※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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キャンセルからはじまる
「え? 手違い、ですか?」
雑貨店の店先で高瀬 未悠(ka3199)は、朝露に濡れた果実のごとく美しく輝く赤い瞳を丸くした。どっしりと恰幅の良い店主が、その大きな体を窮屈そうに縮めていかにも申し訳なさそうに眉を下げる。
「本当にすまない……、依頼を取り下げてもらうようにと、うちの従業員を使いに出したんだが、あいつ、むしろ依頼の数を増やしてきちまいやがって……」
大口で注文を受けた穀物を運搬する馬車の護衛、が本日の未悠の仕事のはずだった。しかし、運搬の日程が変わり、店主としては依頼を取り消したつもりだったらしい。ところがそこで手違いがあったそうなのだ。
「だから、朝から来るハンター来るハンターに謝り通しで……」
「それはそれは……、むしろ災難でしたね。私のことは、気にしないでください」
未悠は店主を気遣ってその場を離れた。
「うーん、でも、これからどうしようかしら」
特に金銭的に困っていたわけでもなくなんとなく受けた依頼だったため、依頼がなくなったことはさして残念でもないのだが、ぽっかりと予定が開いてしまった。仕方がないから、街をぶらぶらしてケーキでも食べて帰ろうかしら、などと考えていたら。
「ねえ、お姉さん。一緒に遊ばない?」
突然、後ろから声がかかった。ヘタなナンパだわ、と呆れながら振り返ると。
「お姉さんもドタキャンされちゃったんでしょ? 見てたわ。私もなの」
そこに立っていたのは、十五歳ほどの、小柄な少女だった。
あたたかそうなふわふわのマフラー、仕立てのしっかりしたコート、カラフルなアクセサリー……、ショーウィンドウやガラスケースに並ぶそうしたアイテムに、少女はきらきらした眼差しを向けてはしゃいだ。
「お姉さん、今度はこっちのお店に入っていい?」
「ええ、もちろん」
突然ナンパされて驚いたものの、こんな可愛い女の子なら大歓迎だわ、と未悠はこの初対面の少女につきあうことにした。お買い物がしたいの、という少女が駆けてゆくままに、未悠も様々な店に入った。突然妹ができたみたい、と未悠はこっそり笑う。普段親しくしている友人たちの中にも、まるで妹のように思っている子がいるけれど、とそんなことも思いながら。
(ああ、折角だからお土産でも買って行こうかしら)
個性豊かな友人たちの顔を思い浮かべながら、未悠はつやつやしたリボンで飾られた髪留めを手に取った。
「ねえ、お姉さん、それよりもこっちの方がお姉さんに似合うんじゃない?」
少女が大きな花のモチーフが組み合わされたカチューシャを差し出す。
「あら、素敵! ふふふ、でも、私が自分でつけるためのものを探していたわけじゃないのよ」
「え、そうなの?」
「ええ。お友だちにね、選んでいたの」
「……お友だち、かあ……」
少女の目が、すっと寂しげになった。未悠は目を見開く。
「そうだよね……、お友だち同士ってさ、そうやって、お互いに似合うものを選び合ったりするものだよね……」
「……ねえ、さっき、ドタキャンされたって言ってたわよね。もしかして、お友だちに?」
うつむいてしまった少女の目を優しく覗き込むようにして未悠が問うと、少女はこくりと頷いた。
「そう……、じゃ、私と、似合うものを選び合いましょう。それでどう?」
「いいの!?」
「ええ。私たち、ドタキャン仲間ですもの」
悪戯っぽく笑ってみせると、少女もうつむいた顔を上げてくすくすと笑った。
「お姉さん、じゃあ、これはどう? さっきのカチューシャも似合うと思うけど、これも素敵だと思うの!」
「あら、いい色のストールね。あなたにはこっちはどうかしら」
「きゃーっ、可愛い靴!!」
ふたりは、先ほどよりも一層はしゃいで、お互いに似合う服やアクセサリーを選んでまわった。
けれど結局、少女は何も買わなかった。未悠の方は、自分のものや友人たちへのものを含めてかなり買い物をしてしまったのだけれど。
「私が選んだものは、気に入らなかった?」
街を離れ、日が陰り出した道を歩き、遠慮がちに未悠が尋ねると、少女は勢いよく首を横に振る。
「そんなことないわ、全部素敵だったし、とっても気に入ったわ。……でも、ごめんなさい。私は、持って行けないから」
「え?」
どういうこと、と未悠が問いかけようとすると、少女は突然、道の先へタタタッと駆けて行った。暮れてゆく空を背に、くるりと振り向くと、満面の笑みを未悠に見せる。
「ありがとう、お姉さん。私これで、楽しい思い出と一緒に逝けそうよ。……お姉さん、お友だちと、仲良くね」
満面の笑みのまま、少女は、溶けるように、消えた。
未悠は、夕日に照らされた果実のごとく美しく輝く赤い瞳を丸くして、それを見送った。ええ、仲良くするわ、と胸の内で、呟いた。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3199/高瀬 未悠/女性/20/霊闘士(ベルセルク)】
【ゲストNPC/少女】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ごきげんいかがでございましょうか。紺堂でございます。
このたびはご用命いただき、ありがとうございました。高瀬さんの、凛とした美しさと柔らかな頼もしさをどう描こうかといろいろ考えるのはとても楽しいひとときでした。
女の子同士のお買い物というのは、とても心温まる光景だよなあ、などと勝手にうきうきしながら書かせていただきました。
お気に召すものになっていればよいのですが……。
日々の活動に、色を添える物語になっていますように。