※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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Alone
煌びやかな飾りが目に眩しい。
街を照らす明かりが街行くカップルや家族を温かく照らす。
時は年末、聖輝祭の前であるから一層周りは賑やかである。
だが、彼――Gacrux(ka2726)の表情は硬かった。道行く人の視線を気にして、いつの間にか紛れ込んだのは陰の多い路地裏だ。
ダストボックスや野良猫、あぶれ者の住処と化したその場所で彼は小さく自嘲する。
(はっ…俺にはこれがお似合いだとでも?)
白だった病衣は既に汚れている。両手足にはごつい鉄製の鎖が下がり、ご丁寧にそれは首にも及んでいる。
彼はとある事から療養生活を余儀なくされていた。療養といえば聞こえはいいが、実質は態のいい監獄のようなものだった。それでも治療の甲斐あって問題とされていた症状は沈静化したのだが、沈静化したらしたで困った問題が出始める。それは……毎日の生活が実につまらないのだ。ハンターとして、刺激の多い世界で生きてきた彼にとって、規則正しい生活と限られた自由時間など味もくそもあったものではない。そんな気持ちを抱えていてはまた別の病気を発症するに決まっている。そこで彼はそっこりと施設を抜け出して、今に至る。
「ちょっとあんた何つっ立ってんだい」
そんな彼に声をかけたのは路地裏住まいの女だった。
今から仕事なのだろう。荷車には色とりどりの織布が積まれている。
「その布は?」
「あぁこれね。私が作ってるんだよ。生まれは東方だからねぇ。どうだい、綺麗だろう」
彼の身なりには気にも留めず、己が手織りの布を売り込む。
「確かにあまり見ない柄ですね。丁度いいかも…」
今の姿は施設の者に知られているから、ここで一つ変装でもしておくか。
「おや? 気に入ってくれたかい?」
じっと眺めるその姿に女性が嬉し気で問う。
「ええ、ですがこれらはただの布ですよね? 出来れば羽織れるものが欲しいのですが」
終始ぼんやりとした表情のまま彼が言う。
「おや、あんた知らないのかい? 一枚布ってのは便利なもんでね。ここをこうしてこうすれば…」
「これはお見事…」
するすると華麗な手さばきでその布を身に纏った女に、彼は思わず目を丸くし小さく拍手。
すると女性の機嫌はさらに上がったようで…。
「あらまあ、よく見たいあんたいい男だね。少し訳ありのようだけど、まあいいさ。折角だからいいのを見立ててあげるよ」
いうが早いか女は早速彼に合う柄を探し始める。
そうして見立てられたのは鮮やかを通り越して刺激的とさえいえる色の厚手生地だった。
模様には鶴、亀、鷹にどこかの山が無造作に配置され、いい言い方をすればとても個性的である。
「ん~帽子にはそうだね。このスカーフを巻きな」
紅色に金糸の縁取りがされたそれを手早く彼の帽子に巻きつける。
そうして、眼前に差し出された鏡を覗くとそこには衝撃的な自分の姿。目がチカチカしそうだが、追手を誤魔化すには悪くない。
「すみません。お金は払いますからもう一つだけ、お願いしても?」
彼が言う。その頼みに女は快く応じてくれるのであった。
職業は大道芸人という事にしておいた。
公演中に雑魔の襲撃に遭い、こんな姿のままでいると。脱出系のマジックの最中だったのだという事にして、この鎖の理由を説明した。
(嘘をついてしまいました…けど、これも仕方のない事)
今捕まれば逃がしてくれた仲間達にも迷惑がかかる。そう自分に言い聞かせ、納得させる。
「何、アレ? 何かあるのかしら?」
そんな彼の姿に道行く人が振り返る。この衣装だ。無理もない。が周りの目を引く程のこの姿ならば、それが逃亡者であると誰が気付くだろうか。いや、例え彼の友人が隣りをすれ違ったとしてももはや気づくまい。それ程までの奇抜な化粧をも施して、彼は大通りを堂々と歩く。
(こんなに風を感じるのはいつ振りでしょうか?)
知らぬ街を我が物顔で――久し振りに気分がいい。
そこで何件かの店を回って、いつもなら入りもしない店を渡り歩く。
だが、不思議な事に最終的に辿り着いたのは小さな酒場だった。
とても綺麗とは言えないその酒場は紛れもなくはみ出し者の集まる場所。ドアが軋み、音を立てる。
「あら、いらっしゃ~い」
そんな彼に声をかけたのは怠惰な表情の女だ。どうやらここのショーダンサーの一人らしい。
今はまだ時間でないのか、テーブルを回り接客という名のおこぼれを狙っている。
「マスター、ウイスキーをロックでお願いします」
Gacruxは彼女には目もくれず、奥のカウンターまで歩き直接注文する。
「ははっ、言っただろう。次来た客はウイスキーだってな」
すると近くのテーブルからそんな声が聞こえてきて、どうやら来客の注文で賭けをしていたようだ。
一人の男が得意げに笑い、他の男達から金を回収する。
(ほう、面白そうですね)
Gacruxは酒を受け取ると迷わずそのテーブルに足を向けて、
「同席しても?」
と尋ねる。普通であれば奇抜な見知らぬ男の同席など不審極まりないのだが、既に出来上がっている男達にそこまでの判断能力を有してはいない。賭けに参加するならと、真っ赤な顔で席を叩いて見せる。
「で、次の内容は?」
「次か…そうだなぁ。じゃあ、あの女が次の客に振られるか否かってのはどうだ?」
男の指す女というのは勿論さっき出迎えた女の事だ。指差された事に気付いたのか彼女が怪訝な顔でこちらを睨む。
「ぎゃはは、あんな態度ならフラれるに決まってんだろうが」
がそれを見てもう一人がそう言うから、この賭けはお流れかの様にみえた。
しかし、Gacruxは何を思ったか彼女の勝ちに一票を投じる。
「あんた、本当にいいのかよ」
正気でないという様子で男達が彼に問う。
「ええ、但し賭けるのは酒にしますよ。俺が負けたら店の皆さんに一杯ずつ…どうでしょうか?」
根拠のない自信に満ちた言葉に男達が目を丸くする。がこんないい鴨を逃す手はない。
男達はフラれる方に手持ちのコインをかけて――蓋を開けてみれば、やはり彼女は見向きもされず。約束通り彼は酒を奢る事となる。
「ははっ、あんちゃん。ごっつーそん」
「もっと見る眼ぇ養えやっ」
男達はご機嫌にタダ酒を煽る。だが、負けたというのに彼も笑みを浮かべている。
「こいつらこんなこと言ってるけど、あたしに惚れてんのよっ。でなきゃ毎日来たりしないんだから」
女が忌々しそうに言葉する。
「フフッ、でしょうね。嫌よ嫌よも好きの内と言いますし」
そこでGacruxがそんな言葉を漏らすと、女の瞳に鋭い光…。
「あら、わかってるじゃない。あなた何者なの?」
くねくねと腰を揺らして近付いてくる女。
まるで子供をあやす様に彼の首元に指をかけると、遠慮なしに彼の膝に座り至近距離から彼の瞳を覗き込む。
「さて、何者でしょうね」
目を細め、口元だけで笑う。
「何、それ。でも気前のいい貴方なら私にもお酒奢ってくれるでしょう?」
女はそう言いじっと見つめて……しかし、伝わってくるのは愛情とは遠くかけ離れたものだ。
「いいですよ。但し、あんたが清廉な淑女であったなら、ね」
普段の彼からは滅多に見れない自然で悪戯な笑み――。だが、その内容は女を激怒させる。
「はっ、あんた何様さねっ。あんたみたいな思い上がりはこっちからお断りよ」
最後に手が上がったが、流石にそれを受ける程愚かではない。
「…お客さんの前ですよ。落ち着いて下さ、痛ッ!」
そう耳元で囁けば、女は手を下ろすも痛烈な反撃に打って出た。
ピンヒールでなかったのが救いだが、それでも思いっきり足を踏みつけられる。
「ははっ、あんちゃんマジでついてねーなぁ~」
さっきの賭け仲間が言う。
「でも、面白れぇからもっと飲もうぜ~」
そういうのは別の一人。酒場独特の雰囲気が彼を包む。
「思い上がりですか…確かに、違いない」
そんな空気の中で彼は小さく呟き、再びククッと喉を鳴らす。
仲間の元も悪くはないが、こういう年越しもまた一興。もう暫くこの街にいようと思う彼であった。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2726/Gacrux/男/23/闘狩人(エイフォーサー)】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、奈華里です
この度は数あるライターの中から発注頂き、有難う御座います
ちょっと陰のあるGacruxさんのビターチョコの様な一幕
うまく表現できていると良いのですが、如何でしたでしょうか?
期限いっぱいの納品で季節感逃がしていてすみません
少しだけ人情味を添えてみましたが、過酷な過去をお持ちのご様子
シナリオの方でもそんな素振りを見せてはいなかったので
色々驚きつつ、これからの活躍を祈っております
誤字等ありましたら、修正させて頂きますのでご連絡下さい
それでは