※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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受難の日
「……えぇ……」
派手な出で立ちの女性たちに囲まれて、迷惑そうに呟くリク。
――何でこうなったのか……と問われたら。
彼は恐らく『こっちが知りたい!』と叫ぶのだろうけれど。
――その日。彼は気心が知れた友人達と一緒に、海沿いにある観光地に遊びに行く約束をしていた。
現地集合、と友人に言われたリクはビーチに向かう道に立ち、目の前に広がる光景に目を細める。
良く晴れた空。太陽に煌く海。踊るような波。
パーカーをはためかせる海風が涼やかで気持ちよくて……彼はそれを、思い切り吸い込む。
普段依頼で忙しくしているからか、こういう『日常』がやけに身に染みる。
今日はのんびりできたらいいな……。
……さて、待ち合わせにはまだ時間があるし、ガイドブックでも見ようかな。
未悠は限定のかき氷が食べたいって言ってたよね。
めいちゃんは特に希望言ってなかったけど、気に入りそうな店あるかな。
今のうちに調べておこう――。
そんなことを考えながら、手元の本に目を落とす彼。
――そんなリクに、じっとりと熱い視線を送っている集団がいた。
友人達をきちんとエスコート出来るようにと現地の地図を頭に叩き込んでいたリクは、残念ながらその集団には気づかず。
どーん! と後ろからぶつかられてつんのめる。
「うおっ!!?」
「あらぁ~! ごめんなさぁ~い! 私ったらよろけてしまって~」
「あ、いや。僕もこんな往来で本見てたから。ごめんね。……怪我はない?」
分かりやすく科を作る女性を素で心配するリク。
彼女たちの行動を見ている者がいたら、今のはよろけたんじゃなくて突撃して行っただろ!? とツッコむところなのだが、残念。ツッコミは不在だった。
女性たちは整った顔に笑みを乗せると、リクを見上げる。
「ねえ、貴方。キヅカ・リクさんじゃありません?」
「……? そうだけど。何で僕のこと知ってるの?」
「そりゃあ、キヅカさんと言ったら有名ですものぉ!」
「数多の戦域でのご活躍されてるでしょう? こんなところでお会いできるなんて……」
「これってもしかして運命かしら! きゃあ!」
「キヅカさんって意外とお若いのねぇ。美丈夫でいらっしゃるしぃ」
「ここでお会いできたのも何かのご縁。一緒にお食事でもいかが?」
「えっと……?」
リクに口を挟む隙を与えず、一気に畳みかける女性陣に引き気味のリク。
ぐいぐいと迫って来る彼女たち。ここまで露骨に押されると、鈍感な彼でも流石に気づく。
――あれ。これってもしかして逆ナンってやつじゃ……?
……参ったな。未悠とめいちゃんがもうすぐ来るのに。
とにかくこの状況を何とかしなくちゃ。
その為にはまず、敵を知らないと……。
引き攣った笑みを浮かべながら女性陣をまじまじと見つめるリク。
適当なことを言って立ち去ればいいものを、そう出来ないというか、しないところがまた女性陣に付け入る隙を与えているということに、悲しいかな当のリクは全く気付いていない。
自分を囲んでいる女性は金髪と赤毛、黒髪の3人。
彼女たちはとても洗練されていて、大人な雰囲気を醸し出している。
白い肌に色とりどりの水着をまとって、とても目を引くし。
顔立ちも整っているし、華やかだったけれど――。
――正直、リクの好みではない。
もちろん着飾った女性も悪くはないと思う。
これもまた、彼女たちにとっては生き残る為の武器なのだろうから。
でもリクは――内面の美しさが表にも出ているような、そんな人間として尊敬できる人が好きだ。
そういう事情を抜きにしても、やはりお誘いはお断りの一択しかない。だって友達も待ってるしな!
こんなに綺麗なんだから、僕なんて相手にしなくたって、引く手数多だろうに……。
そう思いながら掴まれている腕をそっと離そうとするリク。
ところがどっこい。女性陣は更にリクの腕に自分の腕を絡めて来る。
……いい加減離して欲しい。ここは説得しかないか……?
「あの、申し出はありがたいんだけど、僕友人達を待たせてるんで……離して貰えないかな?」
「あらぁ。ご友人と一緒なのぉ?」
「是非そのご友人もこちらにお呼びくださいな」
「ええ、ええ。そのキヅカさんのご友人ならさぞお強くて素敵な方でしょうし。ご紹介戴きたいわ」
めげない女性陣にドン引きするリク。
友人達は確かに強い。でも女の子なんだけど……!
きっとこの人たち、友人って男だと思ってるよね?
それ以前に待ち合わせに彼女たちを連れて行った日には、きっと未悠の怒りを買って首と胴体が泣き別れることになる。
それくらい、友人は強いしリクに対して容赦がないのだ……!
ヤバイ。早いとここの状況を何とかしないと……!
「と、とにかく僕、先を急いでるんで……!」
「あらぁ。そんなツレないこと言わないでぇ?」
「そうですわ。私達、この町のいいところ知ってますのよ?」」
「キヅカさんを退屈させませんよ。お友達も一緒に行きましょう?」
先を急いでるって言ってるのにこの諦めの悪さは何なんだ!?
というか、さっきより身体が密着してきているような……。
…………。
この、腕にあたる柔らかくて温かい感触はアレですよね。
女子特有の、こう……男子の夢が詰まったやつですよね。
くそっ。これが俗にいうハニートラップというやつか……!
いや別に、彼女たち好みじゃないですよ?
でも! 僕だって男だし!!
そりゃあそういうのに興味がない訳じゃないし!!
正直おおきいおっぱいは大好きですし!!
……って僕は!! 一体誰にいい訳してるんだよ!!!!
「……リクくん?」
「えっと……何してるんですか……?」
「……えぇ……!?」
不意に後ろから聞こえてきた2つの声。
よりにもよって。このタイミングなのか。
ひどい。この世に神はいないのか。
……この声は知っている。知らない訳がない。
ヤバイ。強い視線で首筋がビリビリする。動いたら殺られそう。
が、振り返らないという選択肢はない……!!
恐る恐る振り返るリク。そこには、額に青筋を浮かべている未悠と、引き攣った笑みを張り付けためいが立っていた。
「め、めいちゃんどうしたの?」
「どうしたって……時間になっても現れないからリクさんを探してたんですよ」
「えっ。時間過ぎてた!!?」
「あら~。女性に夢中で時計見てなかったのかしら???」
「あっ。あっ。未悠ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
未悠の怒りのオーラが超こわい。条件反射で謝るリク。
あっ。めいちゃんも何気にめっちゃ怒ってませんか!?
「……そうですよね。待たせてる相手の片方がちんちくりんの妹分ですから、それより綺麗でスタイルもいいお姉さんのほうがいいですよね」
「えっ。何でそうなるの?」
「リクくん、自分の置かれてる状況理解してる?」
「………???」
めいと未悠の呟きに我が身を振り返るリク。
あああああ! そういえばお姉さんたち僕の腕に縋りついたままだったーーー!!
ようやく己の状況に気付いた彼は、慌てて女性陣の腕を振り払う。
「あ、あの! 友人が迎えに来てくれたし僕これで失礼するよ! 未悠、めいちゃん行こう!!」
「あっ。あの、ちょっと……!?」
「さようなら!!」
「あっ。キヅカさぁん! 待ってぇ!」
未悠とめいの手を掴み、全力で逃走を図るリク。
もっと早くこうすれば良かったものを、しょうがないリクくんである。
リクは人気のない浜辺まで2人を引っ張ってくると、とうっ! と華麗にジャンピング土下座を決めた。
「……本当に申し訳ございませんでした!」
「……つかぬことを聞くけど、リクくんは何が悪いと思ってるのかしら?」
頭上から聞こえる未悠の冷たい声。
うわあああ! こわいいいい!!
全身からぶわっと溢れる冷や汗を感じながら、リクは必死に言葉を紡ぐ。
「えっと、遅刻したこと……」
「それだけ?」
「あの女性陣についてはホント何で声かけられたか全然分かんないんだけど、上手く躱せなかったのは反省してる」
「ふーん? 抱きつかれて鼻の下伸ばしてるように見えたけど?」
「いやいや! あれは事故! 事故だから……!!」
「そう。今のめいちゃん見ても同じこと言える?」
未悠の言葉を受けて顔を上げるリク。そこでめいが涙目になっているのにようやく気付いたらしい。分かりやすく狼狽える。
「……め、めいちゃん!!? どしたの!!?」
「今日すごく楽しみにしてたんですよ……。リクさん来なくて、何かあったのかと……事故にでも巻き込まれたのかと思って、すごく心配で……。リクさん、普段から身体張る人だから……」
「わあああ! ごめん! 本当ごめんね……!」
純粋に心配されていたのかと思うといたたまれなくて、コメツキバッタのように頭を下げるリク。
未悠は可愛い妹分を引き寄せて、よしよしと頭を撫でる。
――今めいが着ている服は、今日のお出かけの為にと未悠と一緒に買いに行ったものだ。
淡いブルーのロングフレアのワンピースに、白のレースのボレロを羽織り、サンダルもワンピースの色と合わせて揃えた。
今日のお出かけを本当に楽しみにしていたようで、何度も何度も試着して――その喜びようを近くで見ていて、かつ、彼女の中に芽生え始めている淡い気持ちに気付いている者としてはですね。
「……やっぱりリクくんは一度地獄に落ちればいいんじゃないかな?」
「わあ。未悠さん超物騒! 本当ごめんなさいってーーー!!」
ぽろりと本音を漏らす未悠に悲鳴を上げるリク。めいはアワアワと慌てて未悠を見上げる。
「未悠さん、あんまり怒らないであげてください。……ほんとは、分かってるんです。リクさん優しいから、断れなかったんですよね? 心配もしましたし、寂しかったですけど……無事だったからいいです」
「めいちゃん……!」
ああ、なんて優しい良い子なんだ……!!
めいの海より深い慈悲に感涙に咽ぶリク。
そんな彼に未悠はジト目を向ける。
「めいちゃんダメよー。甘やかすといいことないんだから」
「うーん……。それはそうですね。反省はしてもらいたいです」
「本当ごめんて! この埋め合わせは必ずさせて戴きますから!!」
「ふうん? めいちゃん聞いた?」
「はい、確かに聞きました」
「じゃあ、早速かき氷のお店に行きましょうか? 限定のやつ残ってるかしら」
「わたし、イチゴ味のかき氷がいいです」
「もちろん奢ります! 奢らせて戴きます!!」
正座のまま財布を差し出してくるリク。そんな彼に、未悠とめいは顔を見合わせて笑った。
「私の限定フルーツ特盛かき氷ーーーー!!」
「本当に申し訳ございません……」
通りに響き渡る未悠の声。本日二度目の土下座をするリク。
浜辺での反省会の後、3人は仲良く店に向かったのだが……未悠のお目当ての限定のかき氷は見事に売れ切れてしまっていた。
まあ、限定ですし。
おいしいと評判でしたし。
完全に出遅れたから正直売り切れているかもとは思っていたけれど……!!
でも、この限定スイーツが食べたいという気持ちはどこにやればいいのかーーーー!!!
うわーーーん! ばかーーーー!!
「未悠さん、元気出してください……」
激しく落ち込む未悠の背をよしよしと撫でるめい。未悠は顔を上げるとキッとリクを睨む。
「……埋め合わせするって言ったわよね」
「はい。言いました」
「よろしい。じゃあ、お買い物に付き合って貰おうかしら。お支払いは当然全部リクくんね?」
「それでお嬢様たちの気が晴れるなら……」
覚悟が完了したのか悲壮な顔をしているリク。満足そうに頷く未悠に、めいが慌てる。
「未悠さん……! いいんですか? 流石にリクさん可哀想なんじゃ……」
「いいのいいの。可愛い乙女心を踏み躙ったツケを払って貰いましょう。あ、そうだ。めいちゃん。リクくんに服選んで貰ったら?」
「えっ……?」
「リクくんの好み聞き出すいいチャンスよ。協力するから!」
「えっ。えっ。あの、リクさんはお兄ちゃんですから……!」
「ハイハイ。そうね。そういうことにしておきましょうか」
耳まで赤くなっているめいに優しい笑みを返す未悠。
ああ、いいなあ。私もあの人に会いたいな――なんて思いながら、可愛い弟と妹を店へと追い立てた。
余談:リクくんの懐は重傷になりました。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka3199/高瀬 未悠/女/20/厳しいお姉さん
ka0038/キヅカ・リク/男/20/女難の相が出ています
ka0669/羊谷 めい/女/15/可愛い妹
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。
お届けまでお時間頂戴してしまい、申し訳ありませんでした。
リクくんの女難のお話、いかがでしたでしょうか。少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
とりあえずリクくんはばくはつすればいいと思いました!
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。
ご依頼戴きありがとうございました。