええ!?」
思わぬツッコミに慌てる彼女。
そうだったらいいなっていうか勝手に片思いしてるだけだから現状お友達?
というかこの勘違いはイェルズさんに申し訳ないからしっかり否定しないと!!
そう思いつつも上手く言葉にならず耳まで赤くなるシアーシャ。
村長はうんうん、と頷くと彼女の肩を叩く。
「分かります。分かりますぞ……! 我々が黒龍様に縁結びをお願いしておきますから……!!」
何か勝手に察しられた上に気を回された!!?
あの、えっと……を繰り返すシアーシャ。そんな彼女を、村人が呼びに来た。
「ほらほら、村長。シアーシャさん引き留めたら悪いですよ。かまくらの用意が出来てますよ。中も温めておきましたから、お連れさんと一緒にどうぞ」
そんなこんなありながら、案内された雪の家。
丸い竈のような形をしたそれは、意外にも大きく3mくらいありそうだった。
中も2人が座るには十分な広さがあり、正面の壁に黒龍を祀る祭壇が、中央には火鉢が置かれ――その中には五徳に乗せられた鍋がかけられていた。
目に飛び込んできた光景に、シアーシャが目を輝かせる。
「すごい! 雪で出来てるのに中あったかい! お鍋まで用意されてる!!」
「致せり尽くせりですね。……村人の皆さん、良い方達ですね」
「そうでしょ。前依頼でここに来た時仲良くなったの。ちょっと雑魔退治しただけなんだよ。それなのに申し訳ないくらい感謝してくれてね……」
「ああ、分かります。ハンターとして当たり前のことしてるだけなんですけどね」
「うん。でも感謝されるとまた頑張ろうって思えるよね」
にこにこと笑い合うイェルズとシアーシャ。
イェルズは火鉢の上に置かれた鍋を覗き込む。
「良い匂いしてきましたね。これ、何のお鍋でしょうね?」
「あ、これ? この村の名物の鍋なんだって。お魚とお野菜を味噌で煮てるって言ってたかな。前来た時食べたんだけどとっても美味しかったの!」
「確かに良い匂いしますね……。おっと」
ふつふつと沸き立つ鍋。お玉を手にして手慣れた様子で灰汁を掬い始めるイェルズ。
それが終わると、置かれていた急須でお茶を淹れてシアーシャに差し出す。
――イェルズは本当によく気が付く。
前は女子力が高いからだと思っていたし、自分も女子力を身につけたくて頑張ってみたりしたのだけれど……多分そうではなくて。
彼のこの行動は、もっと根本的な部分……彼の思いやりや優しさの表れなのだということに気が付いた。
相手が『こうされたら嬉しいだろう』ということを予測して実践しているのだ。
イェルズ自身、それが普通だと思っているからか自分の評価は高くないけれど、それはとてもすごいことだし。
彼が辺境の大首長の補佐役に選ばれている理由も良く分かる。
太陽みたいに明るくて、誰にでもフレンドリーで、優しくて……。
――だから自分は、この人が『好き』なんだろうな、と思う。
お友達としては勿論だけど、そのもっと先の――1人の男の人として。
……多分、これが『恋』なのかな。
恋というものに憧れがあったシアーシャは、それこそ沢山、『恋』について書かれている本を読んだ。
主に、男女の恋愛模様を綴った本が多かったけれど……。
本の中の登場人物達は、大抵会ったその瞬間に稲妻に打たれたようにズキューンとなって、恋の情念に焼かれて熱く激しく燃え上がっていた。
だから、漠然と自分もそうなるだろうと思っていたのに……。
実際はそんなこと全然なかった。
イェルズとはお祭りとかイベントとか、行った先で良く会うようになって、色々教えて貰ったり、色々お話したり。
普通にお友達として仲良くなって……それから、この人の色々な部分を知って、何だか気になるようになって。
少しずつ、降り積もるように『好き』が増えて行った。
だから、最初はこれが恋とはなかなか気づけなかったけれど。
一緒に過ごすだけで楽しくて、ドキドキして。帰る時はすごく寂しくなったり、感情がくるくると切り替わってちょっと疲れる時もあるけれど、それもまた嬉しい。
イェルズさんにとってあたしはきっとただのお友達なんだろうけれど。
この人を見てるだけで幸せなんだ――。
「……アーシャさん。シアーシャさん、聞いてます?」
「えっ? 何?」
「取り皿空になってますけどもっと食べますか?」
「んっ? あれ???」
イェルズに指摘されてキョトンとするシアーシャ。
目の前の人のことを色々考えているうちに気付けば取り分けられた鍋を一皿平らげていたらしい。
食べた自覚がなかったのだから当然味も覚えていない。
うわあ! この鍋美味しいのに勿体ない!!
「あ、じゃあおかわりお願い出来る?」
「はいはい」
軽い調子で応えるイェルズ。
鍋から具をよそうと、そっとシアーシャに手渡す。
「熱いですから気を付けてくださいね。それにしてもこのお鍋本当美味しいですね」
「ありがと! そうでしょー。村人さん達に感謝しないとね」
「そうですね。お礼に雪かきでもして帰りましょうか」
「あ! それいいね。イェルズさんは本当良く気が付くよね」
「そうですか? 妹には気が利かないって言われるんですけどね」
「ええ……!? ちょっと妹さん、基準が高いというかイェルズさんに厳しすぎじゃないかな……!」
「あはは。まあ、兄妹なんてそんなもんじゃないですかね」
「そうなのかな……。あ、ねえねえ。イェルズさん。イェルズさんの好きなものって何か聞いてもいい?」
「ん? いいですけど……。そんな話聞いて面白いです?」
「面白いよ! 絶対面白い!! とりあえず片っ端から全部教えて?! はい! まずは好きな食べ物は!?」
「特に好き嫌いないんですけど、特に何が好きって言われたら肉ですかね」
「肉食系男子かぁー! えっと、じゃあ好きな色は?」
「んーと。赤かな……」
「ふむふむ。イェルズさんの髪の色だ! じゃあ次はね……」
矢継ぎ早に質問を投げかけるシアーシャ。
――こうして、この人についての知識が増えていくだけでこんなに幸せなんだ。
恋って不思議だなぁ……。
雪で作られた家から漏れる灯り。
シアーシャの質問は、夜が更けるまで続いた。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka2507/シアーシャ/女/16/恋に気付いた乙女
kz0143/イェルズ・オイマト/男/18/鈍感系男子(NPC)
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。
お届けまでお時間頂戴してしまい、申し訳ありませんでした。
シアーシャちゃんのノベル、いかがでしたでしょうか。シアーシャちゃんの内面を掘り下げる感じで認めてみました。
少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。
ご依頼戴きありがとうございました。