※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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影の歩み
随分、夜が明るくなったと思う。それはGacruxの気のせいばかりではない。
あの日──地球が凍結された日、かろうじてリアルブルーの月だけがこのクリムゾンウェストに転移してきた。だから、この世界に月はふたつあるのだ。
クリムゾンウェストに元々あった月、そしてリアルブルーから転移した月。
それらは冷たく地上を照らし出す。それはあまりに明るいから、物の輪郭を影として世界に刻んでいた。
その明るさのせいで、星の瞬きが全くなかった。
Gacruxは頬に手を当てて歩いていた。頬とはちょうど、弾丸によって飛び散った破片が突き刺さった場所だった。
破片を抜き去ると、涙のように血が流れた。そんな想像を彼は苦々しく思った。覚醒者である彼にとって、剣で自分の体を突き刺すという自傷行為をしていた彼にとって、それは取るに足らない傷であったが、血と涙の連想を嫌い、早々に手のひらで圧迫止血することにした。
コップに水差し、鏡の破壊された後の部屋は居心地が悪かった。破壊された物が無言の怨嗟を謳っているような気がしたから。
頬に刺さった破片を投げ捨てて、Gacruxはコートを羽織って外へ出た。
扉を開けた途端忍び寄る寒さに体がかじかんだ。内心舌打ちして、足早に歩きだす。
行きたい場所があるわけではない。向かうべき場所があるわけでもない。
ただ、夜のしじまに身をひそめるのに嫌気がさしたから。今いる場所に気まずさを覚えたから。
理由は何とでも言えた。
でも、歩き出す、という行為は、「ここではないどこかにもっと良いものがきっとある」という確信の表れに思えた。
ここではないどこかとは、どこだろう。
もしかすると──クリュティエの願いの先にあるものなのだろうか。
相変わらず、思考は堂々巡りだ。
寒空の下、頬の傷だけが熱を持っていた。
流石に血は止まっただろうと、頬から手を離した。傷口から滲んだ血が、手を紅色に染めていた。
ひるがえって、月の光が作り出す、地面にのびる己の影は、真っ黒ののっぺらぼう。
紅くない。顔がない。温度がない。
影は、別の影と淫らに交わって、世界を混沌の中に投影する。
何もかもがひとつになる泥の安寧。
Gacruxは歩き続ける。まるで、その泥濘に足を取られまいとするように。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2726 / Gacrux / 男性 / 25 / 闘狩人】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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溶けて解けて融けて熔けて
ひとつになった、ひとりになった
足元の影ばかりが、まじわっていた