※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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戯れる花の香
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甲高い鳥の声が高い空から響き渡る。
鵤はその声に薄く目を開いた。
「朝も早いうちから、勤勉なこった……えっくしっ!」
恨み言と一緒に、思わずくしゃみが出る。それで目が覚めてしまった。
甲羅から首を伸ばす亀のように、布団から顔だけをできる限り伸ばして、窓を見る。
締め切ったカーテンの隙間から差す太陽の光の角度は、すでに昼が近いことを告げていた。
「朝早いって訳でもないようだねぇ……よっこらしょっと」
ゆっくり身体を起こし、欠伸と共に伸びをする。
それから思い切り手を伸ばして、少し離れた場所に置いてあった灰皿と煙草の箱を引き寄せた。
布団の上で胡坐をかいて、箱にねじ込んだ安ライターで煙草に火を点け、天井に向けて紫煙を吐き出す。
まるで起床の儀式のように、鵤は靄の中に佇んでいた。
ぼんやりと煙草を燻らせていると、少しずつ昨夜の記憶がよみがえってくる。
「うんうん、昨夜はちゃんと家に帰ってきて、布団までたどり着いたみたいだねぇ。感心感心」
久々に参加した仕事の帰りに、報酬で行きつけの店に立ち寄った。
たまったツケの一部としていくらか没収はされたが、一応は飲ませてくれた。
それで楽しく酔っ払って帰ってきて、そのまま布団に転がったのが、最後の記憶だ。
服も当然ながらそのままである。
だが今回はちゃんと財布も煙草も身につけているので、何ら問題ない。――鵤基準で、の話だが。
「まあいつも通りってことだ」
ボリボリと頭を掻くと、煙草を消して立ち上がる。
それから暫く、さほど広くもない家の中を、鵤はうろつきまわっていた。
その結果、分かったことは――。
「ありゃあ。買い置きの酒が1本もないって、こりゃ大ショックだよ」
まあ当然ながら、買っていない物は存在しない。
「どうすっかねぇ」
普通なら、また寝てしまうという方法もなくはない。
だが、鵤には酒がどうしても必要だった。
それは嗜好品としてではなく、ほとんど「まともに動く」ための必需品と言っていい。
そしてこの世界には、御用聞きも、ネットショッピングも存在しない。
鵤は暫く、誰か知り合いが家にやってくることを念じてみた。
だが逆に念を送られるような気がして、すぐにやめる。
「自分で買いに行くしかないだろうねぇ」
ちょうど煙草も心もとない。鵤は諦めて、外に出ることにした。
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よれた白衣を羽織り、サンダルをひっかけたいつも通りの姿で玄関を出る。
と同時に、吹き付けてきた風に思わず身体を縮めた。
「うおっ、ナニコレ!?」
昨日まで暖かかったのが、急に冷え込んでいた。
さすがにこのままでは、酒屋にたどり着く前に行き倒れてしまうだろう。
部屋に駆け戻ると、マントのようなストールのような謎のウールの布をぐるぐる巻きつけ、改めて歩き出す。
午前中に外に出ることが稀な鵤の目に、冬の煌めく日差しが眩かった。
「おっさん、こんな綺麗な光にさらされたら溶けちゃうよ」
へらりと笑い、角を曲がった。
その瞬間、二日酔いに濁った鵤の目に、鋭い光が奔る。
「この香りは……」
足を止め、すぐ傍の雑木林を見る。
思った通り、頼りなげな細い木に、薄黄色の花がぽつぽつと咲いていた。
蝋梅だ。
誰かが植えたか鳥が種を運んだか、この世界には珍しい花だ。
木は枯れ木のようだし、小さく目立たない地味な花だが、独特の香りは冬の空気の中で凛とした気品を感じさせる。
鵤はその場に立ち止まると、ぎゅっと眉を寄せ、額に手を当てる。
花の香りに呼び覚まされた記憶が、頭を締め付けるようだった。
――苦悶の叫び、痙攣しながら弓なりに反る身体。
傍らで黙って一部始終を見届ける、感情を一切なくした冷たい瞳。
それは鵤自身の姿だった。
持てる能力の全てを組織に捧げ、考えることをやめ、駒であることを生きる意味としていた頃の自分の姿。
花も草も木も、薬物としての価値しか持たない。
嗅覚も視覚も味覚も、センサーとしての意味しか持たない。
その頃の――。
鵤が大きく息を吐く。
「あーやだやだ。おっさん、これでも結構繊細なのよねぇ」
声を出すことで、現実の自分を取り戻す。
普段は忘れている記憶を、香りは否応なしに引きずり出す。
あの可憐な花を咲かせる木に含まれる毒が、人を死に至らしめることがあるように。
優しい香りが人の心を引き裂くこともあるのだ。
「まぁ、花に罪はないんだよねぇ」
鵤は再び歩き出す。
彼の背中を、薄黄色の花の香りが追ってくるのを感じながら。
香りはどこまでもどこまでもついてきた。
白衣の裾を、ぼさぼさの髪を、躍らせる風に乗って。
鵤には、もうそれが現実の香りなのかどうかすらわからなかった。
「今日はちょいと、いつもと違う酒でも買ってみるかねぇ」
この香りを追いやるほどに、強い香りの酒を。
それでも酔って眠るまでには、かなりの時間がかかりそうだった。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka3319 / 鵤 / 男性 / 44 / 人間(リアルブルー) / 機導師 】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度のご依頼、誠にありがとうございます。
字数の限り、おっさんの生態を描写してみました。大きく間違っていなければいいのですが、如何でしょうか。
もしお気に召しましたら、幸いです。