※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
ちいさなことさえ

(今日はこの街に来るらしいけど)
 まだ時間に余裕はあるというのに、落ち着けない気がして。道の端に寄った未悠はゆっくりと、意識して呼吸をしてみる。
(ああ、駄目ね)
 今度は時間を確認する。事前準備を考えたら、もう着いているはずだ。
(同じ場所に居るって、思ってしまっただけなのに)
 腕を迷わせる。
(場所が、まだわかっていないのに)
 もう一方の手で引き寄せて、抱き込んで。そのまま自分の身体を抱きしめた。
 何かが足りなくて、隙間に風が吹いているようで。
 身体だけじゃなくて心が寒いと、心身ともに示してしまっている。
「少し、はしゃいでしまっているのかしら?」
 あえて言葉にしてみたら、少しだけ落ち着いた。
 緊張もあるかもしれないけれど、でも、期待があるのも事実で。
 そっと、己を腕から解放する。微かにあった震えは消えていた。

 初めて来る街で道を聞くのも、今では当たり前にこなせるようになったと思う。
「すみません、広場にはどう行けばいいかしら?」
 ハンターとして、突如独り立ちを余儀なくされた当初と比べたら、ずいぶんと立ち回れるようになったと思う。地に足がついたというところだろうか。
(最初は、もっとぎこちなかったわよね)
 親切に道を教えてくれた女性に礼を告げて、笑顔で手を振り合いながら別れる。こんな風に当たり前に浮かべられる微笑みが、前は苦手だった。
 笑顔にはなれたのだ。ただ、それは表面を取り繕っただけの作ったものだった。
 ハンターとしての活動を始めて、歪虚を倒して、戦う事の熱に溺れて、けれどそこから救いあげられて。
 徐々に人との関わりが増えていって……今では大切に想う人と、親友と……1人ずつ思い返すとキリがないけれど。かけがえのないのない人達が随分とたくさん、増えて。
 自然な、さっき女性に向けた笑顔を当たり前に浮かべられるようになった。
 それまでは、笑顔と同じように。どこかに壁を作って、教えられた規格の枠を生み出して。その中にぴったりはまる自分を作っていた。
(私はきっと、この世界で。『私』をみつけたのよ)
 なんて、思ってしまうのは……家族に対して、薄情だろうか……?
 嫌いだったわけではない。感謝はしていたし、家族としての愛はあったと思う。
 ただ柵とか、損得とか。そんな事ばかりを考えなければいけない、己を取り巻く環境が当たり前で。将来の自由を諦めていたのは事実で。
 故郷が恋しくないわけではない。かつて当たり前にあったものが今はない、なんて思う事はしょっちゅうだ。
 割り切ってしまうだけでは終われない何かは、常にどこか、胸の内に残っているけれど。
「……こんなでは駄目ね!」
 首を振って、顔をあげる。
 丁度、甘い香りがしたから。それを切欠にしたのだ。
「あぁ……美味しそう……」
 真面目な事を考えるのをやめた途端に、ふらふらと脚が向かってしまう。
 今日の目的は別だというのに、うまく己が制御できない。きっとそれは、いつも止めてくれるような親友が誰も、今日は傍に居ないからで。
(うぅ、寄り道でも、まして浮気でもないのよ……でも、少しだけ……そう、差し入れ用なのよ!)
 一番大事な目的と、己の願望と。それぞれとうまく折り合いをつけた未悠は、屋台に正面から向かっていった。

「えぇ……こんなに人気があったの!?」
 予想以上の行列に、眼を見開くしかない。
「早く来たつもりだったのに。って、いけない! 私も早く並ばなくちゃ!」
 慌てて近くの帝国兵に声をかけ、最後尾の看板の場所を聞き出した。

『このあと販売を開始する!』
 スピーカーから聞こえる声とは別に、販売担当の2人が、トラックの二階部分から手を振っている。
『腕章をつけた帝国兵から説明があったと思うが、1人につき1個ずつの引き渡しだ! 複数欲しい者はもう1度並んでほしい! これは、少しでも多くの者に届けたいというイベントの趣旨だ! では、よい聖輝節を過ごせるよう祈って……皆の腹をくちくする作戦を遂行する!』

 未悠は列の流れに身を任せながら、先ほど見た微笑み担当ホワイトナイト、その姿を思い返していた。
 いつもの服装にほんの少し、聖輝節の装飾を足した程度。けれどそのさりげなさがより格好良さを引き立てていたと思う。
(……緊張してきたわ)
 久しぶりに会うからだろうか。自分の鼓動が早くなっているのが良くわかる。
「出張販売の接客なんて、いつも以上に大変そうだわ」
 彼の事だから、何でもない顔でこなしているのだろうけれど。身体を心配する言葉くらいは伝えたい。
(仕事の邪魔になりたくないから……スムーズに進めるよう、しっかりシミュレーションしておかないと)
 さっき購入した差し入れを渡して、ケーキを買うためのチケットと、クリスマスケーキを交換して……
(ちょっとくらい、見つめても大丈夫よね?)
 未悠の順番が回ってくるまで、あと少し。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3199/高瀬 未悠/女/21歳/征霊闘士/積み重ねて、伝え続ける】
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
未悠(ka3199)
副発注者(最大10名)
クリエイター:石田まきば
商品:おまかせノベル

納品日:2019/01/11 13:43