※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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Way home
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『いました、半藏ユエです!』
その歪虚の襲来を、耳にしたときのことだった。
ぎしり、と。ヴィルマ・ネーベル(ka2549)の心が軋んだ。
否。それだけではない。軋むだけでは、終わらない。
暖かだった心。学生たちを護ってみせると思っていた、その心の奥から――それが、吹き上がった。
喪失の痛み。心の傷が、憎悪が――燃える。燃やされる。それはあたかも神話に在る原初の火のように、ヴィルマの心を蹂躙した。
「う、うう……ッ!」
憤怒か、はたまた、抵抗のためにか掌に突き立てられた爪は、あっさりと皮膚を破り、湧き出た血が滴る。
自然と、覚醒していた。
双眸に蒼い光芒を宿らせたヴィルマは、しかし、苦しげに呻く。左目に残る傷が、かつての恨みを示すように、ずくずくと幻痛を生んでいる。
殺せ、と。自らの裡から、声が湧く。
根絶やしにしろと、少女の声が響く。
赦せない、と、少女の絶叫が、響く。
激憤の炎が、ヴィルマ・ネーベルの声で、語りかけてくる。
「う、ああ……ッ!!』
うめきながら、ヴィルマは[自らの声]に応じていた。頷いていた。
逡巡など、ありはしなかった。すぐに、煌々たるマテリアルが、裡から湧き上がってくる。
記憶のなかで、家族の亡霊たちが、喝采を上げる。応報せよと、絶叫している。
「応とも……」
言葉にした。
これは、自然な発露だ。これは、正当な、報復だ。そのために孤独に耐え、力を望んだのだ。
だからこそ、すぐに魔導バイクを走らせていた。
「―――――殺してやるのじゃ、歪虚!」
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「…………っ!」
我に返ったのは、病室のベッドでのことだった。
身体中の痛みよりも、意識の途絶が心を凍えさせた。朦朧とした意識の中で、恐る恐る、記憶をたどる。
覚えている。殺意にまみれた、心の動きを。
覚えている。憎悪に突き動かされた悦楽を。
がむしゃらに。ひたむきに、魔術を振るった。
ヴィルマはその手で、強大なる歪虚を――討ち果たしたのだ。
……なのに。
なのに、だ。
「…………あの子らは、無事じゃ、ろうか…………」
思い出せない。学生たちの安否が、全く、解らない。
達成感を押しつぶすほどの後悔と、不安が、拭い去れなかった。
あの時戦場に立ったのは、護るためだ。それなのに、いちばん大事なことが――ヴィルマの胸の裡を、かき乱す。
かけられていた毛布を抱き寄せた。今すぐにでも此処をでて確認したいが、それが出来る体調ではないし――外は、暗い。人の気配はないことから、夜の深さは知れる。此処を出られるのは、早くても、翌朝になるだろう。
凍える夜を過ごす。独りで、震えながら。
その不安と痛みは――いつかのソレと、よく似ていた。
「………………」
空を、見上げる。月の無い空がヴィルマを見下ろしているようだった。
星々が淡く照らす雲は分厚く、寒々しさを募らせる。
ああ。
帰れないことを、彼は、どう思うだろうか。知っている、だろうか。
いつしか、ヴィルマの心が、訴えていた。
「…………会いたい、のぅ」
言葉にすれば、よけいに辛くなることは、わかっていたのに。
「帰り、たい、のぅ…………」
今は、ただ、恋しくて――そう、呟いていた。
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka2549 / ヴィルマ・ネーベル / 女性 / 22 / She want to go the way home】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。ムジカ・トラスです。
おまけノベル、納品させていただきますね。先日のシナリオの補完的エピソードを描かせていただいています。
タイトルは、同名のジャズの曲から頂きました。
暖かさと寂しさが同居した、ムジカのとても好きな一曲です。後半のヴィルマさんの心情にマッチするかなぁ、と思いながら、添えさせていただきました。
帰るべき場所がある人にとって、帰れない時間は苦しいもの。相手が側にいないこともそう。相手を、ひとりにしていることも、そう。だからこそ、帰る道は暖かくて、不安で、それだけにとても、大事なもので。
その価値を、ヴィルマさんはもう、自覚的に感じているんじゃないかなぁ、と思いつつ、描かせて頂きました。気に入って頂けたら、幸いです。
それでは、またのご機会がありましたら、よろしくお願いいたします。