※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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■枯れ山の一夜
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乾いた咳が、岩山の間道に響いた。
「大丈夫か、爺さん」
「なぁに、少しむせただけ……ゲホッ」
言い終えぬ間に咳が続き、馬上のJ・D(ka3351)は肩越しに後ろを見やる。
痩せたロバの背に乗る白髪の老人は背を丸めて咳き込み、小柄な身体が更に小さく思えた。
「少し休憩しちゃァどうだ?」
「儂は構わん。時間もない」
老人は日暮れまでに、岩山の峠を越えたいらしい。
それに関しては、J・Dも異論なかった。
ただ、ほとんど使われていない間道を通る必要があるかと言えば、疑問だ。
老人から声をかけられたのは、たまたま食事に立ち寄ったふもとの酒場。
山越えの護衛を頼みたいが、一人分しか金はないという。
強盗団か何かの誘い出しかと疑ったものの、話してみると只の老人だった。
……達観に似た厭世感と張り詰めた奇妙な緊張が、僅かに感じられたが。
前金を払った老人はJ・Dの足にと馬を借り、ロバに繋いだ荷車を置いてきた。
売ったか、馬を借りる担保にしたかは分からない。
最初は他愛もない世間話をしたが、道が険しくなるにつれて会話も減った。
話題がないのもあるし、物騒なモノを呼び寄せない為でもある。
「あの間道、獣だか亜人だかが出るって噂もあって使う奴は少ねぇ。雇われとはいえ、兄ちゃんも気を付けてな」
馬貸しの男は、そんな忠告を寄こした。
来てみれば草木が少ない岩ばかりの土地、確かに飢えた獣が出てもおかしくねえとJ・Dは注意を払う。
やがて峠に差しかかる辺りで、不意に老人が切り出した。
「すまんが、護衛はここまでだ」
「山のど真ん中じゃァねえか」
馬を止めて振り返ると、既に老人はロバを降りかけている。
「来た道を戻るも向こうへ下るも、好きにするがええ。今なら道を見失う前に、山を下れる。一人なら下山も早い」
しかし、J・Dは馬上で唸った。
「残って、あんたはどうすんだ」
「どうもせん。ほら、お前も行っちまえ」
追い立てるようにロバの尻を老人が叩く。
数歩進んでロバは足を止め、頭を上下させた。
「全く、ロバまで困ってらァな。よもや、ここから身投げってことはあるめェな?」
返事の代わりに、再び老人は咳き込む。
ひとしきり咳をしてから、大きく息を吐き。
「先に金は払ったし、仕事は仕舞いだ。後は放っといてくれ」
「爺さんよぅ」
「青臭ぇ連中みたいに説教を垂れようとか思わんでいい。暗くなる前に、とっとと帰れ」
老人は彼を見ようともせず、追い払うようにシッシと手を振る。
「儂は一晩、ここで夜明かししたいだけじゃ」
そして細く荒れた山道の崖側に、どっかりと座り込んだ。
テコでも動きそうにない曲がった背にJ・Dは嘆息し、仕方なく馬の手綱を引いた。
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獣除けと暖を取る為、岩陰で小さな火を焚く。
それからJ・Dはデリンジャーを取り出し、装填された弾丸を確かめた。
飼葉もなく与えられる水も僅かだが、二頭の獣は逃げようとしない。
視線を動かせば、老いた丸い背が微かな火に照らされていた。
日は既に落ち、空には一面の星と欠けた月が浮かぶ。
急に馬が不安げに頭を振り、落ち着きなく耳を動かした。
ロバはじっとしているが、やはり何かを聞き取ろうとしている。
静かにJ・Dは馬の首を撫で、燃える薪を一本取り。
火のついた枝を、闇へ投げた。
弧を描く明かりに、矮小な亜人達の影が踊り。
くぐもった、「ギャッギャ」という複数の声が慌てる。
パンッ。
乾いた音と同時に、飛び跳ねるゴブリンの一匹が闇へ弾け飛んだ。
驚いた老人が振り返る間も銃声は続き、次々と亜人を撃ち抜いていく。
焚き火の傍らに射撃手の姿はない。
ただ銃声一発ごとに、断末魔が一つ上がった。
しかし、亜人も全くの馬鹿ではない。
飛び道具は、いずれ弾が尽きる事くらい知っている。
七発目の銃声の後、射撃手は構えた銃を下げ。
その隙に合わせ、錆びた鉈を手に亜人が飛びかかった。
狩ったと思った次の瞬間、闇から新たな黒い銃口がぬっと現れ。
タンッ!
炸裂音と同時に、襲撃者の意識も吹き飛んだ。
それが、群れのボスだったのだろう。
残った亜人達は錯乱して逃げ出し、崖を転げ落ちる悲鳴まで聞こえた。
山が静寂を取り戻してからJ・Dは弾丸を再装填し、二丁の銃をホルスターへ納める。
「邪魔したな、爺さん」
「いや。大した腕だよ、お前さん」
答える老人の声は、日没前よりも幾らか人間味を帯びていた。
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夜明けを待ち、二人と二頭は山を下る。
「死んでも構わんと、儂は思ったんだがな。まだ来るなと、息子が言っとるらしい」
「そうかい」
深くは問わないが、その場で命を絶つ気なら他の選択もあった筈だ。
短い襲撃を経て、老人の中で何かが変わったのだろうが……それはJ・Dの与り知らぬこと。
ただ一つだけ、言っておかねばならない事があった。
「帰りァ別料金だからな」
冷たい空気に、咳混じりの笑い声が響いた。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【PCID / 名前 / 性別 / 外見年齢 / 種族 / クラス】
【ka3351/J・D/男/26/エルフ/猟撃士(イェーガー)】