※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
飴色の夕空


 古い盗賊が盗んだとされる財宝が、とある町の外れに放置されている廃墟内に存在するという噂を耳にした。
 かつては栄えていたらしいが、どこかで傾いたのか今では寂れた雰囲気を醸し出していて寂しげであった。
 日が傾きかけ、余計にその情緒が深まっている気がする。
「廃墟ってあれかな? 洋館みたいなものかなって思ってたけど、縦に長いんだね。初めて見る建物だよ」
「俺にとっては馴染みのある光景だが……そうか、翡翠は初めてか」
 黒のスーツを身にまとう二人の影があった。一人は背が高く体つきがしっかりした黒髪の男で、そしてもう一人は全体的に小さく可愛らしい体躯をしている。少女であろうか。エルフ特有の耳と、茶色の髪に光り輝く額飾りが強い印象を放っているようにも思えた。
 背の高い男を蓮、茶色の髪の少女――否、実際は少年であるエルフを、翡翠と言った。
「ねぇ、蓮。やっぱり中には雑魔とかいっぱいなのかな?」
「不安か?」
「少し……見たこともない場所だし」
 廃墟から少し離れた場所で一旦歩みを止め、正確な位置と場所を再確認していた蓮に、翡翠が小さくそう言った。
 まだほんの、十年と少しを生きてきた存在である。
 蓮と行動を共にするようになってからは素である無邪気らしさを見せてはいるが、巫女として育てられた過程もあり、翡翠はどちらかと言うと庇護欲というものが自然と湧いてくる外見であった。
「翡翠、これを」
 蓮はスーツの内側に手を伸ばしたあと、それを翡翠の目の前に差し出して言葉を繋げた。
 手に収まっているものは、まさに手のひらサイズである小型の拳銃、デリンジャーである。
 翡翠はそれをまじまじと見つめてから、ゆっくりと顔を上げた。
「蓮の武器と似てる……」
「護身用として持っておけ。コイツは信用できる」
 衣服のポケットにすら仕舞い込める小銃である。翡翠の指にもフィットするだろうと考えつつ、蓮はそれをそっと握らせた。
 翡翠は初めて手にした銃を、珍しそうに指で確かめつつ見ている。
 その姿を、目を細めて見つめるのは蓮であった。
 巡るのは過去の記憶。その片隅に残る影と、翡翠の姿が重なってしまうのだ。
「…………」
 軽い眩暈を感じて、額に手をやった。
 すると翡翠がそれに気づき、覗きこんでくる。
「蓮? 大丈夫?」
「……ああ、すまない。大丈夫だ。そろそろ行くか」
「あ、うん」
 二人は再び、歩き出した。
 蓮は小さな翡翠の歩幅を読んで足並みを揃えつつ進む。
 一方の翡翠は武器であるロッドを握りしめて、若干緊張した面持ちであった。
 数日前に、翡翠は蓮と同じ格好をしたいと望んだ。蓮がネクタイに対し、翡翠はリボンタイであったが良く似あっていると思った。肩まである髪を後ろで束ねているのだが、それでも蓮は翡翠を『少女』として認識しているようだ。
 翡翠に必要ないと言われるまでは、自分が傍に。
 そう改めての感情を心の中で呟き、蓮は翡翠と共に廃墟へと潜入した。



「静~、もう帰ろうよ」
「何を言ってるんですか。まだ10分ほどしか経ってませんよ。珍しく真面目な依頼なんですから、貴方も真面目に戦って下さい」
 ドン、と拳銃の引き金を引く音がその場に響いた。その一発が相手への足止めとなり、視線がとどめを刺せと促してくる。
 もう疲れたよと言いながら剣を振るうのはスグル・メレディスであった。
 先に銃を撃ったのが静架である。
 数秒後、目標が地に沈んだ。雑魔だ。
「ねぇ、コレってそんなに重要な案件なの? 正式依頼じゃないんでしょ」
「……貴方にピッタリじゃないですか。最近怠けすぎです、働いて下さい」
 ため息混じりにスグルがそう言うと、静架の口から容赦無い言葉が返ってくる。
「財宝とか、興味無いんだけどなぁ……」
「元トレジャーハンターが言うセリフじゃないでしょう。ほら、進みますよ」
 縦に伸びる廃墟に裏口から入って、数十分。
 どこかで見たような建造物だと思いつつ、廊下を進んで階段を駆け上がる。
 廃墟だけあって、登れば登るほど彼らを阻む存在があった。雑魔の群れだ。
「も~……面倒くさい。どこから湧いてくんの、この数……」
 スグルがまた、ため息を吐いた。
 存在に畏怖する様子は全く見られず、数が多いことに憂いを感じているだけのようだ。
 口を開けば面倒くさい、を連発するスグルだが、今日もそれは絶賛発揮中らしい。
 対する静架は任務遂行が何よりの目標なので、スグルの言葉は右から左へと聞き流しつつ、彼を引きずりながら前に進んだ。
「はい、あと一撃ですよ」
「静が全部やったらいいのに……」
 静架は銃での足止めのみを徹底していた。スグルを動かすためであった。
 常に文句は聞こえるが、敢えて無視する。
 こうでもしなければ、彼は本当に何もしたがらないからだ。
 そしてまた一体、雑魔が地に沈んだ。
「!」
 視界の端で何かが素早く動く気配がした。それに先に気がついたのは静架ではなくスグルのほうであった。
 桃色の瞳がぬるりと動き、次の瞬間には腕が周る。
「スグ……」
「――動かないで、静」
 鋭い空気を切る音が三つほど、静架の真横を通り過ぎていった。その一つが頬をかすめて、薄く一筋の傷が生まれる。
 その数秒後、背後で刃物が突き刺さる音が静架の耳に届いた。
 間を置かずに、土に沈む音も。
「ごめん、切れた?」
「問題無いです。それより、スグルはもっとハンターとしての経験を積むべきです。これだけ動けるんですから」
「……面倒なんだよ、本当に」
 スグルは静架に歩み寄って、そう言った。先に伸ばしていた右手の先には静架の頬があり、自分が切ってしまった薄い傷を親指の腹でそっと撫でている。
 そんな彼を見上げた静架は一瞬だけ、瞠目した。視線の先のスグルの髪色が変わっていたからだ。
 何か切っ掛けだったのかは解らないが、覚醒モードに切り替わっていた彼の髪は真っ白であった。
 先ほどの鋭さの元はこれかと心で呟きつつ、静架は視線を下げる。
 今はあまり、スグルを煽らない方がいい。
 そう、察したからだ。
 空気と静架の頬を切ったものは、スグルが放ったナイフであった。苦無に似た形状のものだ。
 足元を見れば、コウモリの姿に見える死体が3体、転がっていた。そのどれにも、ナイフが突き刺さっていた。
 滅多に見せることのない、彼の戦闘術の一つでもあった。次にこれが見れるのは何ヶ月先になるのか、とも静架は思う。
「…………」
 スグルは何も告げなかった。
 だが、右手はずっと静架の頬に預けたままだ。ただひたすらに親指で傷を撫でている。
 異常とも思える時間が数秒、過ぎた。
 ジャリ、と音が響いてくる。
「!」
 静架もスグルも、その音に即座に反応して見せた。
 前者は銃を向け、後者はナイフの刃を向けている。
「……驚かせてすまない。こちらもハンターだ」
 仄かに暗い空間の向こうから、そんな声が聞こえてきた。静架とスグルが武器を向けた先であった。
 声は一人のものであったが、足音が二人分。
 それを聞き分けつつ、先に武器を下げたのはスグルだ。髪色も元に戻っているので、単に腕が疲れたのかもしれない。
「――蓮?」
 銃を向けたままであった静架が、そう言った。
 名前の響きに、隣にいたスグルの瞳が大きく開かれる。
「静架か。こんな所で再会するとはな」
「貴方もこちらに来ていたのですか……お久しぶりです」
 そんな会話が交わされた。
 彼らの目の前に現れたのは、蓮と翡翠だったのだ。
「静……? 誰?」
 震えた声を喉から出すのは、スグルだ。
 静架が誰かの名前を呼び捨てにする事など、自分以外では無かったからだ。
 隣のスグルの様子をチラリと見たあと、静架は呆れたように溜息を零してまた口を開いた。
「向こうにいた頃、仕事でご一緒した方ですよ」
「あの時は世話になった……」
「何それ、俺聞いた事ないよ!」
 静架がそう言ったあと、蓮が続いたが、それを完全に遮り身を乗り出したのはスグルだ。
 その勢いに、蓮の後ろに隠れて彼の背中に貼り付いていた翡翠が、ビクリと肩を震わせるほどだった。
「貴方に言ったのは初めてですからね」
 静架がさらにスグルを煽る。
 それに彼の目尻が釣り上がったのは言うまでもない。
「静、俺を見て言ってよ」
「いつも見てるでしょう。貴方こそ周りをよく見なさい」
「最初から説明して!」
「今は必要ないです」
 軽い口論になった。と言っても、スグルが一方的に怒っているのみであったが。
 それを目にした蓮が、少し慌てた様子で一歩を踏み出したが、スグルがすぐに反応して彼に剣を向ける。
「スグル、何をしているんですか」
「……静が名前を呼び捨てにすることなんて、滅多に無い。俺以外にそうするなんて、許さない」
「いい加減に目を覚まして下さい。どこまで馬鹿なんですか、貴方は!」
 静架の語気が珍しく強いものになった。それと同時に手刀が繰り出され、スグルの手から剣が落ちる。
 蓮と翡翠は、完全に呆気にとられるのみであった。
 痴話喧嘩の部類に入る言い合いであったが、二人がそれを理解できているかどうかは微妙なところである。
「……いったぁ……静、本気でソレやっちゃう? 静の一撃って何気に後に残るんだけど」
 右の甲がビリビリと傷んでいた。
 見事な手刀を決められたスグルは、そう言いながら左手を当てて肩を落とす。その態度は若干大袈裟であった。
 静架はそれを敢えて無視し、蓮を再び見やる。
「……お見苦しい所をお見せしてしまい、すみません。お連れの方も」
 蓮から翡翠へと視線を移され、予想もしていなかった本人がまた肩を震わせた。そしてさらに蓮の後ろに隠れようとする。
「翡翠。この人達は何の危険もない、大丈夫だ」
「……、うん……」
 頭にポンと手のひらを置きつつ蓮がそう言うと、視線を落し気味に姿を見せたのは翡翠だ。
 未だに手をさすりつつスグルが彼を見れば、小さくて可愛らしいエルフの『少年』だとすぐ認識して身体の向きを変えた。そこに先ほどまでの鋭いオーラは感じられない。
「驚かせちゃったね、ごめん。俺はスグル、こっちは静架。一応これでも同じハンターだよ」
「あ、あの、びっくりしてしまって……すいません。えっと、僕は翡翠と申します。蓮と一緒にここを探索してました」
 スグルがそう言うと、翡翠は礼儀正しくぺこりとお辞儀をしつつ名前を名乗った。
 それに続いたのは隣に立つ蓮である。
「おかしな誤解を与えてしまったようですまない。俺は蓮と言う。静架とはこちらに来る前に仕事で一緒に行動しただけだ」
「……まぁ、早とちりした俺が悪いし。本当に何にも無さそうだし、謝らなくてもいいよ」
「その割にはまだ疑ってますね。連れが馬鹿で本当にすいません」
 静架がすかさず厳しい言葉をぶつけてくる。言葉遣いは丁寧だが、スグルに対してはいつでも容赦がない。
 翡翠がそれを気にしているような表情をしたので、スグルが苦笑しつつ肩を竦めて見せた。
「俺が馬鹿だって言うのは、本当だよ。静が手厳しいのはまぁ、いつものことだから」
「そう、なんですか……?」
 静架はスグルの言葉など聞いてないという態度で、涼しい顔で周囲の気配を読んでいる。
 この二人の関係性をいまいち理解出来ない翡翠は、彼らを見上げながら小首を傾げた。
「翡翠ちゃんは可愛いね~」
 スグルはそう言いつつ翡翠の頭を軽率に撫でる。
 視線のみでそれを真っ先に確認したのは、静架であった。若干の空気の揺れが生じる。
 蓮が静かにやはり視線のみだけで見て、「ああ、そうか」と小さく呟き、顔を上げて言葉を繋げた。
「そちらさえ良ければなんだが……目的も同じようだし、協力体制を組むのはどうだろう?」
 その提案に、翡翠が「楽しそう」と素直な気持ちを吐き出した。
「4人のほうがパーティらしいし、効率も上げられるよね。俺は賛成」
「自分も、問題ありません」
 スグルも静架も、蓮の申し出をあっさりと受け入れた。
 臨時のものであるが4人のパーティが成立し、彼らは改めて位置を確認する。
「俺たちは裏口から入ってきたんだよ。猫みたいな雑魔とかコウモリみたいなのとか、とにかく数が多くてさ」
「こちらは正面から東階段を登ってきた。敵数や種類は似たようなものだ」
 静架が広げた見取り図を見ながら、スグルと蓮がそう言葉を交わす。
 翡翠が蓮の後ろから背伸びで覗きこんでいるのに気が付き、静架は自分の手の位置を下げた。
「……あと少しで最上階のようですし、目的の財宝はそこにあるでしょう。もちろん、楽に手に入るとは思えませんが」
「大きな雑魔とか、いるんでしょうか?」
「俺的にはもうラスボスでもいいんだけどね~」
 スグルがくるりと踵を返しながらそう言った。先ほど静架に落とされた自分の剣を拾うための行動のようだ。
 少し離れた場所に放置したままであったナイフも回収して、腕と懐に仕舞いこんでいる。
「…………」
 その行動全てを見ていたのは、静架だった。
 自覚は無いようだが、彼はスグルの姿を必ず視線のみで追っている。
 厳しい態度と言葉で誤魔化してはいるが、それだけスグルという存在が彼にとっては大きなものなのだろうと彼らを見ていた蓮は思った。
「蓮?」
 翡翠が彼を呼んだ。
 蓮がそれに気づいて、微笑み返す。
「彼らとの出会いは、俺たちにとっても良いものとなるだろう」
 そう言いながら、翡翠の頭を撫でてやる。
 言葉の意味はいまいち理解出来ていないようであったが、翡翠はその温もりが心地よく表情が緩む。
 年齢通りの可愛らしい顔つきだ。
 蓮はそんな翡翠の素のままの姿を目にすることが出来て、嬉しいと感じていた。
「蓮さん、翡翠ちゃん、そろそろ行くよ~」
「ああ、そうしよう」
 スグルの声が合図となり、蓮が返事をして気持ちを切り替える。
 そして足並みをそろえた4人は、最上階を目指しての探索を再開させた。



 廃墟の最上階は、屋上であった。
 登り切り外の空気を肌で感じとった直後、視界に飛び込んできたのは飴色にも似た夕日だ。
「蓮、同時に叩きますよ!」
「了解だ」
 静架と蓮の動きは実に機敏で正確であった。加えて息も合っていて、的確に敵の弱点を攻めていく。
「スグルさん、大丈夫ですか?」
「ん~……翡翠ちゃんがこうして癒してくれてるから、そのうち全回復するよ」
 後退した位置で、スグルが翡翠からの治療魔法を受けていた。
 つい先程までは静架たちの前で剣を振るっていたのだが、電池切れと言い出した後、攻撃を受けてしまったのだ。ちなみに敵は既に最後の一体、所謂ラスボスとの対峙中である。雑魔ではなく堕落者と呼ばれるヴォイドだ。
 堕落者は上位歪虚の命令により動く存在である。
 このエリアのどこかに何れかの眷属が潜んでいるのかもしれない。
 かつては人であったであろうその姿は、醜い成れの果てであった。
「蓮と静架さんは、息ピッタリですね」
「どっちも銃扱うしね。連携取りやすかったんじゃないかな。あっちの世界でもそういう理由で組んでたのかもしれないし」
「皆さん、格好いいです」
 ヒールを使い続けながら、翡翠は嬉しそうにそう言った。
 世界を知らなすぎる彼には、あらゆる事が感動に繋がり、刺激になるようだ。
 スグルはそれを間近に見て、「ある意味、蓮さんは苦労するんだろうなぁ」と苦笑しつつ独り言のような言葉を漏らす。
「――スグル、いつまで回復するフリしているんです。早く戻って下さい!」
「え、フリ?」
 静架からそんな言葉が投げかけられた。
 背中で受けとめたスグルは苦笑していて、それを目の当たりにした翡翠は瞠目するばかりだ。
「ありがと~翡翠ちゃん。もう大丈夫。じゃあ、止め刺しに行こうか」
「あ、あの……」
「ん~一応、無傷じゃなかったんだよ? まぁ、かすり傷程度ではあったんだけどね~」
 あはは、と笑いながらスグルはあっさりとそう告げた。
 つまり彼は、負傷を理由に戦闘放棄をしていたのだ。
 悪びれた様子も微塵も見せないスグルの態度に、翡翠はまた呆けるしか無い。
「俺以外に近接攻撃出来るメンバーがいたら、もうちょっと休めたんだけどなぁ」
「あ、はは……」
 さすがに「そうですね」と相槌を打てずに、翡翠は引きつった笑いを見せてスグルの後に続いた。
 銃を構えつつの二人の中に戻れば、スグルは静架の横に自然と歩み寄っていく。そして直後、怖い目つきをしたままの静架に、スグルは遠慮なしに頬を引っ張られていた。
「ねぇ蓮、あの二人って不思議だね……」
 翡翠がそう言いながら足を向けるのは、蓮の隣だ。
 信頼できる唯一の人だからこそ、自然と足が向く。スグルと静架も似たようなものなのだろうが、翡翠にはその先がまだ解らない。
「……微笑ましいな」
「静架さんとスグルさん?」
「それもあるが」
「?」
 蓮の言葉に、翡翠は首を傾げた。
 そんな仕草や言動すらも、蓮にとっては大切な瞬間だ。
 だが今は、静かに笑みを返すだけ。
「ところで、傷を治してもらいたいんだが」
「えっ、どこ? も~蓮、そういう事は先に言ってよね」
 改めて口を開いて、蓮は左腕を差し出した。肘の少し上の部分、服が破れて傷が見える。
 掠める程度ではあったがうっすら血も滲んでいるので、翡翠はそれを確かめた後、頬を膨らませつつ治癒を始めた。
「初々しいよねぇ」
 少し離れた位置でスグルがそう言った。
 静架は「そうですね」と答えたが、視線は動かさずに敵を見据えたままだ。
 そこに緊張感は既に無く、堕落者も地に沈みかけた状態であったが、止めを刺すと口にしたスグルにそれを実行させることで頭がいっぱいのようである。
「ほら、さっさと片付けて下さい」
 静架がそう言いながら、スグルの腕を掴んで自分の前に一歩進み出させる。
「何で俺にやらせようとするかなぁ……静と蓮さんで終らせてくれちゃって良かったのに」
「……ご褒美は自分です」
「え」
 心底面倒くさそうなスグルの返事に対して、静架の言葉は意外過ぎるものであった。
 だが、それを聞き直す時間は与えられずに、ドン、と背中を押される。さっさと行って来いという表れである。
 勢いで前に出されたスグルであったが、その表情は非情に嬉しそうだった。
 そして剣の柄を強く握り込んで、駆け出す。
 そこから先は、ほんの数秒の事であった。
 突き立てた剣を迷いもなく相手に差し込む。それだけの行動だ。
 その一撃で相手は絶命し、この廃墟に巣食う全ての敵を片付けたことになる。
「あー……死んだ?」
 スグルが漏らした一言は、歪んでいるようにも思えた。
 ゆら、と揺れているのは赤にも見えるピンクの瞳。
 髪色が再びの白になっている彼の覚醒の切っ掛けは、彼自身にも解らない。
「スグル」
 背中に体温を感じた。
 スグルはそれにゆっくりと顔を上げて、姿勢を正す。
「終わりましたよ」
「……そうだね」
 静架の言葉を合図に、大きなため息を吐いた。
 それと同時にまた髪色も元に戻り、崩れかけた建物の屋上は静けさが広がった。
「そう言えば、財宝ってなんだったの?」
「大きな宝箱に宝石やらが詰まってるそうです。半分は蓮と翡翠さんにお渡しします」
「まぁその辺は、静に任せるよ」
 疲れたぁ、と続けて、スグルは身体の向きを変えた。
 そして静架に反応される前に彼を片腕に収めて、頭をかくりと下げる。
「スグル」
「……ご褒美なんでしょ。もう俺の好きにさせてよ」
 いつもであれば突き放す場面だが、静架はそうしなかった。
 半ば諦めてもいるようであり、残りの半分はと言えば、その理由は不明瞭なままだ。
 ちらりと視線を動かせば、翡翠と蓮が駆け寄ってくるところだった。
 彼らにこの現状をどう説明しようかと思いつつ、静架は片腕を上げて彼らに応える。

 4人を照らす夕日は、今日の終わりを告げる色と交じり合って、益々の煌めきを醸し出していた。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 : PC名 : 性別 : 年齢 : 職業】

【ka2568 : 蓮 : 男性 : 28歳 : 猟撃士】
【ka2534 : 翡翠 : 男性 : 14歳 : 聖導士】
【ka0387 : 静架 : 男性 : 18歳 : 猟撃士】
【ka2172 : スグル・メレディス : 男性 : 24歳 : 闘狩人】
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
(ka2568)
副発注者(最大10名)
静架(ka0387)
スグル・メレディス(ka2172)
翡翠(ka2534)
クリエイター:涼月青
商品:WTアナザーストーリーノベル(特別編)

納品日:2015/06/03 16:00