※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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二人を別つその時まで
俺にも大切な者は、存在した。
それが誰だったのか。今では思い出せない――いや、思い出さないようにしていた。
大切な者を喪失した痛みは、あまりにも強い。肉体的な痛みでは無い。精神が、心が悲鳴をあげるのだ。
まるで石臼にすり潰されるかのように削り取られていく。必死で抵抗してみるものの、その抵抗の後には虚しさだけが残る。
自暴自棄。
振り返れば、あの頃の自分は死に急いでいた。大切な者の元へ行こうとしていたのかもしれない。
だが、残酷な時間の経過が、大切な者の記憶を脳内から少しずつ消し去っていく。
朧となった面影は、徐々に平穏さを取り戻していった。
そう考えていた――ほんの、数時間前までは。
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「……大切な者、か」
Gacrux(ka2726)の姿、揚陸艦「エンドレス」の整備用ドックにあった。
眼前には愛機『ヴァルキリー』。
数時間前までは、このヴァルキリーに乗って瓦礫の山と化したメキシコシティで戦っていた。
機体は傷付きながらも、加速。機動力に物を言わせて、敵に痛打を与えてきた。
振り返れば無茶な戦いをしてきたと思えてしまう。
「まさか、こんな形で再会するなんてねぇ。
……いや、正確には再会じゃないですね。最初から一緒に戦っていたのですから」
Gacruxは大切な物を失った焦燥感も怒りも感じなくなっていた。
それは時間の経過によるものだと思っていたが、最近はヴァルキリーに乗る度に失った物を埋めるような温もりを感じていた。
当然だ。大切な者はヴァルキリー内部にあったのだから。
「『DAS』ですか。随分とふざけた技術です」
拳を振り上げるGacrux。
そのままヴァルキリーへ叩き落とそうとしたが、思い止まった。
DAS――『Deadry Alliance System』。
ヴァルキリーにのみ搭載されたシステムであり、パイロットの思考を読み取り動作の補助を行う。これにより反応速度は段違いに向上したのだが、このシステムの核は軍事機密とされてきた。
その秘密が、先のメキシコシティで明らかになった。精神力学研究により産み出されたこのシステムは人の感情をエネルギーに転換している。この転換を効率良くスムーズに行う為、パイロットの関係者、特に恋人や肉親を特殊技術により液体化。それをシステムの核にする事でパイロットへの感情を引き出す仕組みだった。
「人を生かさず殺さず、兵器にする……。通りで強引にパイロットにしようとした訳です」
Gacruxは無理矢理にヴァルキリーのパイロットにされた経験の持ち主だ。
反論することすら許されず、強引な対応だったが、あれも今思えばDASの都合だったのだろう。
「戦場で命が軽くなるのは分かっています……。分かっているつもりです。
でも……これはあまりに……」
ヴァルキリーに背を向けるGacrux。
VOIDの地球侵攻を許し、生存圏を蝕まれていった人類。統一地球連合宙軍の絶対防衛戦は破られ、人類に終末の危機が到来する。
それに対して統一地球連合宙軍が採用したのは人間を兵器化するヴァルキリーの導入。平時では狂気以外の何物でもない所業も、有事では致し方ないの一言で済まされる。
それで占拠は改善した。統一地球連合宙軍は攻勢に出ている。VOIDを追い詰める夢を皆が抱き始めた。
――だから、なんだ。
人類が勝ったとしても大切な者は戻ってこない。
鋼鉄の体にされて、言葉を発する事もできない。ただ、彼らは操縦者であるGacruxを想い守る事だけ許される。
「この戦いに勝者は……」
「こちら、エンドレスです!」
整備用ドックにエンドレスの機械音が木霊する。
エンドレスによれば、現在黙示騎士ウォーレンの待つ南アフリカへ進路を取っている。大西洋を越えている最中だが、アフリカ大陸到着にしては早過ぎる。
Gacruxの抱く予感。それは嫌な形で的中する。
「後方より連合宙軍所属の航空部隊が接近。海上からは空母及び護衛艦数隻が併走中。
ヴァルキリーのパイロットは、出撃後、迎撃をお願いします」
エンドレスからの報告。
待ち伏せなのかは不明だが、統一地球連合宙軍の部隊がエンドレスへ接近していた。最早、エンドレスとヴァルキリーはDASの秘密を知ったお尋ね者。秘密を暴露されれば士気低下だけではない。連合宙軍の地位は失墜する。その為、連合宙軍からも追われる身となっていた。
「VOIDも軍も敵ですか。
この世界には俺達の安住地の地はありません。今はヴァルキリーが一緒に戦ってくれます。ですが……」
Gacruxは再びヴァルキリーに触れた。
冷たい肌が手に伝わる。
再び出会えはしたが、エンドレス以外の存在が二人がこの世にいる事を許されない。
またヴァルキリーを失う事になれば――Gacruxは、どう生きていけばいいのか。
その答えは分からない。
だが、それでもGacruxは出撃する。
迷う時間は、限られているのだから
「行きましょうか。二人を別つその時まで」
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2726/Gacrux/男性/25/闘狩人(エンフォーサー)】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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近藤豊でございます。
この度はノベルの発注ありがとうございます。
今回は私が夢シナリオで展開しているヴァルキリーシリーズの一幕とさせていただきました。大切な人がいなくなった世界で、瞬きのような邂逅。しかし、世界は二人の存在を許さない。戦いの中へと駆り出される二人は、居場所のない世界でどのような選択をするのか――。
そんなイメージを述べるにできれば……と考えていましたが、字数制限の壁は厚いですね!
まだおまかせノベル期間中となります。機会がございましたら、是非ご検討下さいませ。