※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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もう一度、君と
「デート?」
カレンデュラが言葉を繰り返す。
「そう、デートですよ」
Gacruxは強調するように言葉を紡いだ。
ある日のことである。
Gacruxが神霊樹のライブラリを閲覧していると、声を掛けられたのだ。
「Gacruxくん。何してるの?」
そこにいたのは、カレンデュラであった。
「貴女こそ、どうして?」
「いつの間にか出てきちゃった、みたいな……?」
そんな様子を見て、Gacruxはくすりと微笑んだ。
「初めて会った時も、貴女は突然現れましたよね」
「だって、人間に出会えて嬉しかったからね」
今度は人間を慈しむようにカレンデュラが微笑んだ。
カレンデュラとはもうお別れをしたはずだった。
そして、その最後にGacruxも立ち会っていた。
けれど。他の皆が各々特技でカレンデュラを笑顔にさせているのをみて、彼は妙に羨ましいと感じてしまった。
自分には特技などなかったから。
でも、もし、出来ることがあるとするのなら……。
「カレンデュラ、俺とデートしませんか?」
Gacruxはこんな提案をしたのだった。
それを聞いて、最初はきょとんとしていたカレンデュラも、意味を理解したか徐々に頬を染めていった。
カレンデュラはどこか恋愛に憧れている節があった。だからこその提案である。
「え、その、あたしなんかでいいの!?」
「冗談でこんな提案はしませんよ」
「……そいうことなら、遠慮なく!」
カレンデュラは持ち前の豪快さで、事態を納得するとすぐに動き始めた。
「Gacruxくん、あのね、あたしやってみたいことがあるの!」
こうしてどこか歪なふたりのデートがはじまったのだった。
「海でね、追いかけっこしてみたい!」
辿り着いた浜辺で、ふたりは早速裸足になり、砂浜に降り立った。
カレンデュラは足の裏の感触を楽しむようにぺたぺた足踏みをする。
「よし! Gacruxくん! あたし今から逃げるから捕まえてね!」
そう言うと、カレンデュラは波打ち際まで、踊るように走り出した。
「待ってくださいカレンデュラ」
そして、Gacruxが彼女を追いかける。
海はどこまでも広く青く、水平線で空の青と交わっていた。
雲はどこにもなくて、風もない穏やかな、どこか静止したような時間の中で、ふたりは追いかけっこをする。
追いつかれそうになると、カレンデュラは手を海の中に突っ込んで思いっきりGacruxへ海水を浴びせかける。
負けじとGacruxも水を浴びせ返すと、飛沫が陽光に反射してきらきらとカレンデュラが輝いて見えた。
離れるでも、追いつくでもない距離をふたりは走っていく。カレンデュラはからから笑いながら。Gacruxは静かに微笑みながら。
そうして、思う存分走ったころにはふたりの服はびしょびしょになっていた。
「あー楽しかった!」
Gacruxとカレンデュラは濡れた服を乾かすために、浜辺でふたり並んで座っていた。
Gacruxは濡れて雫が垂れる前髪を後ろに撫で付け、カレンデュラの顔をそっと見た。
それは、大切なものを壊さないように、汚さないようにするような仕草だった。
カレンデュラは、思いっきり伸びをして、その空よりも海よりも青い瞳で──或いは歪虚に犯された赤い瞳で世界を眺めていた。
「あたし、まだまだ知らないことだらけだ」
その声に悲観はなかった。ただ、世界の広さを愛するような、清々しい色があった。
「俺も知らないことだらけですよ」
Gacruxもカレンデュラの視線を追うように世界を見た。
──そう、思えば、何も知らなかったのだ。
──例えば、カレンデュラのことさえも。
「でもさ、知らないことがあるってワクワクしない? だってここよりもっともっと凄いところがあるってことだよ!?」
世界を抱きしめるように、カレンデュラは腕を広げて言う。その眼差しには曇りなんて微塵もなくて、疑いなんて欠片もなかった。
「カレンデュラは純粋ですねえ」
からかうようなGacrux。でも、その心に去来するのは、彼自身でもよくわからない感情だった。
この感情は憧れ、なのだろうか。いや、そもそも人と歪虚はわかりあえない。そんな対象に余計な感情を抱くなど不毛なことだ……それでもGacruxは胸の落ち着かない感じを覚えていた。
Gacruxは俯いて、自分の感情を整理し始めた。
──彼女はこの世界の良心だった。
──彼女は汚れていなかった。
──人を憎まず、だからこそ、何処までも真っすぐでいられたのだろう。
こんな世界で、それでも人を愛し、希望を信じる。
歪虚になってさえ、人のために戦い続けた少女。
その在り方に俺は──
その時、こつん、とGacruxの肩に触れるものがあった。
見るとカレンデュラの頭である。
「ちょっとだけ、こうしてていい……?」
カレンデュラが囁くような声で問うてくる。
「構いませんよ。デート、ですから」
「そうだね。そうだよね……」
カレンデュラは眠りに落ちるような仕草でGacruxにもたれかかっている。
彼女は静かに目を瞑り、波の音と、Gacruxの肩の感触だけを感覚として受け取る。さらさらと、カレンデュラの長い髪がGacruxの背中にふれた。
手を伸ばせば、簡単に頬にふれられる距離だった。
Gacruxはそっと、カレンデュラの顔に手を伸ばしたが、やめた。
「生きていてくれてありがとう」その言葉で救われたGacruxだからこそ、こんな無責任な優しさで、カレンデュラを汚すことは、自分が許さない。
「カレンデュラ」
「なーに、Gacruxくん」
「眠ってなかったんですね」
「うん、歪虚に睡眠は必要ないからね。でも、時々夢を見るんだ」
「どんな夢ですか?」
「昔の記憶、かな」
「楽しい記憶、ですか?」
「どうかな。思い出すたびあったかい気持ちになる。けど、ちくちくと胸を刺すような痛みもある。忘れたくないけど忘れていてしまった、あたしの大切な記憶」
瞳を閉じたまま、カレンデュラが静かな声で語る。
そして、歪虚として生きハンターと駆け抜けた日々を思い出したのか、くすりと、カレンデュラは笑った。
Gacruxは考えていた。
大精霊と再会をし、蟠りを解消させる。それが彼女の最後として最良であると思っていた。
けれど、その笑顔をもっと見ていたいと思うのは何故だろう。
恋を知らず、恋を夢見た少女に抱く感情はなんだろう。
いや、恋愛なんて信じるGacruxではない。そんな夢はとうの昔に捨て去った。
それでも──、
自分に体を寄せる彼女への想いにもし名前をつけるとするのなら、
──俺が彼女に抱いた感情は「尊敬」なのだろう。
「あたし、たくさんのものをもらっちゃった……もちろん、Gacruxくんからもたくさんもらった」
「……俺にも、残せたものがあったのでしょうか」
「あるよ。君とあたしが出会ってる。それだけで充分に凄いことだよ」
カレンデュラが目を開きGacruxに向き直って断言して、途端、彼女は頬を赤く染めた。
「それに……デートできて、本当に嬉しい」
カレンデュラは笑った。
それはそっと頬を染めた、花が咲くような可憐な笑みであった。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2726 / Gacrux / 男 / 25 / 闘狩人】
【kz0262 / カレンデュラ / 女 / 17 / 仇花の騎士】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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波が寄せて、君の足跡がさらわれる
天使の羽のような足跡
それでも、もう一度、ここで君と出会った