※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。 戯れる花の香 ● 甲高い鳥の声が高い空から響き渡る。 鵤はその声に薄く目を開いた。 「朝も早いうちから、勤勉なこった……えっくしっ!」 恨み言と一緒に、思わずくしゃみが出る。それで目が覚めてしまった。 甲羅から首を伸ばす亀のように、布団から顔だけをできる限り伸ばして、窓を見る。 締め切ったカーテンの隙間から差す太陽の光の角度は、すでに昼が近いことを告げていた。 「朝早いって訳でもないようだねぇ……よっこらしょっと」 ゆっくり身体を起こし、欠伸と共に伸びをする。 それから思い切り手を伸ばして、少し離れた場所に置いてあった灰皿と煙草の箱を引き寄せた。 布団の上で胡坐をかいて、箱にねじ込んだ安ライターで煙草に火を点け、天井に向けて紫煙を吐き出す。 まるで起床の儀式のように、鵤は靄の中に佇んでいた。 ぼんやりと煙草を燻らせていると、少しずつ昨夜の記憶がよみがえってくる。 「うんうん、昨夜はちゃんと家に帰ってきて、布団までたどり着いたみたいだねぇ。感心感心」 久々に参加した仕事の帰りに、報酬で行きつけの店に立ち寄った。 たまったツケの一部としていくらか没収はされたが、一応は飲ませてくれた。 それで楽しく酔っ払って帰ってきて、そのまま布団に転がったのが、最後の記憶だ。 服も当然ながらそのままである。 だが今回はちゃんと財布も煙草も身につけているので、何ら問題ない。――鵤基準で、の話だが。 「まあいつも通りってことだ」 ボリボリと頭を掻くと、煙草を消して立ち上がる。 それから暫く、さほど広くもない家の中を、鵤はうろつきまわっていた。 その結果、分かったことは――。 「ありゃあ。買い置きの酒が1本もないって、こりゃ大ショックだよ」 まあ当然ながら、買っていない物は存在しない。 「どうすっかねぇ」 普通なら、また寝てしまうという方法もなくはない。 だが、鵤には酒がどうしても必要だった。 それは嗜好品としてではなく、ほとんど「まともに動く」ための必需品と言っていい。 そしてこの世界には、御用聞きも、ネットショッピングも存在しない。 鵤は暫く、誰か知り合いが家にやってくることを念じてみた。 だが逆に念を送られるような気がして、すぐにやめる。 「自分で買いに行くしかないだろうねぇ」 ちょうど煙草も心もとない。鵤は諦めて、外に出ることにした。 ● よれた白衣を羽織り、サンダルをひっかけたいつも通りの姿で玄関を出る。 と同時に、吹き付けてきた風に思わず身体を縮めた。 「うおっ、ナニコレ!?」 昨日まで暖かかったのが、急に冷え込んでいた。 さすがにこのままでは、酒屋にたどり着く前に行き倒れてしまうだろう。 部屋に駆け戻ると、マントのようなストールのような謎のウールの布をぐるぐる巻きつけ、改めて歩き出す。 午前中に外に出ることが稀な鵤の目に、冬の煌めく日差しが眩かった。 「おっさん、こんな綺麗な光にさらされたら溶けちゃうよ」 へらりと笑い、角を曲がった。 その瞬間、二日酔いに濁った鵤の目に、鋭い光が奔る。 「この香りは……」 足を止め、すぐ傍の雑木林を見る。 思った通り、頼りなげな細い木に、薄黄色の花がぽつぽつと咲いていた。 蝋梅だ。 誰かが植えたか鳥が種を運んだか、この世界には珍しい花だ。 木は枯れ木のようだし、小さく目立たない地味な花だが、独特の香りは冬の空気の中で凛とした気品を感じさせる。 鵤はその場に立ち止まると、ぎゅっと眉を寄せ、額に手を当てる。 花の香りに呼び覚まされた記憶が、頭を締め付けるようだった。 ――苦悶の叫び、痙攣しながら弓なりに反る身体。 傍らで黙って一部始終を見届ける、感情を一切なくした冷たい瞳。 それは鵤自身の姿だった。 持てる能力の全てを組織に捧げ、考えることをやめ、駒であることを生きる意味としていた頃の自分の姿。 花も草も木も、薬物としての価値しか持たない。 嗅覚も視覚も味覚も、センサーとしての意味しか持たない。 その頃の――。 鵤が大きく息を吐く。 「あーやだやだ。おっさん、これでも結構繊細なのよねぇ」 声を出すことで、現実の自分を取り戻す。 普段は忘れている記憶を、香りは否応なしに引きずり出す。 あの可憐な花を咲かせる木に含まれる毒が、人を死に至らしめることがあるように。 優しい香りが人の心を引き裂くこともあるのだ。 「まぁ、花に罪はないんだよねぇ」 鵤は再び歩き出す。 彼の背中を、薄黄色の花の香りが追ってくるのを感じながら。 香りはどこまでもどこまでもついてきた。 白衣の裾を、ぼさぼさの髪を、躍らせる風に乗って。 鵤には、もうそれが現実の香りなのかどうかすらわからなかった。 「今日はちょいと、いつもと違う酒でも買ってみるかねぇ」 この香りを追いやるほどに、強い香りの酒を。 それでも酔って眠るまでには、かなりの時間がかかりそうだった。 ━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・ 登┃場┃人┃物┃一┃覧┃ ━┛━┛━┛━┛━┛━┛ 【 ka3319 / 鵤 / 男性 / 44 / 人間(リアルブルー) / 機導師 】 ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃ ━┛━┛━┛━┛━┛━┛ この度のご依頼、誠にありがとうございます。 字数の限り、おっさんの生態を描写してみました。大きく間違っていなければいいのですが、如何でしょうか。 もしお気に召しましたら、幸いです。 シリアス1 ギャグ0 ほのぼの0 泣ける0 発注者:キャラクター情報 鵤(ka3319) 副発注者(最大10名) クリエイター:樹シロカ 商品:おまかせノベル 納品日:2018/12/27 09:53