※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。


 カコンッ!
「――!」

(なぁーんかぐずぐず煩いねえ)
 聞こえてくる物音は2種類。
 複数の人々が耐えきれないと示すかのように、ずいぶんと悲嘆に暮れている。
 もう片方の音は……
(金属っぽいー?)
 軽い音で、聞き覚えはある。
(人の方はまぁったく覚えがないのにねぇ?)
 名前を呼ばれているようだが。
(普通はさぁー、知ってる声で、知らない物音ってもんじゃないのおー?)

 鵤の状況はそれ以前の問題だ。
(やっぱり直視しなきゃ駄目?)
 見えないのに直視とは?
 そう、見えない。
 物音はずっと聞こえ続けているのだが。
(あーーーーー! ……やっぱりーぃ?)
 声も出ない。
 頭の中に直接響くと言えばいいのか。大声を意識すればするほど反響する。
(そんで極め付けはこれだよねぇ)
 手や足を動かせない。
 どんなに認識しようとしても、身体があるような気がしない……五体が揃っている気がしない。
 聞こえるのだから、耳はあると思うのだが、それも確証が持てない。
(耳だけ残ってるとか、意味不明なんですけどぉ)
 考えることは出来ているし、脳もちゃんとあるかもしれない。
 多分生きているのだから、心臓もあるだろう。
(死んでるってわけじゃないと思うんだけどねぇ)
 どれほど待っても痛みが来ないので、確信はできない。
 痛くない、と言うのがどれだけの意味をもたらすのか。

(考えたくは……ないわけでもないけどぉ?)
 やっと限界が来てくれたか。思考を言葉にするなら、そんなところだ。
 胸の内の片隅辺りで、安堵があるのを自覚している。
 生きることに飽きてきたわけではないが、面倒に感じているのも事実だ。
(命の水もーケムリもー、美味しいけどねーぇ?)
 楽しめるうちは楽しむ。
 同時に、いつ終わってもいいと思っている。
(最後に呑んだ分はー、あっるぇ、ツケた覚えしかなぁーい!)
 こうなったわけだから払わないで済むしいいか、なんてほくそ笑……むことは出来ないが、気分だけ。

 カァンッ!
「!! ――ッ!」

 物音は途切れる様子を見せない。
 そして自分の状態はどういうことなのか、やっぱり答えは見いだせない。
(植物状態なら、もーちょいと、触覚くらい残っててもいいと思うんだけどー?)
 接触さえ忌避される状態で発見されたとか? ……あり得そうだ?

 ガンッ!
「!!! ッ! !!!」

 今まで以上に大きな音と共に、怒声が響く。
(なにあれーおっさん恨まれるほど頑張っちゃったっけぇ?)
 くわばらくわばら。このまま静かに眠らせてくれないかなんて祈ってみる。
(……ぇ)
 なぜか。
(えぇー……いやそこは死にかけのおっさんに無茶させないとこでしょー?)
 祈りに反応するなんて皮肉だが、マテリアルである。マテリアルが扱えることに気付いてしまったのである。
 つまり覚醒できるということで。
 重傷だとか瀕死だとか、そういう状態とは別物だということで。
(おっさんがっかりなんだけどぉ?)
 このまま眠っていいかもなんて思っていたのに。
 しかし、このまま誰にも気づかれないままだと、餓死は確実である。未だにお腹が自分にあるのかは知らないけれど。
 痛みがないよりキツそうだ。おっさんは厳しいのが嫌いだが、キツイのも嫌いである。
 生きているなら、酒も飯も楽しみたいのである。
(んーんー……? まーいけそうかもー)
 大きな音になるくらいではないと難しそうだが。
 術式を思い浮かべて練り上げる。
(こりゃ本当にエヌマ・エリシュもあるってか)
 多分、ものすごく傍に。
(病人の傍に置くーぅ? 一緒に弔われてるってことー?)
 あり得そうだ。燃やされるのも勘弁である。
(痛くなくてもさぁー……)
 じっくりと練り上げたおかげで満足のいく出来だ。自分の身体がどうなっているか次第でもあるが。あの音の原因を攻撃と認識出来れば多分。

 ガンッ!

(かかったぁー♪)
 鏡のような障壁はそれだけで目立つはずだったが、周囲は気付いていなかったらしい。疑問は残るが、企みは成功したのだ、問題ない。

 ガラガラガララララッラァアアアー!!!

「「「おっ、おっさんが、暴飲スライムになって蘇ったー!?!?!?」」」

(えっなにそれぇー?)
 急に視界が開けた。
 崩れ落ちている周囲の缶ビールの山。弾き飛ばされた衝撃でヒビが入り、こぼれだしているものもある。
(もったいなぁーい!)
 慌てて拾おうと考えれば、緑がかった触手が無数に伸びて、ひょいひょいと拾い上げて近くに寄せて来る。
「ぷにょ~にょっにょぷにょ♪」
 便利だと笑ったつもりの鵤の耳が捉えたのは、いつかの記憶にあった声であった。

 ……Zzz

「っていう夢みてさぁー?」
 バシバシと、相席した呑み仲間の背を叩くのは鵤。
「おっさん中心に缶ビールピラミッドで弔うとか、おっさんどう思われてんのって話だよねぇ?」
 スライムになっていたのはどうでもいいらしい。
 あー今日もお酒がすすむぅー♪

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3319/鵤/男/44歳/酒機導師/クスリ切れで溶けたんじゃなーい?】
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
(ka3319)
副発注者(最大10名)
クリエイター:石田まきば
商品:おまかせノベル

納品日:2019/01/15 10:37