※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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ハーモニーは続く
閉め切った窓を開け放てば、爽やかながらも冷たい風が頬を撫で付けて、ルナは思わず目を閉じた。吐き出した息は白く、先程まで歩き回っていたこともあって聴こえなかった鳥の鳴き声が優しくその耳をかすめる。
新年を迎えたとはいっても、鳥や動物、そして彼らを育む樹たちには一切関わりのないことだ。勿論大所帯でわいわいイベントごとを楽しむのも嫌いではないけれど、お祭り騒ぎから遠ざかってさえずりや風が葉を揺らす音に耳を傾け、土や木の匂いを感じるのもまた楽しいもので。何より自分たち小隊“組曲”はハンターとして共に戦場を駆ける反面、歌声を含む自身の楽器を持ち寄り、合奏を好むメンバーが多いのだ。周囲に気兼ねなく音を奏でられる、この郊外のログハウスが集合場所になるのは必然だった。そんな所でこの頃に開くものといえば、当然新年会である。備え付けのキッチンで調理をしたり、家から持ち寄った料理を並べ、ホームパーティーを開くことになったのは一体誰の提案だったか。何はともあれ六人も同時に都合がつくのは珍しく、自分たちとしては随分賑やかな催しになることだろう。そうして間近に迫ったひと時に思いを馳せて、
「ルナ、手を貸さなくても大丈夫かしら?」
聞こえた声に思わずびくりと肩が跳ねる。
「う、うん、大丈夫! エーミさんが作ってる間に、ぱぱっと片付けちゃうね!」
振り返って伝えればリビングの扉のところに立ってこちらを見ていたエーミが訝しげな顔をして、しかしそれで納得したのか、察したけれど優しくスルーしてくれたのか、そう、と頷いてキッチンのほうへ戻っていった。彼女の姿が見えなくなったのを確認し、そっと自身のお腹を押さえる。音楽だけでなく料理も上手いという女子力の塊のような面々が張り切っているのもあり、朝食をかなり控えめにしてしまった。ここに彼がいるわけでなし、そこまで気にする必要もないと思うのだがやっぱりちょっと恥ずかしかった。
「さて、お掃除お掃除」
気持ちを切り替える為にも小さく呟いて、窓は皆が来るまでそのままに、中断していた作業を再開する。といっても集合が珍しいだけで人の出入りはそれなりにあり、後は簡単に拭いてテーブルクロスや食器を用意するくらいのものだ。それが終わったらルナの直後にやってきて調理に取りかかっているエーミの手伝いをしようと心に決める。
てきぱきと動き回っている間に空気の入れ替えも済んだので、窓を閉めようとしていると。見知った姿を認め、ルナは少し身を乗り出して声をかけた。
「アルカちゃん!」
「おー、早いねっ」
気付いて窓の前まで歩いてきたアルカは見るからに暖かそうな毛皮のカーディガンを纏い、何気なく視線を落とせば、両手に大荷物を持っている。きらきらと眩しいくらいの笑顔を向けられて、つられるように笑みが零れた。
「他にも誰か来てるのかな?」
「まだ、エーミさんだけだよ」
「さすがアドリブの女王っ! ボクにはまだ真似出来ないなぁ」
双子の兄の女子力は皆無、という評価も既に覆りつつあるが。溜め息を零してさっと気持ちを切り替えるとアルカは片方の鞄を掲げてみせた。鼻先に柑橘類の爽やかな香りが漂う。自信ありげな彼女が軽く顎を引けば髪飾りについた宝石がきらりと太陽の光を跳ねた。
「あっ」
眩しさに視線を逸らしたら偶然に道を歩く友人たちの姿が目に入った。ルナの視線を追ったアルカが名前を呼ぶと、お喋りに興じていた彼女らが気付いてこちらを見る。エステルと未悠が手を振りユメリアが会釈するのに応えれば背後でエーミが終わったわよと声をかけてきて。全員が揃ったので後は料理を並べればパーティーが始まる。
◆◇◆
ルナと玄関まで出迎えに行くと、彼女と話していたアルカが上がり框に一旦手荷物を置き靴を脱ぐところだった。挨拶を交わしてルナと分担し、鞄を抱え上げる。ダイニングテーブルまで運ぶ頃には再び扉が開いて、他の三人の声がここまで聞こえてきた。ルナとも手伝ってもらいながら話はしていたが、六人ともなると一気に場が華やぐ。
他のメンバー――最近はアルカにもその機会が増えたが、普段小隊で集まるときに調理を担当するのはエーミであることが多い。エーミにとって魔法とは、人々を笑顔にするものであり、それは誰かを守るための魔術も心を癒す音楽も、そして味覚以外でも人を楽しませることの出来る料理もすべて同じで。だから、心情的には全く苦ではないのだが、さすがに六人分ともなると主導するにも効率が悪過ぎる。新しい刺激を受けるのも勉強になると友人たちの料理を楽しみにしていた。
「あ、こっちはケーキだから後でね!」
アルカが片方の鞄をキッチンのほうに持っていき、合流した未悠も続く。エステルはルナが暖炉の前でしゃがんでいるのを見るとそちらへと小走りに近寄っていった。
「ユメリア、良ければ料理を運ぶのを手伝ってくれる?」
「は、はい!」
どちらを手伝おうか迷っている様子の彼女に声をかければ、思いのほか元気な返事が返ってくる。少し緊張した面持ちだったのが一瞬で嬉しさに表情が緩み、微笑ましさにエーミはくすりと笑った。元々控えめな性格なのに加え、組曲のメンバーとして日の浅いユメリアは、まだどこか遠慮がちな部分がある。それは決して悪いことではないし、性急に距離を詰めなくとも時間が経てば自然と打ち解けるものだ。けれど同時に手を差し伸べて少しでも長く、皆と一緒にいる時間を楽しんでほしい。そんなふうに思うのも確かだった。
「まさにお正月、って感じでいいわね」
キッチンでは未悠とアルカが二人で重箱の蓋を少し傾けて、一の重の中を覗いている。未悠はエーミと同じく日本出身だから馴染み深いはずだ。声もどこか感慨深く聞こえる。
「味見してみる?」
「え、いいの?」
聞き返した彼女の視線は無意識にだろう、少し後ろから見ているユメリアへ注がれた。エーミが蓋を取ってこれなんかどうかしら、と示してアルカが箸袋を渡し、未悠が姿勢の関係から上目遣いに見つめる。注目を浴びたユメリアは戸惑いつつも箸で伊達巻を取るともう片手を受け皿にして未悠の口元へと差し出した。人に慣れた猫のような仕草で一口大のそれを食べる未悠の瞳は輝いていて、咀嚼すると満面の笑みがこちらへと向けられる。
「甘くて美味しいわ!」
と率直な感想の後で、
「エーミ、料理を教えてくれないかしらっ!?」
両手を合わせてお願いをしてくる。未悠が料理下手なのは周知の事実で、けれど同時にハンター業の合間を縫って頑張っているのも皆知っていることだ。エーミも何度か助言をした記憶はあるがそういえば一から十まで工程を見守ったことはない。
「構わないわよ。そろそろバレンタインも近いしね」
含みを持たせて返せば、寒い中を歩いてきた為に仄かに色付いていた未悠の頬がみるみるうちに赤く染まる。もう、と軽くエーミの腕を叩く彼女の脳裏には愛しの彼の姿がよぎっていることだろう。お菓子作りはあまり得意なほうではないが、二人でやるなら楽しいに違いない。
「何か手伝えることはありますか?」
ひょっこり顔を覗かせたエステルに声をかけられ、四人は顔を見合わせる。
「それじゃあお願い出来るかしら?」
「はーい!」
親友二人組が揃って答える。身内の集まりなので脱線もいいが、食事が冷めるのはいただけない。改めて皆で準備に取りかかった。
◆◇◆
「えっと。さっきもう挨拶しちゃったけど、新年明けましておめでとうございます」
と、乾杯の音頭を取るのはルナなのだが、言うと同時に頭を下げてグラスを揺らすので大変危なっかしい。彼女の右手側に座っているエステルがさっと布巾をスタンバイする辺り、さすが親友である。零さずに済んだのでアルカもほっと息をつき、五人も改めて挨拶を返す。
「去年は本当に色々とありがとう。皆のお陰で、より充実した日々が送れたと思います」
率直に思うがまま語るルナの表情は柔らかく、一拍置いて順に一人ずつ視線を交わす。
「どうか今年もよろしくお願いします。乾杯!」
『乾杯!』
唱和し、グラスを合わせれば涼やかな音色が小さく鳴り響いた。半数が成人しているが全員ノンアルコールだ。それでもこうして乾杯した後で口にすれば雰囲気は満点である。
「はい、召し上がれ」
エーミが重箱の蓋を開けてひと重ねずつテーブルの上に広げていく。先程は一の重しか見ていなかったが、魚介の焼き物だったり野菜の煮物だったりと、それぞれに内容が違っていて色味も鮮やかだ。
「エーミさんのはおせち料理、だったかな?」
「そう、これがリアルブルーのおせち料理。お口に合うかしら?」
皆が小皿と箸を手に何を取ろうか話しているのを、エーミは口元に手を添えて微笑みながら見守っている。他に料理の宛てがあったから配慮してだろう、六人で分けるには少し少なめなのがまた悩ましい。無作法かもしれないと思いつつも別の重から直感で一つずつ取った。
「美味しい!」
と真っ先に歓声をあげたのはルナだ。アルカも未悠が甘いと言っていて気になった伊達巻を口に運び、その美味しさに頬が緩んだ。そうなると他の料理がどんな感じなのか気になって、味わうのもそこそこに次は煮物に箸が向く。
「んー、これも美味しいよ! 色んな味が楽しめるのも面白いねっ!」
「ふふ。エーテルクラフトの魔法、とくとご堪能あれ」
万霊節や聖輝節はリアルブルー由来だと気付かなかったくらいにこちらでも馴染み深いが、このおせち料理は中々珍しい。楽しそうなエーミが手を伸ばしたのは、アルカが持ってきて三つずつ取り分けたものだった。
「ドルマデスなんて随分手間がかかってるじゃない?」
「やっぱりエーミは知ってるよね」
米に玉葱、挽肉や香味野菜。それらを混ぜてブドウの葉で包み、スープで煮込むのがアルカの郷土料理であるドルマデスのざっくりとしたレシピだ。調理方法自体は簡単だが、工数が多いので確かに手間はかかっている。それを保温して持ち込み、皿に並べる際にレモンソースをかけた。
「この葉も一緒に?」
「うん、そうだよ!」
あれだけ料理が上手いエーミも実は少し不安だったのかもしれない。先程の彼女のようにユメリアがドルマデスを口に運んで食べ終わるまでをつい眺めてしまう。そうして皆から美味しいと言ってもらえて、ほっと肩の力を抜く。
「やはり、愛のお力でしょうか?」
「新婚だものね」
未悠が息をついたのは料理への感嘆か話題ゆえか。
「確かに、結婚してから作れるレシピが増えてきたなーって思う。その時期によって旬の食材とか変わるじゃない? 前は新しく覚えるのが大変ですごく嫌だったんだけど」
一度言葉を切り、唇の前で手を合わせて笑う。頬が紅潮しているのは自覚済みだ。
「旦那が美味しそうに食べてくれるからさ。それが嬉しくって、つい頑張っちゃう」
アルカが言い終わると同時にきゃあと悲鳴じみた歓声があがる。既婚者なのはアルカだけ、どころか、現状特定の相手がいるの自体そうだろう。話を聞いていると脈は充分ありそうなのだが、と話は料理から恋バナへと移り変わっていく。
◆◇◆
「それじゃあ、お正月料理も旦那さんに作ってあげたのかしら?」
「うん、お互いに時間が取れたからね。元日はずっと一緒だった」
「クリスマスのときは?」
エーミのおせち料理とアルカの郷土料理、それからエステルが今朝母と一緒に作った、ほうれん草とベーコンのキッシュ。それらをテーブルに並べたときと同じくらい未悠の瞳はきらきらと光を放っている。身を乗り出さんばかりの勢いでこの場で唯一の既婚者の惚気話を求めては感嘆の息を漏らし、ただ純粋に羨ましそうに目元を和らげる彼女の姿は友人という贔屓目を抜きにしても可愛らしい。これは女子会恒例の恋愛話に流れていきそうだ、と楽しい予感にエステルの頬も緩んだ。しかし、こちらから話題を振れば照れ隠しなり話の切り時なりにじゃあそっちはどうなの? と返されるのがお約束というもの。未悠が一年以上経っても新婚のようにラブラブなアルカの話を聞きたがったように、エステルも自分のことを話すより人の話を聞きたいタイプなのだ。
と考えればやはり、自然と目が向いたのはルナだ。大切な人に幸せになってほしいのは勿論のこと、付かず離れず曖昧な関係も気付けば数年に渡る相手が兄なのも大きい。六人兄弟の三番目と四番目という近しさもあって甘えている自覚はあった。
アルカが未悠と一緒に出掛けたときの宝石を夫に細工してもらった、とヴェールに付く髪飾りを満面の笑みと共に見せてくれたり。話題を振り返された未悠が万霊節での意中の相手との一幕を気恥ずかしそうに、蕩けるような声で話すのにうんうん相槌を打ったり。ルナが聖輝節の少し前に行なわれたパーティーでの会話を話したときには、人目を憚らずにガッツポーズをとりたくなった。恋愛沙汰に限っては頼りない兄もやれば出来るのだ。続きはと胸を膨らませたところで、
「そろそろ、デザートの時間かな」
本人は頑なに認めない天然が発揮されたのか、わざとはぐらかしたのか。確かに話の切りはいいけど! というエステルの胸中の叫びも虚しく、料理を並べているときに食べきれるでしょうかと話していたのが何だったのかと思うほど、話を振ったり振られたりしているうちに空になったお皿を手にルナが立ち上がった。次いでユメリアがティーポットを取ったので彼女の前にあるお皿はエステルが回収する。目配せすれば微笑んでの会釈が返ってきて、笑い返しつつ持てるだけ持って一緒にキッチンに向かう。
「悪いんだけど、私のスイーツも持ってきてもらっていい?」
「あ、ボクのもお願い出来るかな」
「はーい!」
リビングはメンバー一同が集まる場合を想定して広めだが、キッチンは設備を一通り揃えた結果やや手狭なので六人で動き回るのは厳しい。その為、自然と入れ替わり立ち替わり分担が出来るようになってきた。二人が何を持ってきたのか道中でも秘密にしていたので、自然と期待が膨らむ。もし残ったなら六等分して持ち帰ればいい。綺麗に詰めれば帰ってからもこの楽しさを思い出せることだろう。
(ふふふ、兄様の所に寄って自慢しちゃおうかな)
少しくらいなら分けてあげてもいいかも。と兄に今日のことを話す様子を思い描いた。
(でも皆美味しいだろうから残らないかも……幸せ……)
今ここにいるのは素敵な人ばかりで、百花繚乱という言葉はまさに彼女らのことを言うのだと思う。自分もその一員であることにはくすぐったさを覚えるけれど。幸せなのもまた確かだった。
(大変な戦いも皆で、元気に乗り越えてゆけますように)
新年早々の激動の予感も皆と一緒なら立ち向かえるから。だから祈りを込め、そして今日は誰が女王に選ばれるかを想像してエステルはそっと笑った。
◆◇◆
「考えることは一緒かぁ」
「みたいですね」
アルカとエステルが言葉を交わして笑い合う。待っている間にエーミの講座を聞きながら、その料理技術の高さに改めて感じ入っていると運ばれてきたのはアルカとエステル、それから未悠が持ってきたスイーツで。さすが、その菓子の名称を当てたエーミにくすくすと楽しげなエステルが解説を始めて、それを聞いたアルカがボクのも似たような感じだよと目を丸くしたのが先程のこと。
エステルが近所にある素敵なお店で買ってきたというガレット・デ・ロワはパイに紙の王冠が乗っているのが目を惹く菓子だった。中にフェーヴという陶製の小物が入っているらしく、それを引いた人に王冠が与えられ、今年一年幸せに過ごせるというものだ。
アルカが作ってきたもう一つの郷土料理、ヴァシロピタのほうは生地にヨーグルトやオレンジジュースを混ぜたパウンドケーキで、表面を粉砂糖で白くコーティングしてあるのが特徴。こちらにはコインが入っていて当たると幸運が訪れるという点は共通している。
同一かどうか分からないが未悠も聞き覚えがある気がするので、リアルブルー由来の文化なのかもしれない。と考えていると、
「では幸運も二倍ですね」
言ってユメリアが笑うので、そうねと相槌を打ちつつ、未悠は彼女が引き当てないだろうかと密かに願った。優し過ぎる彼女は親しい相手どころか初対面の人にさえ心を砕き、悲しみを分かち合おうとするから。そんなところも好ましいけど、もっと笑顔を見たいとも思うのだ。
その場のノリでじゃんけんして勝った順に選んでいく。未悠がお気に入りの人気店で買った限定スイーツは持って帰るのを前提に数も種類も豊富なので、今食べる分だけを置いてある。
「あっ!」
誰からともなくヴァシロピタから食べ始めて、小さく声をあげたのはルナだった。隣に座るエステルが彼女のお皿を覗き込み、アルカがぐっと身を乗り出す。向きを変えれば、ナイフを入れたところにある銀色の包みが未悠からもよく見えた。その時点でルナが当たりを引いたのは分かったが、中から金貨が出てくると口々におめでとうの言葉をかける。はにかむ彼女の顔を見て、自分のことのように嬉しく思った。
何よりアルカが急かすので、ガレット・デ・ロワにも皆同時に手をつけ。かちゃという高い音は直ぐ傍から聞こえた。
「やったじゃない!」
未悠が肩に手を乗せそう言うと、ユメリアは驚きと嬉しさが入り交じった表情でこちらを見返した。そうして取り出されたのは青い鳥。ユメリアの髪や瞳の色に近い淡い青でよく似合っている。
「さぁ王冠をどうぞ、お姫様?」
回り込んだエステルが片膝をついて、求婚する王子のように恭しく王冠を差し出した。
「では頂戴致します」
と返すユメリアの声は戯けたようで、しかし本物の女王か姫のように優雅な動作で頭の上に乗せる。皆からの祝福の後によく似合ってるわとエーミに褒められた彼女が顔を隠すのを見ていると不意に恥ずかしそうな笑顔を向けられて、何故か未悠にもそれが伝染る。
細やかに気を配ってお茶を注いだり料理を持ってきたりと動き回っていたユメリアを女王になったからという理由で席に留め、ルナが彼女に楽器や歌について話題を振る。音楽の話になれば持ち出さないわけもなく、シャランとリュートを奏でたのが自然と一節分の弾き語りに繋がった。
「素敵な歌声。胸に染み入るようです」
胸に手を当てうっとりと言うユメリアにルナは微笑み、軽く首を傾げて提案する。
「折角だから、皆で合奏しましょうか」
「じゃあ、最初のフレーズはユメリアさんに是非!」
エステルのお願いに戸惑いながらも彼女は頷いた。
◆◇◆
「――この仲間との出会いに感謝を。今年も皆で頑張りましょう」
暖炉の前に扇状に椅子を並べて、顔を見合わせて笑った。
「さあ、奏でましょう♪」
弾む声で言うルナに視線を向けられて仲間たちを見やる。そうすれば自然と緊張も解けて、ユメリアは抱え持った琵琶で最初の音を鳴らした。合奏したことのある曲だが、出だしを一人で奏でるのは初めての経験だ。
穏やかな曲調ゆえに生まれる物悲しさはルナのリュートが和らげ、次いでエステルのフルートとエーミのキーボードが加われば一気に明るさが増していく。そこに目配せして同時に口を開いたアルカと未悠の声が綺麗に重なり、始まりを祝福する言葉を歌で奏でる。
未悠は凛としていながらも優しさと温もりを感じさせる歌声。アルカは歌い手であり、またその闊達な性格から時折アドリブを交えるがそれも彼女らしくて魅力的だった。エーミは演奏しながら周りの様子を一番見ていて、打ち合わせたように即興に合わせていく。エステルは脇を固める堅実さの中に繊細な音を込めて、ルナは指揮者のように個性的な面々を纏めあげる。
一曲終わってもまた一曲。時には自分は参加せずに仲間の音楽に耳を傾ける。そんな言葉を必要としない時は瞬く間に過ぎ去っていった。
気付けばすっかり夕暮れ時を迎え、射し込む橙色の光がユメリアと、そしてその膝に頭を落ち着けた未悠の二人を照らしていた。
遠慮する必要がないのも手伝って、全員が思う存分歌って演奏した観客のいない、けれども満ち足りた演奏会。ソロのときには今年の抱負を語って、自分の番になるとユメリアは自身の話だけでなく、皆の人柄やこれまでの功績、そしてこれからの活躍をイメージした曲と詩とを披露した。恥ずかしそうに、あるいはオーバーじゃない? なんて苦笑をして。それでも喜んでくれたからやってよかったと思う。
しかし、お開きになって暫くすると終始幸せそうに料理やスイーツを頬張っていた未悠がお腹が膨れたからか、眠そうな様子で片付けをしているのが気になった。そこで彼女を何とか言い含めてとりあえずソファーに横たわらせ、別の部屋から毛布を持って戻ると、戦場で武器を手に戦うとは思えない、たおやかな腕に引き留められた。真紅の瞳が甘えを帯びる。ただそっと手を重ねてそれから。
「女王様も休んでなさいな」
と、エーミに優しくソファーに座らされ、
「いつもお姉さんしてても、格好良くても、ミユも女の子だもんね」
目を閉じた彼女をしゃがみ見るアルカが微笑む。
「未悠さんが持ってきて下さったケーキ、可愛く詰めちゃいますね」
と、エステルが至極楽しそうに言って、キッチンのほうへ向かい、
「このまま皆で泊まっちゃう?」
ルナが悪戯っぽく笑った。それも素敵ですねと笑い返す。
『私の歌声に彩りが咲いたのは、ここにいる皆のお陰。だから、沢山の優しさと楽しい思い出に――感謝を込めて』
演奏会のときに未悠が話した言葉を思い起こす。それは、ユメリアにとっても同じだった。勿論その皆には未悠も含まれている。微笑み、手を握れない代わりに紫がかった艶やかな黒髪を撫でた。瞼にかからないよう流し、いい夢を見れるように祈りを込めて。女王に選ばれた自分の幸運を体温と一緒に伝えられればとも思った。
自分たちに共通するのはほんの一部だけで、出生も考え方も違うけれど。それでも、今ここで幸せを分かち合えることが途方もなく嬉しくて、だから、これからも前を向いて未来の為に歩き出せる。
「今年もいい年になりますように……」
大切な人たちと、彼女らの大切な人たちと。そうして繋がる全ての人を思い、ユメリアは瞼を下ろして密やかに囁いた。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1565/ルナ・レンフィールド/女性/16/魔術師(マギステル)】
【ka0790/アルカ・ブラックウェル/女性/17/疾影士(ストライダー)】
【ka2225/エーミ・エーテルクラフト/女性/17/魔術師(マギステル)】
【ka3199/高瀬 未悠/女性/21/霊闘士(ベルセルク)】
【ka3783/エステル・クレティエ/女性/17/魔術師(マギステル)】
【ka7010/ユメリア/女性/20/聖導士(クルセイダー)】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
悲哀と絶望の尺不足。都合上どうしても入れられなかった
台詞や描写もあって、申し訳なくも楽しく書いていました。
新年会というか、女子会的な雰囲気がとても可愛くて。
恋バナももっと広げたかったんですが、進展中のところを
下手に捏造するのはなあ、とぼやっとした感じにしてます。
今回は本当にありがとうございました!